35・七人の侍
一気に新人物が増えましたので、登場人物紹介に追加しておきます。
そして駅前――。
「ガンリュウ殿! ベル殿! 今は拙者がミミズを引きつけてござる!」
二人が駆けつけると、シュルケンがビルの隙間を猛スピードで跳ねていた。忍者の面目躍如といったところだ。幸い、周囲の被害は少ない。人々もほぼ逃げおおせていたが、この期に及んでスマホ撮影している者が見える。その一人に、巨大な黒ミミズが襲いかかった。
「ひ、ひいっ!!」
立ちすくむ青年。そこへ巌流の一閃が走る――。
「おい坊主、逃げるなよ。ここはもう戦場だ。死ぬ気で録画してろ。俺の見せどころをな!」
なおも襲いかかる黒ミミズに巌流は向かってゆく。が、河原で遭遇したミミズのようには斬れない。
(硬いな――。)
「おい、ベル。そっちはどうだ」
「ダメだ! 炎を練成するにも火種がねえ! 壁作るので手いっぱいだ!」
彼女もまた、モンスターの攻撃をかわすので精一杯だ。
シュルケンもビルの上から手裏剣を連投するが、それが一向に当たらない。明後日の方向を目指して飛んでゆくのだ。彼がその人生において手裏剣とクナイが的に命中したのは、たったの4回だ。
そんな苦戦の中、いきなりモノクロの世界に光が射した。天上から降り注いだ光は、ズン! ともドン! とも聞こえる音で地上へ下りた。そこから素早く、7つの光が方々へ散る。
それと共に、黒ミミズの大群は瞬時に消え失せ、街が色を取り戻した。
「一刀斎の奴、また一人で片付けてしまいおって」
そんな棘のある声に、長い白髪の老人が木刀を握って笑った。
「まあ丸田、何にせよ始末すればよいだけの話じゃ。誰が斬っても同じこと」
「しかし卜伝殿。我らも役割は決めているはずです。切り込み隊長だけでの統率命令無視は、いささか勝手が過ぎるでしょう」
そこへ、一刀斎と呼ばれた若侍がヘラヘラと周囲を見回した。
「いいじゃねえか、卜伝の爺さんも言ってるんだしよ。で、さっきのウロチョロ逃げまくってたアイツらは何モンだ? ジャマで仕方なかったぜ?」
その目が、巌流に流し目を送った、しかし、巌流はしかめる顔もなかった。「堂々と構えよ」と、誰かの声が聞こえた気がしたからだ。
とにかく、戦国武将や達人の空気が並々ならない7人が堂々と並んでいる。ほぼ黒を基調とした出で立ちで、皆が勇猛な成りをしている。
「どこの御人であるかは存ぜぬが、助成かたじけない。感謝いたす。手前は巌流と申す。ただの浪人風情ではあるが」
巌流が頭を下げると、不審な声が上がる。まず小柄で細身な、黒い扇子を胸に差した男だ。
「お主、まずまずの兵法者と見受けたが。我らを知らぬと申すか。拙者は丸田蔵人佐長恵。流派はタイ捨流」
そこから自己紹介が続く。
「下泉信綱です。新陰流――」
黒い直垂の冷静そうな男は黒袴で、長い刀を肩に乗せた。
「伊藤一刀斎だ。流派とかは――まあ、どうでもいいだろ」
破れまくった濃い灰色の道着へ、赤い腰巻を無造作に巻いている。
「間壁氏幹と申す」
かなりの巨漢で、背中には様々な武器が担がれている。
「今後の縁はないとして、名だけ名乗っておこう。千葉衆作だ」
血気盛ん、といった若い表情は、今にも斬りかかってきそうだった。
「して、ワシは束原卜伝じゃ。もう隠居した身でのお」
好々爺として長い白髪を後ろでまとめた老人だったが、眼光には鋭いものが見えた。
そして、もう一人。荒々しさだけを漂わせた、左目に黒い眼帯をつけた男がつまらない顔で横を向いている。
「これこれ、重兵衛。挨拶くらいは良いであろう」
「要らぬ」
無精ひげの男は、それ以上を語らなかった。巌流の目には、最も溢れ出る剣気を感じた。刀を交えたくない男――とだけ、寒気と共に感じていた。
と、またしても一刀斎なる人物が、
「おい、アンタらさ。趣味で魔物狩りしてんなら、やめてくんねえかな。足引っ張られると、たまったもんじゃないぜ。最悪、取り逃がしちまったら街は壊滅なんだからよ」
巌流は、目下と思われる人物の言葉遣いを聞き流し、白髪の卜伝という老人にだけ目を向けた。話が通じそうなのは、その一人にしか思えなかった。
「して、卜伝殿。率直にお尋ねしたいことがありまする。あの化け物どもは、いったいで何でございますか。拙者ども、この世界に慣れぬゆえ、お知恵があれば貸していただきたいのですが」
普段は粗野な振る舞いの多い巌流が、身を正して頭を下げた――。




