20・豚汁でしょ
果たして、一二三らが買ってきたのは、味噌・白菜・大根・長ネギ・豚肉の切り落としだった。調理道具一式とカセットコンロも買った。
「今のところ、お米とか炊けないんで。今日は豚汁にしようかと――」
なぜか照れくさそうな一二三に、問いかける者が3人。
「なんだそりゃ」
「えー、なんで豚汁ぅ? 夏の暑い中に食べたくないっていうか、私がついてったら焼き肉にしたのに。河原にテントっていったら、BBQじゃん?」
「俺もよくは分からん。汁というからには、想像はつくが」
それぞれに答えることもできず、代わりにシュルケンが説明する。
「何やら、猪肉を野菜と共に味噌で煮込むらしいでござる」
「猪鍋か――。まあ、適当なところだろう」
「おいおい。俺だけ置いてきぼりかよ。まず、俺はこの国の料理を知らねえんだぞ?」
ところで香月といえば落ち着き払っていた。この世界にやってきて、初めて食べたものが牛丼と豚汁の定食だったからだ。意外と気に入っていた。
ただし、支払いといえば食券機の前で、指先からこっそりと微小な電流を流して内部ハッキングをかけていた。電子マネーの使える店は多く、申し訳なく思いながらも、一人きりの身ではそうして生き伸びるしかなかったのだから。
「でさあ、アタシ思ったんだよねぇ。水ってどうする訳ぇ? そこの2リットルで足りるのぉ? 飲み水しかないじゃん」
ユルエに言われて、一二三も致命的なミスに気づいた。
そこへ、集団から離れていた香月がゆっくりと歩み寄った。
「あの――水なら私が用意します。その大きなお鍋を貸してください」
一同がポカンと香月を見つめる中、彼女は迷うことなく河へ近づくと、迷いなく水を汲んだ。
「あの――フォーミュラさん。それってまさか……」
「カヅキ。さすがにこの河の水は使えんぞ」
「いや、ムリムリムリ。3Kだから。汚い、臭い、怖い」
「拙者もちょっと……」
困惑したのは、一同だ。ベルモットが何か言いかけた。しかし、香月の方が一瞬だけ早かった。
「大丈夫です。私が浄水できます。医療現場では清潔な水が十分に必要ですから」
言うと、重そうに鍋を抱えてきた彼女が、どう見ても口にできるとは思えない汚水に指を浸した。するとたちまち、汚れた水が透き通ってゆく。驚きの輪が広がる。
「カヅキ殿! それはいったい、どういう術でござるか!」
「マジで? マジで飲めるの? 3Kじゃないの? 怖い、怖い、チョー怖い」
そこへ、
「いや、俺はカヅキを信じよう」
プラカップを握った巌流が鍋の水を掬い取った。当然、それを口に運ぶ。
「……美味い。まるで雪解けの清流のようだぞ。これで問題はない。さあヒフミ、猪鍋は任せたぞ」
皆が恐々と水の味見をする中、ベルモットだけが呟いた。
「そんなもん――」