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10・出会うべき者たち②

昨夜は間に合わず。深夜の投稿です。


「何ここ。マジで全っ然、分かんない。ていうかノド乾いてさあ。ガンリュウさん、ちょっと小銭持ってない? アタシ、財布とかどっか落としたみたいでぇ」


 知らない町の知らない道を歩きつつ、ユルエがこぼした。陽射しはしだいに高度を増して、時刻はといえば午前11時だった。


「その辺に神社はないか。あれば手水(ちょうず)の水でも飲めばいい」

「神社? だから分かんないって――。あ! コンビニ見っけ! ねえねえ、涼む感じで立ち読みとかして、最終的にウーロン茶とか買ってさあ」


 風変わりな建物へ意気揚々(いきようよう)と入ってゆくユルエを眺めながら、巌流も(ここはユルエに任せておこう。この変わった世界の中で、彼女は物怖(ものお)じを見せないのだから)と、そう感じていた。年端(としは)もいかない娘に運を任すのは気まずいものもあったが、どうやらそうするしかないのだと。



 まず、巌流がその空間に感じたものは、ユルエのように見慣れぬ背格好の人々や、いたるところに並べられた物品ではなく、その清涼さだった。外は真夏の日照り。なのに秋の深まった街道を歩き、山茶屋でひと息ついたような涼しさに驚いた。しかし彼は、その驚きを周囲に見せることはなかった。何事にも動じない――それが侍の矜持(きょうじ)であると。なので、いちいち感じる人々の視線も受け流していた。


「あー、やっぱコンビニだよねぇ。で、ガンリュウさんって何飲むの? やっぱ夏はビールって感じ? お酒、好きだって言ってたしさあ」


 酒、と聞けばやぶさかではない気分になる。巌流はユルエの言葉に乗り、彼女から勧められるまま、冬の雪のように冷えた珍妙な物を手にした。そこへ、女の言葉があった。



「アンタら多分、この店じゃ買い物できねえぞ。オレのコインを一枚だけ渡してやるからよ。それでなんとかしな」



 今まさにレジの前で店員を困惑させていた巌流は、異人の娘から小銭を差し出された。


「いや――気持ちはありがたいが、見も知らぬ異人の女子(おなご)から施しを受けることは侍として面目が立たない。気持ちだけ受け取っておこう」


 しかし少女は、こう続ける。


「アンタら、この世界で迷子になってんだろ? オレが知ってる限りのことは話してやるからよ。そっちも知ってること、全部教えてくれよ」


 その提案には、真っ先にユルエが答えた。


「マジで? めっちゃ助かるんだけど。211円しか持ってないんだよねぇ。私ユルエ、アンタ、どこの人?」

「オレか。イングランドはリヴァプールの山奥に住んでた。錬金術師のベルモット・オルウェーズだ。ベルで覚えてもらってもいい。あと、見たところアンタはオレより年下だ。敬語で話しな――」

「そっか、じゃあベルモっち。ヨロシクね!」

「俺は巌流。流れ者の侍気取りだ。この恩は、いずれ返す時が来るだろう。(かたじけな)いが、今はそなたの心遣いに感謝する」


 また一つの邂逅(かいこう)が生まれた瞬間だった――。


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