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イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~  作者: ニーガタ
第二章・七人の侍編

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読み切り『選ばれしキノコ狩りの賢者たち』

こんなタイミングで、ギャグのみの読み切りです。

「それにしてもシュルケンさんって、草花に詳しいんですね。こんな普通の野原に食べられるものがたくさんあるなんて、知りませんでした」


 香月はシュルケンと共に、河川敷(かせんじき)の東詰め、鉄橋の下に群生(ぐんせい)する水辺の草を集めていた。大きく葉の茂ったオランダガラシ=クレソンだ。ステーキの端でオシャレに添えられているようなモノではない。太くたくましく育った、野生のクレソンだ。


「いやはや。忍びにとっては、基本の知識でござるよ。忍びは一度山中にこもれば、1週間2週間と、その辺のもので生き延びねばなりませんゆえ。煙を立ててれば敵に見つかるもので、生食できるものとして果実や木の実もござる。それから毒のあるモノの見分け方は大事でござるよ?」

「毒性植物ですね。それなら私もいくつかは知ってます。ですが、そんな毒草も、使いようでは薬にもなるんです」

「さすがカヅキ殿でござるな。それが医者の心得、食のすべては毒にもなり薬にもなる。その通りでござるよ」


 2人は腰をかがめ、スーパーの袋に野草を摘んでゆく。


「この時期、山手へ向かえばキノコの時期なのでござるが」


 何気なくこぼしたシュルケンへ、香月が興味を見せた。


「それ、一緒に取りに行きませんか? 私もこの世界のこと、もっと知りたいんです――」



 そんな訳で土曜日。キノコ狩りとなった。

 メンバーは香月とシュルケン。料理長ユルエと、彼女が誘った花音も加わった。それと、ダックスも。


「雨上がりの3日後につき、足元のぬかるみには細心の注意で挑むでござるよ。ただし時分(じぶん)としては申し分のない天気でござる。何か見つければ、拙者に教えてくれればよいでござるからにして。それで、行先でござるが――」


 そこにはダックスを連れた花音が控えめに提言した。


「小学校の裏山とかダメかな。春先とか、野草集めのお婆さんたちとかいるし」

「ふむ。現地の一般人が踏み込んでいるということは、危険も少ないでござろうな。カノン殿、案内の方よろしいでござるか?」

「いいけど。シュルケンさんヘンな格好なんで、ちょっと離れてついてきてください。友達に見られると嫌だし」

「ぎょ……御意に」


 女性の言葉で軽く(へこ)むのは、彼も慣れてきていた。


 歩いてほんの30分。静かなベッドタウンであるこの地にも、近代開発地なので自然は多い。花音が示した学校の裏山へは彼女の指示通り、皆がこっそりと忍び込んだ。少し傾斜の高い山道をガサゴソと歩き進めれば、木漏れ日の射す雑木林(ぞうきばやし)が広がっていた。


「おお、もう立派なヒラタケが生えてござるな。確かにここならば収穫がありそうですぞ。皆、何か見つければ拙者のところへ持って来ていただきたい――」


 そんな感じで、4人のキノコ狩りが始まる。それぞれに、あちらこちらでしゃがみこむ姿を見せ始める。

 さっそくユルエが、


「ケンケン! これ! シイタケいっぱい!」

「ユルエ殿。これはシイタケに似てござるが、猛毒のツキヨタケにござる。夜になると薄っすらと光を放って分かりやすいのでござるが。まずはお気をつけを」

「へー。光るキノコ、なんかスゴイ。渡辺に教えとこ」



 散策から10分。香月はシュルケンと共に行動している。

「似ているようで、少しずつ違うんですね」

「いかにも。キノコは成長が早いものでござるから、カサが開く前と後では様子も違って見えるでござる。早取りが美味しい場合もあり、育つのを待つ方がいいモノもござるよ」

「育つのを待つ、ですか」


 続いて、ダックスを連れた花音が足元を気にしながらやってきた。


「カノン殿。滑ると危ないでござるからにして。急がず」

「うん、大丈夫。で、これって食べれるヤツ? あっちにいっぱい生えてたけど」

「見事なマイタケでござるな。これは、ひと箇所に群生しておることが多いので、付近のモノ含めて収穫するとよいでござるよ」

「そうなんだ。じゃあ、もっと取ってくる」



 香月へ野草の説明をしていたところに、ユルエが大声で走ってきた。


「ケンケン! カッコイイの見つけた!」

「ユルエ殿――。それはテングタケでござる。見た目はよいのでござるが、やはり猛毒でござるよ。忍びの中では強い焼酎に漬けて強力な毒薬にも使うモノでござる。しかし、今は不要のモノ」

「そっかあ。じゃ、また何か探してくる」


 一般に、キノコ狩りには向き不向きがある。センスというのか、『取るものすべてが毒キノコ』という人間がいる。それがユルエなのだろう。


 また、花音がやってくる。どこか弱った顔をしている。


「シュルケンさん――」

「カノン殿、どうしたでござるか?」

「なんかダックスが一生けんめい掘り始めたんだけど」

「ダックス殿が? ちょっと参りましょうか」


「ワム! ワムワム!」


 花音が指す方を見れば、確かにダックスが懸命に木の根元を掘っている。木は赤松でもないので、マツタケという訳でもない。ダックスの普段の素行から考えて、内心あまり期待していなかったシュルケンだったが。

 

「ダックス殿、何をそんなに興奮してござる。そんな地中にキノコは――」


 と、そこでダックスの掘り出したものを見てシュルケンが目を見張った。一度目をこすり、眉に唾をつけた。それからもう一度、掘り出されたキノコらしいモノを恐る恐る手に取った。被った土を丁寧に払ってゆくと、(かいこ)(まゆ)のような白が目に入った。


「これは――大事(おおごと)でござるよカノン殿」

「え? すごいの?」

「『カイコダケ』――拙者も生えているモノを見るのは初めてでござる。丁寧に十月十日(とつきとおか)、静かに陰干しをしてふたたび土に戻すと、霊樹(れいじゅ)が生えてくるという……」

「生えてくると?」


 シュルケンの肩越し、邪気(じゃき)もなく覗きこんだのは香月だ。


「はい。霊樹にはたった一枚、十六夜(いざよい)の夜に緑の葉が生えると申します。その葉は一枚きりで、一晩で枯れてしまうというのでござるが。(うそ)(まこと)か、生えたばかりのその葉には、死者を生き返らせる力があるという伝説が……」


 死者を生き返らせる――。その言葉に動揺を受けたのは香月だ。


「そんな! 本当なんですか!?」


 するとシュルケンが申し訳なさそうに、


「いやはや、そういう伝説があるだけでござって。拙者もそんなモノは見たことがないでござるよ。その昔、見つけた知人が大騒ぎで育ててみたところ、立派なカブトムシが這い出てきたらしいでござる」


 一同でため息をついていたところに、


「ケンケン! すごいの見つけた! チョー立派なんだけど!」


 ユルエの手には太い軸を持つ、肉厚のシイタケのようなキノコが握られていた。


「ユルエ殿……猛毒のオオワライタケでござる。決して、持ち帰らぬように……」




~沢渡家~


「お前、キノコなんか取りに行ってたのか」

「うん。でね、ユルエさんがお鍋にしようって」

「へえ、美味しそうだな。俺も参加すればよかったかもな」

「……いや、いなくてよかったかも」

「は? なんでだよ」

「それは――――」



 ~回想~


 キノコ狩り一行が浅川の河川敷へ戻ると、巌流とベルモットが退屈そうに向かい合っていた。

 アウトドアテーブルの上には空き缶と、見るからに異様な煙の吹きだすフラスコが見えた。


「お、待てガンリュウ。オレの次の手は中央にビショップだ。そのままで――。おいおめえら、昼メシも作らずにどこ行ってたんだ。ん? なんだその山は?」

「大漁~。キノコの山に行ってたずらよ~」

「キノコか。だったらシャンピニオンバターで、エビでもソテーしてくれるか」


 ベルモットの何やらオシャレな注文は、ユルエに即で却下される。


「ダメダメぇ。こういう時は、お鍋って相場が決まってるの。料理長も手抜きできるし」

「ストーップ!! なんか、やなフラグが見える。そのキノコ、オレにも見せろ」


 身を乗り出した彼女が、採れたてキノコの山を吟味(ぎんみ)し始めた。


「なんだこりゃ! いきなりイージートラップじゃねえか!! シュルケン! お前が引率やったんだろ!? オレでも分かるぞ、毒キノコばっかじゃねえか!!」

「いやはや。食用のモノは別に、こちらにあるでござる。ただ、なぜかユルエ殿が探してくるのは猛毒キノコばかりでござって」

「マジか。ある意味才能だな。まあこれで、『皆で毒キノコ食って大騒ぎ』なんてオチにならずにすむな」


 日中のベルモットは暇があれば、図書館に入り浸っている。学術書の合間(あいま)に読んでいたマンガで、そういう話をいくつか知っていた。


「えー。せっかく後半にそっと紛れ込ませようとか思ってたのにぃ」

「やるな! オメエ、毒キノコの恐ろしさ知らねえだろ! 例えばこれ、『ラフィング・ジム』。ワライタケなんてバカみてえな名前だが、牛一頭殺せるんだぞ? 笑い事じゃねえんだぞ?」

「ぶー。だったらいい。でも、これは私が個人的に使うから。ガンリュウさん、ちょっと空き缶よけてぇ」


 ユルエが手にした一本の毒キノコは、巌流とベルモットがチェスを指していたテーブルの上に置かれた。

 ベルモットが悲鳴を上げる。


「ば、バカか!! そこは簡易魔法陣なんだぞ!! チェスにちょっとしたリアリティを出すための仕掛けが――」


 時すでに遅し。やはり毒キノコを前にしてフラグは避けられなかったようで、騒ぎは静かに始まる。

 巌流も逸早(いちはや)く異様なものを感じたのか、椅子を立ちあがると刀に手をかけた。


「ベル。それで、これからどうなる?」

「どうなるも、こうなるも……。具現化(ぐげんか)だ。猛毒の具現化が始まる……」

 完全に輪を外れているのは香月と花音だ。それだけが不幸中の幸いだったろう。

 テーブルの上では、すでに何かが怪しい輪郭(りんかく)を持ち始めている。


「やべえ! おいシュルケン! 火種(ひだね)はねえか! 早くしろ!」

「ひ、火打石(ひうちいし)ならば! か、カスカスっ!」

「赤の練成マイナスの119!『大規模消火(ブレイズ・ダウン)』!!」


 が、そのカッコよさそうな掛け声は虚しくかき消えた。


「すまぬでござる! 今のは火打石ではなく拙者の(かかと)角質(かくしつ)磨きのための軽石(かるいし)でござった! いま一度!」

「うぎゃあぁ! 間に合わねえぇっ!!」


 ぼわん――と、テーブルの上にはキノコの化け物が現れた。その大きさときたら――30センチメートルだった。それが奇怪な声で喋り始める。


『ぼ、ボク、わるいキノコじゃないよ。食べたらしぬよ。仲間にしてくれたらうれしいなあ』


 オオワライタケに頼りない手足が生えただけの、ゆるキャラのようだった。一気に緊迫感が薄れてゆく。


「きゃあぁ! かわゆす! ねえねえ皆、仲間にしよっ! うん! 仲間にする!」

『わあい。うれしいなあ』

「ユルエ、テメエなに勝手なこと――」


 そのどうでもよくなった光景に胸をなでおろしたのは香月と花音だったが。

 まだフラグは残っていた。


『わあ。こんなところに美味しそうなジュースが。ゴクゴク』


 今度こそ、ベルモットが錯乱した。


「ふんぎゃらあぁああっ!! それはチェスの勝者に与えられる予定だった『勝利の魔酒』!! 毒キノコがそんなもん飲んだら……」


 毒キノコはフラスコの酒を飲み干すと、ぺたりと座り込んだ。


『わあ……おいひいなあ……ぷはあっ……ぶはあっ』


 どこが頬だか分からなかったが、とりあえず赤く染まった顔で、紫色の毒々しい息を吐き始めた。


「ゲホッ……ヤバい……コイツ、見かけはゆるキャラだが猛毒吐きやがる。ガンリュウ! 斬れ! 叩き斬……きいぇ、いぇへへへ……ははっ! ひはははははっ!!」




~沢渡家~


「で……あんまり聞きたくないけど、どうなったんだ」

「ガンリュウさんが『捨て置け』って言って」

「えええっ! 猛毒キノコモンスターを!?」

「ユルエさんが『責任をもって飼うから』って」

「飼う!?」

「名前は『どくっぴ』だって」

「……」

「特技は『どくのいき』だって」

「…………」


 しばらくはテントに寄りつきたくない一二三だった。


     ――完――



いやあ。

なんで、こういうのって筆が進むんでしょう。

では引き続き、本編もよろしくです。

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