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15・光明射す


(見つけた――。絶対に、この人たちだわ)


 何枚もの画像、流言飛語(りゅうげんひご)。しかしそこには確信以上のモノがあった。


 香月・フォーミュラは、朝のカフェでクロワッサンを()み、興奮を隠せずにいた。ラルシステムが示すビジョンを、穴が開く程に見つめ、彼らの行方を追うことに決めた。あとは微かなトレース能力と運命だけを信じて行動へ移った。飲みかけの紅茶もそのままに――――。


 その頃――――。



「だからよ、コイン一枚錬金するのに、オレがどれだけ苦労してきたかっていう話だ」


 5人が、陽射しを避けた木陰で車座に座り込む中、ベルモットは、その背の低い見かけによらず25歳だと名乗った。


「えー! ベルモっちって大人だったんじゃん!」

「その名前で呼ぶなって言ってんだろ!」

「えー。『たまごっぴ』みたいでカワイイじゃん」

「だから! それが分かんねえんだよ!」


(女が二人も揃うとうるさいモノだ)と、巌流もため息をついた。


「そうなると、数えで27歳の俺が最年長ということだな」

「へーえ。ガンリュウさん、そんな若かったんだぁ。もうちょっとオヤジだと思ってたしぃ」

「せ――拙者は歳は明かせぬでござるが、ガンリュウ殿よりも目下ではござります」

「シュルケンさんの場合、顔見えないからどうでもいんじゃない?」


 いちいち話を和やかに運ぶのは、ユルエの対人スキルとも言えた。これ以上の話が進まない中、自身の境遇もそっちのけで一人はしゃいでいる。



「まあ、オレは特に問題ないんだがな。逆に、ここには見たこともないマテリアルがそこら中に溢れてやがる。錬金術師としては、見逃す手がねえ」


 ――錬金術。ベルモットが口に出すその言葉に追いついていないのは、一二三とシュルケンだ。ただし、ユルエと巌流の中でも正しくは理解できていない。認識としては、ただの500円玉製造機だ。



「それでベルさん。僕が知ってる限り『錬金術』っていうのは、中世の科学者たちが競っていた伝説みたいなもので……。実際のところは何なんですか?」

「はぁ、伝説かよ――。じゃあ、見てな」

 一二三の言葉へ、ベルモットは彼からせしめた500円硬貨を手のひらに握ってみせた。ブツブツと呟く彼女の顔は真剣そのものだ。


 息を飲んで観察に勤しむ一二三と忍者に構わない顔で、ユルエと巌流は無関心な様子のまま、橋梁を走る電車を眺めていた。

 彼らにとって、それはもう見慣れた光景なのだ。原理は分からなくとも、脅威というものではなかった。便利な財布代わりとしか思われていないことが、ベルモットにとって屈辱だった。



「はあ……はあ……。どうだ、これが錬金術だ」


 3分後に開いて見せたベルモットの手のひらには、2枚の500円硬貨があった。誇らしげな彼女の期待通りに、一二三が驚嘆(きょうたん)した。したのだが――、


「すごいじゃないですか! それ、どんなトリックなんですか?」

「トリックじゃねぇ!? あんなインチキ奇術と一緒にしてんじゃねえ! これは間違いなくオレが錬金したんだ。この指で物質の構成要素を読み取って、ある程度の物なら同じ物質を構築できる。ただしそのせいで、無一文のコイツらからは、たかられてばっかりだ」


 ベルモットは鼻息を荒くする。

 しかし、まだ一人、理解しない者もいた。


「これは……何かの分身術でござるか……」



 そんな訳で錬金術の謎は解けたが、あとの話は一向に進まない。

 だが、そういう時に限ってドラマは大きな転換を迎えることもある。



 河原の風がざわめいた。耳の利くシュルケンが素早く振り返る。巌流もまた、ゆっくりとした動きで顔を上げた。人が、いた――。



本日、まだ投稿します。

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