18・まるでキャンプというかキャンプ
「アンタら、そこにテント張るのかあ。いいなあ、キャンプみたいで」
河川敷の上から、自転車に乗ったお爺さんが楽しそうに声をかけてきた。
まずは香月が青ざめた。
「なんだよ。周りから丸見じゃねえか」
さも嬉しそうに鼻で笑ったのは、ベルモットだ。
「いえ……これは……。もう一度、やってみます」
しかし、香月の言う亜空間は、何度試しても生成できなかった。
「本当にすみません! どうやらこの世界では、システムの効果が弱いようで……」
「まあ、いいじゃないか。人に見られようが見られまいが、このテントというのは快適そうだ」
笑ったのは巌流だ。恐らく、うなだれた香月への慰めだったのだろう。
「そうですよ! ガンリュウさんが持っていたお金は、まだまだ残ってるんですし! これから――カセットコンロとかいろいろ買って、料理とかもできて、快適になりますから。ね、ユルエさん? そう思うでしょ?」
「えー。暑そう。イヤかも」
気楽な一二三の提案を、ユルエが一蹴した。
そこでまた、鼻で笑ってみせるのはベルモットだった。
「そんなことなら心配ねえ。オレが着てるフードマントは鉱物繊維から成り立っていて、あらゆる天候から身を護る。ちょっとしんどいが、見知ったものの練成は簡単だ」
辛うじて理解できたのは一二三だけだった。
「とにかく、そのテントってヤツを作ってくれ。それぐらいだったらお姉ちゃん、アンタにもできるだろ? だいたい、いくら錬金でも、何もねえとこから別の何かを作り出すなんてのは、端から無理な話なんだからよ」
その声は喜々としており、ますます香月は肩を落とすばかりだった――。
「ヒフミ、これでいいか」
巌流がしっかりとペグを打ち付けたテントはなかなかのもので、確かにキャンプ気分を盛り上げた。
ベルモットも、練成の仕上げを終えた。
「じゃあ、こっちは男らで、そっちは女専用だな。ヒフミ、飯炊きは外でできるんだろ?」
「はい。今から揃えて――それであの、シュルケンさんとフォーミュラさんも、僕と一緒に買い出しに行かない?」
シュルケンは無言で頷いたが、不意に一二三から声をかけられた香月の方は戸惑う。
「でも私……この世界の文化は、よく分かりませんし……。私のラルシステムプログラムも、だんだん狂ってきてるみたいなんです……」
「そういうのは僕もよく分からないんだけど、たぶん大丈夫だよ。逆に慣れていけばいいんだし」
それでも迷っている香月へ、
「ヒフミ殿の申すとおり、それが良策かと。それは拙者も同じ身でござるよ」
シュルケンが覆面の下で笑ったのか、そう聞こえる声をかけた。
「じゃあガンリュウさん。このお金、一万円だけ借りていきますね」
「ああ。金の管理はお前に任せた。ユルエが持っていると際限なく使ってしまいそうだからな」
「何それ! おやつは1日500円って決めてんだしぃ」
「オレがやっとの思いで練成したその500円を、テメエはどんだけムダにしてきたんだ。だいたいなんだ、その『たまごっぴ』ってのは」