28・それも転移
「易々とは信じられんが、それが事実ならば、どうしてそんな化け物がこの世界に現れた。それが分からん。ヒフミ、今までこの世界に、そんな化け物はいなかったんだろう?」
「聞いたこともないです――。何億年とか大昔なら、あったかもしれないですけど」
香月が苦し気に話す。
「もしかすると……もしかしてなんですけど。そういった恐ろしい生物までもが、この地球に異世界転移してきたのかもと。考えたくないですが、そういう可能性もあるかと思うんです」
「じゃあ他にも、まだそんな魔物みたいなのがいるかもしれないって、フォーミュラさんは思うの?」
「そういうことも、否定はできません――」
そこへ騒々しく飛び込んできたのはユルエだ。
「ヒフミン! なんかすごかったよ!? すっごいミミズが暴れてて! アタシもさっき、駅前で見たんだもん!」
何に対してもすぐに興奮するのが彼女だったが、今度ばかりは神妙な表情だった。
一二三も興奮を隠せずにはいられない。
「それで!? それで今はどうなってるの!?」
「だからあ、それを動画で見せようと思って撮ってたんだけど。渡辺とチャット途中でぇ、んで、スマホの電池が切れちゃってぇ。ヒフミン、これって電池どこにあんの? 100均で売ってる?」
「電池って――家に帰れば充電できるけど」
「そんな待ってられないってば! 今すぐ見せたいの! だから電池買ってきて!」
「おい、お前ら集まって何暗い顔してんだ。あとお前の妹、駅前で犬の散歩してたぞ」
ベルモットが退屈そうに戻ってきた。それを聞けば、一二三も平常心を保てなくなる。
「大丈夫でしたか!? カノンは大丈夫なんですか?」
「大丈夫っつうか、犬がションベンしてただけだ」
一刻も早く動きだしたい様子の一二三を見て、香月が静かに割って入った。
「ヒフミさん。それってバッテリー駆動なんですよね?」
「駆動っていうか。充電すればいいだけなんだけど」
「ちょっと貸してみてください。たぶん、できると思うんで」
テントの中には電気が通っていない。一二三は首をかしげたが、香月にスマホを手渡した。彼女はそれを受け取ると、手のひらで覆いながら呟いた。
「A.E.D. レベル1――」
青い光が静電気のようにパチッと弾けるのが見えると、スマホが一瞬震えた気がした。そこでベルモットが彼女を軽く睨む。
「これで、使えると思います」
何が起きたのか分からないまま、一二三はとりあえず戻ってきたスマホの電源を入れてみた。すると、
「充電されてる! これ、どうやって――。いや、とにかくユルエさんの撮った動画を見ましょう!」
一二三が動画再生を始めると、誰もがその画面に見入った。一二三たちにとっては既視感のある白黒の世界で、ワームが暴れていた。
人々は逃げまどい、駅ビルが一つ破壊されたのを食い入るように見ていたのは、やはり一二三と香月と、巌流の三人だ。が、動画は途中で止まった。
「ユルエさん! これ、今もミミズが暴れてるんですか!?」
焦りを押さえきれない彼に、ユルエがのんびりと、不思議顔で答える。
「でもね、そのあとでぇ、パアーって何か光ったと思ったらぁ、でっかいミミズがいなくなってて。でさ、気づいたらビルとか全然壊れてないしぃ? アタシってバカだけど昼間から夢とか見ないし? でも見たでしょ? 信じたでしょ? レーワって、なんかすごくない? でさ、誰がスマホの電池交換したの?」
尋ねたいことはそれぞれ、山のようにあった。ただし、そのためには一晩中をかけて話し合う必要がありそうだ。
一二三はまず母親へ電話を入れたが、花音はダックスを連れて家に帰っているという。ひとまずは安心した彼だった。