29・花音、合流
夕方の5時になると、ユルエが食事を作り始める時間だ。
そこへ、ダックスを連れた花音がトボトボ歩いてくるのが一二三には見えた。
「カノン! 大丈夫だったか!? ケガとかしてないか?」
走り寄る兄へ向かって、妹はひたすら重い表情で答える。
「ダックス……返しにきたから。カヅキさんに『ありがとう』って伝えてて」
一二三は、背を向けた妹の腕を咄嗟につかんだ。
「待てよカノン。大事な話がある。お前にとっても本当に大事な話だ。今から家に帰ってこう言え。『今夜は兄ちゃんの友達と、浅川の河原でキャンプしてくる』って。俺も今から母さんに電話しとくから」
「…………」
花音はうつむいて答えない。
「お前の、その手のひらの文字の理由も、もしかしたら分かるかもしれないんだぞ? 消せるかもしれないんだぞ? 頼むから、そうしてくれ。俺の本気のお願いだ」
彼女はそのまま顔を起こさずに呟いた。
「帰って……着替えてくる……」
四人用のテントに皆が入れる訳もなく、表で火を焚いて6人がそれを囲んだ。
「今から、僕の妹が戻ってきます。皆さんには妹に、正直にありのままを話してください。ユルエさんが撮った動画も見せます。それから――」
それから一二三は、フードを目深に被り炎に照らされたブロンドの髪へ向かって告げた。
「ベルモットさん。本当に失礼なお願いだと思うんですが――。妹がこの話を信じるために、ベルモットさんの錬金術を目の前で見せてほしいんです。お願いします、どうにかできませんか」
ベルモットは顔をそむけたが、その顔にフードの黒い影を作ると言った。
「ああ。特大のヤツ、ぶっ放してやるよ――」
花音から、一二三へと連絡が入った。香月の名前を出したら、母親が承諾してくれたと。
20分後だった。背中に通学用のバックパックを担いだ花音が、炎を囲む6人のもとへ、ダックスと一緒に河原へと下りてきた。そして、
「兄ちゃん……。ホントに、この人たちが私のこと助けてくれるの……? ホントにだよ……」
一二三が答える前に、いち早く芝生から腰を上げたのは、香月・フォーミュラだった。
「カノンさん。大丈夫。きっと大丈夫ですよ」
微笑んだ彼女に、周囲が順に答えてゆく。
「ノンちゃん。明日は朝からカレーライスだよ。アタシ、今から仕込むんだから期待してて」
「訳が分からないのは、俺たちも同じだ。まあ一緒にビールでも飲んで話そう」
「ちょっと巌流さん。子どもにお酒なんか飲ませないでください。カノンさん。今は私たちの――あなたのお兄さんのことを信じて」
「拙者は何もできぬかもしれませぬが。そなたの身を護るだけの心は、本気でござるよ」
花音は両拳を握りしめて、大きく力強く頭を下げた。




