表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/57

25・導かれただけの者


「兄ちゃん。昔から思ってたけど、ガチでバカだったんだ」


 巌流も、ユルエもいるその場所で、花音が頭を抱えた。一二三が現状を正しく正確に伝えた結果だった。


「だから……。信じられないだろうけど、そうなんだって。確率は――7割くらいだけど」

「あーそう。私、3割の人間なんだろうね」


 一二三は願った。錬金術師のベルモットが戻ってくることを。あの超常現象を目の当たりにすれば、7割が9割にはなるだろうと。


「でさあ。まあ、この人がダックスの飼い主だって言うんだったら、私はそれでいいんだけど。でも、異世界とか生き返るとか、そういう設定はアニメだけにしてよね。ホンっト、バカなんだから」


 巌流は木陰の中、芝へ腰を下ろして何やら刀の手入れをしている。動いたのはユルエだった。


「あのさ、妹ちゃん。ヒフミが時々いじってるアレ。アレってなんなの?」


 馴れ馴れしさに定評のあるユルエが、花音を怯ませた。花音が怯む――それは一二三にとっても珍しい光景だった。


「あ……アレって何?」

「四角いヤツ。ずっと、指で触ってるんだけどぉ。ゲーム?『たまごっぴ』のデカいバージョン?」


 眉をひそめていた花音だったが、


「スマホのこと?」

「何それ、やっぱゲーム?」

「あの……今どき絶滅危惧種(レッドデータ)なんだけど。お姉さんて、スマホ知らないの?」

「何それ――。なに? なになになになに!?」


 勢いに負けた花音が、ユルエにスマホの説明を始めた。


「何それ!! これケータイなの!? 写真とか撮れんの? ビデオとか撮れんの!? レーワ、チョーすごいんだけど! チョーマジヤバいんだけど! それどこで買える? コンビニで買える? いくら? PHS(ピッチ)くらい?」

「うっさいなあ、もう。兄ちゃんのスマホ、貸してもらえば?」

「あ! そうする! ねえヒフミン。シマホ貸して?」


 女の会話は無理解で成り立つモノだと、一二三は芝生に寝転んでいた。ダックスも走り疲れたのか、その辺に寝そべっている。

 それより、香月がテントから出てこない。



「じゃあ兄ちゃん。私帰るからね。ダックスのこと、ちゃんとしてね」


 花音が帰った木陰で、巌流が磨き上げた刀を木漏れ日にかざしながら言った。


「妹か――。可愛らしいな」




 シュルケンが戻ってきたのは午後の3時だった。


「かたじけない。とんと、手掛かりは見つけられなかったでござる」


 ベルモットも、戻らない――。




「というと、ヒフミ殿の妹君が最後の7人目、そうであったと。いやはや」


 顔中を覆面で覆ったシュルケンが、目の動きだけで感服していた。

 巌流は、じっと河の流れだけを眺めていた。


「ああ。だが当の妹は頭ごなしの石頭だ。兄の威厳も何も、あったものじゃない」

「そうでござるか。人は確かに、自分が体験し、見聞きしたものしか信じられぬ生き物でござる。しかし我らはその不可思議な現実を知る者。どうにか妹君の心を引き寄せなければいけないでござるでしょう。しかしそれはもう、拙者どもには不可能なこと――。ヒフミ殿。どうか、ご決断を」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ