~終章の始まり~
壮絶な戦いは最終局面を迎えていた――。
シュルケンが、飛びクナイを握った。
「もう行くな、シュルケン! そいつの鎧は魔界の鋼、お前の術では傷もつかない!」
大業物を下段から振り上げた巌流が叫んだ。
敵はすでに、ただ一人。こちらの反撃は6人がかり。なのに、それがまったく歯が立たない状態だ
そこへ、忍術使いのシュルケンが無防備に飛び込んでゆく。
「拙者は――手裏剣の投げもお粗末な忍びでござる。どこを狙おうとも、敵を刺したことがない」
彼の眼が、真っ直ぐにムサシへと向いた。
「ただし、今ならば目前の敵に向かって、もはや逃げも隠れもせぬ。立ちはだかるそなたに、真っ向から向かうだけ。カヅキ殿に頂いたこの命、ベルモット殿に賜いし金色のクナイ。あとはこの身をもって、ただお主の懐に飛び込むのみでござる。手裏堅寿介、参る!!」
彼は両手にした退魔のクナイを握り、身体を丸めると超高速回転で飛んだ。ムサシへ向けた、恐らく最終奥義だ。その身体ごとを手裏剣と化して。忍びらしからぬ、風を切る轟音がムサシ襲う。逃げも隠れもしないという、シュルケンの覚悟だ。
「食らえ!」
ムサシが一瞬、怯んだように見えた。が、そう見せかけただけだ。
ベシィッ!!
ニヤリと笑ったムサシは短刀を握ったその左手で、シュルケンの決死の攻撃を軽々と打ち払う。彼は遥か後方に弾き飛ばされた。
「おい! シュルケン!!」
錬金術師・ベルモットが逆転の大鉱脈を錬成しながらも、大地に手のひらを押しつけたままで叫ぶ。
背の丈20メートルの化け物、ムサシが不敵に笑う。
「我を――今の我を傷つけられる者は、何人たりともおらぬ。あがけ、慄け。そして絶望するがいい」
まただ。また、その剛剣が一二三を薙ぎにくる。
「ヒフミ! 横へ回れ!」
身体を転がし、すんでのところで躱した一二三。
ムサシの大太刀を巌流が受ける。
しかし、その足は次第に後ろへと押しやられてゆく。
ギギィン!!!
剣のぶつかり合う音は凄まじく、鼓膜を破りそうだ。しかし一二三も起き上がると、竹刀を握りしめてムサシの二の太刀をギリギリで受け止めた。
「カヅキ、急げ! こっちはギリギリだ! もう次はねえぞ!!」
ベルモットがブロンドの髪を振り乱し、香月・フォーミュラを急かす。
「フォーミュラさん! まだ――まだラルシステムの解析はできませんか!」
一二三もムサシの剣を避けながら必死に叫ぶ。
「もう少し、もう少しです! なんとかあと1分、凌いでくれませんか!」
香月・フォーミュラは苦悶の表情で、宙空に浮かぶラルフィンガーシステムの復旧を急いでいた。そんな彼女を、さらに魔物が取り囲む。
ムサシが巨体を前へ一歩と進めた時だ。『たまごっぴ』を投げ捨てたユルエがフライパンを握った。
「神奈川県・高校女子記録保持者、折原友梨絵――いきまぁす!!!」
初めまして、ニーガタと申します。
「全300話」を目指して投稿してゆきます。
まずは、最終戦局の一部紹介にて、物語は静かにスタートします。




