21・料理長誕生
材料は揃ったものの、誰が何から手をつけていいのかが分からない。
「拙者、野菜ならば切れるでござるが……」
「そのあとは、誰がどうするんだ。俺は料理番などやらんぞ」
「もちろんオレもだ。ヒフミ、お前が言いだしたんだろ。どうにかしろや」
もっともだった。豚汁くらいならなんとか作れるだろうと思っていた一二三が、額に汗を流して焦り始めた時だった。
ユルエが、ずっといじっていた『たまごっぴ』から手を離すと、のんびりと立ち上がった。
「チョベリバぁ。もうサイアク。ヒフミン、言いだしといてカッコワルぅ。っていうか皆、これからはアタシに感謝してよね?」
その後のユルエの手際は恐ろしいほど完璧だった。
誰もが見惚れるほどだった。
30分もすれば豚汁の完成だ――。
「賄いとかさぁ、それくらいはできるからさぁ。ザ・イザカヤバイト、みたいな? ヒフミンも配膳くらいやってよね――」
「あ、はい。見直しました。(居酒屋なら冠詞は『ジ』なんだけど……)」
なんにせよ、料理長誕生の瞬間だった。
「四つ足と聞いた時には弱ったが。薩摩の方では豚を食うらしいからな。むしろ猪肉より柔らかく癖もない」
「同感でござる。拙者、この数日は兵糧しか口にしておらぬかった故、馳走でござる」
「ユルエさん、美味しいです! いつか私にも、料理教えてください!」
香月も笑顔を取り戻し、そういった賛辞が交わされる中で、身動きの取れない者もいた。
「おい、テメエら――」
ベルモットだ。
「どうしたベル。食べんのか」
「食べるも何も……何でお前らは、棒切れ二本でメシが食えんだよ! ヒフミ!! スプーン出せ!!」
「あ、いや……。そういえばスプーンとかフォーク、買ってなかったですね。すみません……」
そこでベルモットが舌打ちをする。
「チッーーじゃあそこの、オヤジが飲んだ空き缶くれ」
巌流が、早速飲みほしたビール缶を渡すと、ベルモットは手のひらで握りしめた。しばらく空き缶を見つめると、急に叫ぶ。
「オブジェクト!」
彼女の掛け声と共に、空き缶が形状変化を起こし、スプーンに変わった。誰もが黙る。
「まあ耐久性は弱い金属だが、こんなスープくらいならイケるだろ」
錬金術師の本領が発揮されると、その場の空気を彼女が支配した。
「ベルモっちチョーすごいんだけど! マジヤバいんだけど! 転勤術師って、そんなのもできるわけ?」
「転勤じゃねえ! 錬金だ! まあ、無から生み出すことはできねえが、素材があれば、イメージでたいていなんとかなる。ただし、もうこれ以上は勘弁してくれ。大掛かりな錬金は、代償がデカいんだからな」
豚汁はベルモットも受けつけたようで、キャンプ料理の初日は成功だった。
ユルエは推しキャラなので、そのうち(今でもすでに)トンデモキャラに育ててゆきたいです。