37・酒宴
香月は驚嘆した。言葉も出なかった。それが自分の知る『マルズ星』――移住先を探して発見された惑星であれば、この侍たちは自分と同じ次元空間に存在していたことになるのだからと。
「ワシらは、『大転生者』を名乗る者の導きで、由縁もなく集められました。いえ、あったといえば、あったのでしょう。見回せば、一目でそうと分かる強者揃い。しかし、その後はお分かりでありましょう。ワシらは皆、そこで討ち死にした者たちでございます」
そこで、この転生の意味を理解したのは巌流だった。
「さぞかし、無念でござったでしょう。拙者もまた前の世界で、ある勝負に敗れて無念を抱く者……。転生者という者は、そういった過去に遺恨を残す者の生まれ変わりの姿であると――そう考えてよろしいでしょうか」
静かに聞き入っていた卜伝が答える。
「ワシらが皆、この世界に転生してきたのには、そうですのお――剣を極めし者たちの、最期の戦いを命じられた逢瀬――ということで理解してくださいますかな?」
「では」――と、言葉を受けた巌流が組んだ足を正座に変え、頭を下げた。
「では、どうかご享受仕りたい次第でござる。拙者、何の因果か生まれ変わって再び生を受けた者として、あれら化け物を野放しにしておくことはできませぬ。こちらもまた、縁なきが故に縁をもって集った者ども。何卒、道をお示しくださいませ」
卜伝が何かを言いかけたが、緊迫のシーンへ水を差すのは、やはり彼女の他にいなかった。
「えっとさぁ、おにぎりしかできないけど。それでいい?」
侍たちが声を揃えた。
「ぜひとも、馳走になりたく申す!!」
ユルエの塩にぎりとみそ汁を堪能した侍たちは、すっかりと気を許していた。あとに控えるのは、テントそばでの宴会だ。
香月だけでは酒を買えないので、シュルケンが酒屋へ調達に行った。シュルケンは、その怪しい装束であったが、近所の酒屋の常連として馴染みになっていた。『ニンジャさん』として。
ただし、ベルモットだけは知らぬ顔でテントへ向かっていた。一二三といえば、その隙を縫って早々に帰宅した。やはりまた、汗だくの身体で。話は明日にでも聞けばいいと――。
「酒は5升、焼酎も用意したでござる。巌流殿には冷えたビールも」
パシリ――彼の生きた時代にもその言葉があれば、まさしくそれだった。
ところで巌流が古銭商とのやり取りして得た金は、すでに残り5万円ほどにまで減っていた。その話をすると、
「おいおい! そんな抜け道があるのかよ! 俺、一分銀だけど5枚あるぜ?」と、一刀斎。
「私は、あれから使いようのない給金が2両あります。皆はどうですか?」
切れ者っぽい下泉信綱が尋ねると、それぞれが袂や巾着を探った。古銭を集めると、シュルケンが覚えている限りの交換レートで、4LDKの高級マンションが買えるほどの、42枚の古銭だった。
「おいおい、だったら俺たちも屋敷の一つくらい建てようぜ。卜伝さん、どう思う? 蚊に刺されながら寝るのも慣れたが、この時期からの水浴びは、公園の噴水じゃ辛いと思うぜ?」
卜伝があごを擦る。
「それほどの金子になるとは。ふむ――花沢殿にかけ合ってみてもよいかも知れぬな。何やら、ワシらの『ふぁん』らしいからのお。あの大邸宅に及ばずとも、長屋の二続きほどであれば宛がってくれるやも知れぬわ」
「であれば、助かりますな」
「拙者も、そろそろ魔物の肉焼きだけでは飽き飽きしていたでござるからな」
そんな歓談の中で、ユルエはまだ豚キムチを炒めていた。
侍たちのあれこれは別として、女子テントに引っ込んでいるのはベルモットと香月だ。
「フォーミュラ、お前はどう思うんだ」
その名前を呼んでくれるだけで心が癒され始めた香月としては、内心複雑だった。
「転生を二度も経験したと仰る方たちです。懇意になれれば、これからは心強い味方になってくれるんじゃないでしょうか」
「じゃなくてよお。何人か、いけ好かねえのがいるんだよ。怪しいっつうか、隠し事してるとか、挑戦的なヤツが見える。信用はできねえ。お前、そのシステムで調べられるんだろ? アイツらが過去、この世界に存在してたっていうならそうしといてくれ」
そんな彼女の言葉も、香月の耳には入ってこない。『マルズ星」――。老爺の口にした言葉だけが、延々と頭の中で渦を巻くのだった。




