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26・花音、覚醒


 一二三は、いい加減に疲れ果てて家へ帰りついた。


(なんだよもう。僕にどうしろっていうんだ……)


 夏休みも残り十日――。

 始まった集団テント生活――。この数日、訳の分からない連中に翻弄されて、ようやくすべてを収束させた。と思いきや、そこへきて香月のセリフだ。何がいったいどうなっているのか、一二三は理解ができずにいた。


 スマホを取り出そうとして、思い出した。それはユルエに奪われたままだったことを。

 仕方なくパソコンへ向かい、渡辺にグチでも吐き出そうとSNSに繋いだ。そして、返ってきたレスに頭を抱えた。


――『お前カノジョできたの? ユルエちゃんメチャ面白いんだけど』


 悩みの種が増えただけだった。昭和生まれのユルエは、ものの5分でスマホの操作方法をマスターしていた。



 階段を上る音が聞こえる――。

 二階には一二三と花音の部屋と、物置になっている四畳半があるだけだ。なので、足音は妹のモノだと一二三も思った。そして、その通りだったのだが――。


 珍しいノックの音が、頼りなく二度聞こえた。いつもの花音ならばプライバシーもへったくれもなく、勢いよく開くはずのドアに。


「なんだよ。昼間のことなら忘れていいから。どうせ信じてくれないんだろうから」


 投げやりな一二三の言葉に、ドアは静かに開いた。そしてそこには身体を震わせて、今にも泣き出しそうな妹の姿があった。


「兄ちゃん……」


 もう、泣き始めていた。涙が彼女の頬を伝い、一二三も何事かと身を構える。


「なんだよ。ダックスなら、ちゃんとカヅキさんに返してきたから」


 そんな言葉で彼女が泣き止まないことを、一二三は知っていた。

それは修学旅行の前日に大熱を出して、キャンセルするしかなかった時の妹そのままの顔だったからだ。熱に浮かされながら、一日中、泣き通していた。

 それでも一二三は、その涙の理由を軽口で聞き流すしかない。


「どうした。夏休みの宿題でも溜まってんのか? 俺は俺で自分の課題で忙しいんだから」


 けれど、そんなもので妹の涙は止まらなかった。余計に増すばかりだった。


「兄ちゃん……私、どうしたらいい? 消えないの。お風呂に入っても、何回洗っても消えないの……」


 花音は右手のひらをゆっくりと開き、そのままを兄へと差し向けた。

そこには文字らしきモノが、ぼんやりと緑色に浮かんで見えた。


「ねえ兄ちゃん! 私どうなっちゃったの!? 兄ちゃんがヘンな話なんか聞かせるから! こんな……こんなの……」


 涙はポロポロと止まらない。ヒフミは、泣き崩れる妹にかける言葉もなかった――。


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