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カオス ある会社員の告白  作者: 國生さゆり
19/31

シーン19 暗い方のLINEって好きなんだよね。



 痛み止めのロキソニンを手にドラックストアの迷路を歩いていると、「先輩、これ良いすょ」と商品を手にしたエースが大声を張り上げた。近づいてゆくと「これ、この軟膏、メチャメチャ効くんですよ」と笑うエースが、「野球やってた時に、体のメンテも自己管理だったんです。詳しくなりまして、あっそれから包帯じゃなくて、防水効果がある火傷した時に巻くやつあるんですけど、それも便利で使いやすいですよ」と言ったので、二人で探しに行く事にした。



 よしのさんとさちこさんはフレグランスコーナーにいて、何やら試供品を試していた。先をゆくエースが陳列棚を見ながら「えっと、ここの隣にありそうだな」と言って左へと曲がり、私だけが取り残される形になって、「私、好きなのよ。だから今日の飲み会のときに協力してくれないかな」とさちこさんが言ったのが聞こえ、立ち聞きしているかのように思われるのも、、、と考えた私はむやみに足を早め・・角で出会したおばちゃんとぶつかった。「すみません!」と謝った私の声は大きすぎてさちこさんが振り向いた。私と目が合ったさちこさんは下を向いて顔を赤らめ「私、先に会社に戻ってるね」と残して、そそくさと店から出て行った。取り残された私とよしのさんは気まずく視線を交わし、私が「あっ、あの、立ち聞きしてたわけじゃなくて」と言い訳したことが、すでにもう聞いていましたと言っているようなもんで、、、と気づいた時には後の祭りでしかなかった。




 よしのさんは笑顔を絶やさず、おばちゃんに「すいません、この人お借りします」と言って私をレジへと連れてゆき、「LINEを個人で繋いでいいですか?」と囁いた。「ええ」と訳がわからず、私がスマホを出そうとすると、よしのさんは「あっ、大丈夫です。グループLINEから辿れますから」と小声で呟き、ドラックストアからさちこさんを追うようにして出て行った。見送る私に「先輩、ありましたよ。並んでてくれたんですね。流石です」と言ったエースのLINE音が鳴り、「部長が迷子になってるみたいなんで、行って来ます」と言いながら、私が持っているカゴに探し当ててくれた防水加工カバーを入れ、足早に食品コーナー方向へと向かっていった。



LINE音が鳴った。

暗いほうの「ライン〜」と奏でている。



“今日のお店が決まったら連絡ください。先に出ました。すみません“とさちこさん

“了解“とエース

“何が食べたいかだけ、教えていただきたい”と上司

“焼き鳥が食べたいです”とよしのさん



 焼き鳥とのリクエストに萌えギャップを感じた私は、腹を抱えて笑い出しそうになった。笑う私のそばにエースに連れられた上司が現れ、笑みを引っ込めた私を見ながら「なに、一人でニヤニヤしてるんだ」と言い、私が持つカゴに黒砂糖のど飴を滑り込ませて、「長時間、電話で話したら喉の調子がね」と恩着せがましく言ってのけ、「ありがとうございます。部長が説明してくれなかったら、私は責任を取らされていたと思います」と頭を下げた。「大の男が3人横に並んでると、通行の邪魔ですよ」と後ろから聞こえ、振り向くとさっきぶつかったおばちゃんが立っていた。「先ほどは失礼しました」と謝っている最中に、私たちのスマホが立て続けに鳴り始め、おばちゃんは「本当、今の若い人は」と言い捨てながら尖らせた目で私を睨んで歩き出し、スマホに視線を落とした上司が「記者会見するらしい。俺、先出るから」と言い出し、私は不作法だとは知りつつもカゴをその場に置き「一緒に出ましょう」と言った。



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