19・ベルモット・オルウェーズ
ベルモットの話です。
沢渡一二三が生きる日本へ転生した人物で、この世界にもっとも興味を抱いていたのは他でもない、ベルモット・オルウェーズだった。
(この世界には、オレの知らない物質が溢れている――)
彼女は目にする素材や物質を、錬金術師としての興味から楽しんでいた。要するに、この異常事態を前向きに捉えている一人だった。
もう一人、気楽に楽しんでいる人物もいるのだが、そこにはまだ触れずにおこう。
錬金術師のベルモット・オルウェーズは、ユルエが飲み干したウーロン茶のペットボトルを手にすると目を閉じた。それからひと言――「マテリアル」と、そう呟いた。
「まずはコイツだな。ペットボトル――。構造は、鉱物由来じゃねえ。溶解温度が低く、使い勝手がよさそうだ」
そう独り言ちると、テントから離れて、次は河原を上った。
「あとはこれだ、クリスタルガラス。驚くほど平らで、気泡も見えない。それが街のあちこちに溢れてやがる。この国は、どんだけ金持ちなんだ」
そしてまた、「マテリアル」と唱える。
違法駐車中の車の窓ガラスに手のひらを添える
彼女の頭の中には、その構成物質が浮かび始める。
「シリカ――ソーダ灰――石灰石――少しばかり不明なモノもあるが、特に珍しい物質はない――。だが、クリスタルの非結晶体にしても、透明度が半端じゃねえ。融点は……」
呟いていると、車のドライバーが戻ってきた。20代の若者だった。
「おいコラ、テメエ。俺の車にベタベタ触ってんじゃねえぞ」
ベルモットはたいして気にもかけず、
「ああ、悪ぃな。お前のモンだったか。ところで、この黒くて丸いのは何で出来てんだ? 自分のモンなら知ってるだろ?」
「はあっ!? わけ分かんねえこと言ってんじゃねえぞコラ!!」
ベルモットの態度が気にいらなかったのか、荒っぽい若者が、ワンボックスカーの横っ腹に立つ彼女へと向かってきた。ただし、気に入らなかったのは彼女も同じだったらしく、
「るっせえな。大事なモンなら家の中にでも入れときゃいいだろ」
それから「オブジェクト――」と言い捨て、まだ怒りの収まらない男のもとを離れた。
その10数秒後だった。男の叫び声が河原に響き渡った。イラついたベルモットの手形そのまま、彼女は窓ガラスを溶解させてきたのだった。
錬金術師を怒らせると怖いのか、彼女が怒りっぽいのか、それは分からない。周囲のほとんどは後者だと思っているのだが――。
ベルモットは、そのうち魔術に傾倒してゆくのですが。
連携も得意とする存在になってゆきます。