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カオス ある会社員の告白  作者: 國生さゆり
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シーン6 きっのっちが私にバチをあてたったのか、私はタイムループしている。



 「起きぬか、愚か者」と吉乃さんの声がする。なんとか吉乃さんに会いたくて、私は水気を払うろうにブルッと身震いして眠気を追い払った。項垂れた姿勢を四苦八苦しながら正したら、吉乃さんと目が合った。今夜も美しい。今夜?今夜?違う⁈今日も、、、あっーークソ!面倒くさい思考が夜“イコール”良からぬ方へと私の考えを誘導する。もーう!ダメだって!!きつのっちは考えが読めるんだからさ!!



 すかさず私は、「愚か者め、無礼な、わらわはそなたのものではないぞ」と早速のお叱りをきつのっちから受けた。やっぱ怒られたじゃんか!細めた目で私を見ていたきつのっちが「そもそもそなた、コンビニの前に吸い殻が落ちているのに気づいていながら、なぜ、拾わなかった」と言った。私はそもそもそなたもそんなの見てたんかーいと乗りツッコミしたかったが、またもお叱りを受け賜るのは嫌なので「そもそも誰が吸ったのかわからなかったし、触るのが気持ち悪かったんです」と正直に応える。するときつのっちが「不道徳な場所に物を捨てるということはじゃな、運をも一緒に捨てるということぞ」と諭すような口調で私に物申す。この人と話しているとなんだかかーさんを思い出す。懐かしい樟脳の匂いを嗅いだ気になる。そう思いながら私は「運?」と聞き返す。きつのっちは言いたい気持ちがムズムズしているくせに、無難な無関心を顔に貼り付けて「運気という言葉があろう?運をな、こちらの世界ではstarと呼んでいるが、人はstarを同じ数だけ持って生まれる。頂く好機は平等という事じゃ」と言った。きつのっちのstarは妙にRの発音がいいいつもの“star“だった。物と一緒に捨てた人の運を拾って星を掴む。損して徳とれ的なことかと思ったら、ひょいと気になった事が頭をよぎり、思わず口に出していた。「ねぇ、吉乃さんはいつの時代の人?指摘したらいけないかもしれないけど、その英語の発音どこで覚えたの?」と私はズケズケと聞いていた。



 「わらわは戦国時代の魂じゃ、そのあと何回か転生を繰り返している。ハリウッドの映画starだったこともある」とスルリと言ったきつのっち、私はなるほど!と、この美貌と存在感はなるほど!と納得して「女優だったの!」と興味深々で私は発した。きっのっちは得意げに整った鼻筋をツンとさせ「ヨーロッパの慰問先で飛行機が撃墜されて、あっという間に幕を閉じたがな」とあっけらかんと口にしてふと笑う。そして「よいか、明日があると皆思っておるようじゃが、いつ潰えるかわからない。寿命など刻まれておらん。じゃが魂は世界共通じゃ。0、01mの行いが地球の裏側の誰かの運命をかえる。今後はいま話した事をしかと心留めて行動せよ」と言った。きっのっちはなんだか楽しげだ。喜怒哀楽が声にも表情にも現れて、猫の気まぐれを思わせる。



 私の心を読んだのか、口元をキリリと引き締めたきつのっちが「命など儚いものじゃ、行いのみが生きた証になる。次に受け継いだ魂は全てを覚えている。負の行いはカウントされ、徳を積むことで相殺される。のちの収まりどころは天が差配する時に魂を見て決める」と低音厚めのちょい棘が生えてる声でのたまった。腑に落ちた私の口から「閻魔帳って魂のことだったんだ」と無意識にこぼれ落ち、だが、しかしと思った私は「地獄の沙汰も金次第っていうでしょう?あれは?ホント?」と聞く。するときつのっちは手にしていた扇子を軽く開いてパチンと音を立てて閉じ、拍子を得たかのように「なぜ支払ったら許されると?軽くなると思っておるのじゃ?勝手になぜお沙汰が甘くなると解釈しておる?誰が決めた?」と少々早口の平坦さで私に詰めより、私はハッとしてグッとなりつつ「人間の戯言です」と釈明した。きつのっちがフ、フ、フと笑う。その笑い声はらしくなく、地獄の底から湧いてきたかのような気がするくらいに暗く不気味だった。



「良いか、環境はおのれ次第じゃ」と言ったきつのっちが、また扇子をパチンと鳴らす。

 急に意識が遠のく。

 きつのっちの顔が二重に見える。

 口が開かない。

 キーーーと耳鳴りがする。

 私は私を失った。



「先輩、どうしました?」エースくんが私の肩を揺らす、「信号変わったよ」とポンコツ上司の声がする。驚愕した私は失神しそうになった。二人に合わせて歩み出した足に力が入らない。上司が「わかるな、自分がやんないとって勝手に刷り込んじゃっててね。睡眠時間以外は段取りとか、打ち合わせのシュミレーションしたりするんだよね」と言った。呆然としてはいるが、どこか他人事のようにぼんやりとした意識の裏できっのっちが笑っていた。揺らぐ視線で前を見る。よしのと呼ばれた女性が歩いていた。彼女が私に向かって歩いて来る。すれ違いざまに私に微笑みかけてくる。私は振り向いてみる。彼女がハンカチを落とした。私は拾い上げ「落としましたよ」と言っていた。連れの女性が怪訝な顔つきで私を見ている、そして「ありがとうございます、行こー、よしの」と言ってきっちりと頭を下げた。



 理解した。私はタイムループしていた。


 

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