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第八話「荷物持ちが可憐な少女達(笑)とつつがなく依頼をこなすのは喜ばしい筈なのに不機嫌になってしまう件」

 日も傾き西の山の端に微かに明るい陽光が残るのみで、ヒロヒメ達のパーティがムロハラの町の狩部に戻って来たのは夕暮れを過ぎた時刻だった。

「ふんふんふーんっ~。」

 クレハとユウミヤが機嫌良く鼻歌を歌いながらヒロヒメとフクタロウの前を歩いていたが、疲れてはいてもその足取りは軽やかだった。

 狩部の窓口は夜遅くに戻ってくる狩り人や、緊急時の対応の為に昼夜問わずずっと開かれていた。

「ただいま帰りましたあ~。」

 先陣を切ってクレハが依頼受付の窓口に飛び込み、椅子をヒロヒメの為に引いた。

 後から来たヒロヒメはそこに腰を下ろし、今朝剥がした依頼の貼紙を浴衣の懐から取り出すと依頼完了の手続きを始めた。 

 今日の依頼は今迄ヒロヒメ達が活動していた領域よりも奥の、森の第三層と呼ばれる場所に棲息している玉虫の魔獣の駆除だった。

 以前フクタロウがヤエカ達と駆除した玉虫の魔獣のやや上位の種類で、体内に鉱物――鉄や銅等の金属や宝石等を結晶化させて溜め込んでいるものだった。

 第三層の玉虫は以前フクタロウが収納に失敗した宝石の様な、飛び抜けて巨大な物は無いものの砂粒の大きさの物しか取れないという事も無く、握り拳一つ分かその半分程の大きさの物が安定的に得られた。

「――駆除の証明は、ええと。」

 ヒロヒメが後ろで立っているフクタロウを振り返ると、フクタロウは慌てて背嚢を下ろして大き目の巾着袋を台の上へと置いた。中には取り分けていた玉虫の右の複眼を覆う殻が入っていた。

「はい。お預かりして確認させて頂きます。虫から取り出した結晶はあちらの買い取り窓口にどうぞ。」

 職員から受付札を受け取ると、ヒロヒメ達は少し離れた別の窓口へと移った。

 玉虫の討伐報酬自体よりも、取り出した鉱物類の買い取りで得られる金銭の方がこの依頼においては本命だった。

 ヒロヒメ達に促され、フクタロウはおずおずと窓口の受付台の前へと進み出て背嚢と「異空間収納」から、中に仕舞っていた荷物を取り出して並べていった。

 今日戦った玉虫は主に鉄鉱石を持っていて、時々水晶や紫水晶を得る事が出来た。

 これらの玉虫の魔獣はいわば生きた精錬装置の様なものだった。取り込んだ鉱物の成分が虫の体内で凝縮されるので精錬の手間が随分と省略される為、鍛冶師等からの需要が多くよく売れていた。

「こ、これで……全部です……。」

 フクタロウは台の上に崩れない様に石の塊をそっと積み上げ、職員へと小さな声で告げた。

 ヤエカ達に半ば無理強いされて玉虫から取れた宝石を収納させられたものの失敗し、それが自分やミツタカの解雇に繋がってしまった――その事がいつまでもフクタロウの心の中で引っ掛かっていて玉虫の魔獣への苦手意識にもなっていた。

 だが、今日の依頼できちんと収納して狩部の窓口まで運ぶ事も出来たので幾らかは苦手意識を払拭出来そうだった。

「ホントすっごい! フクタロっち、やるじゃん!」

「大したものよねえ。大儲けじゃないの。」

 多量に積み重ねられた鉱石を見たクレハやユウミヤから満面の笑みで誉められる事によっても、フクタロウの中でヤエカ達との嫌な思い出が軽減されていくのを感じていた。

 暫く待たされた後、討伐報酬と鉱物の買い取り額の合計されたものがヒロヒメ達の前へと支給された。

 きちんと四等分され四つの巾着袋に入れられた報酬額は、昨日の報酬の三倍を少し超えていた。

 現場まで歩く距離は増えて疲れはするものの、道の途中で出現する魔獣や玉虫の魔獣自体はヒロヒメ達にとっては大して強敵というものでもなかった為、フクタロウに大量の荷物を運んでもらえさえすれば多くの報酬を手に出来る今日の様な比較的楽な依頼は正にヒロヒメ達の願っていたものだった。

 喜びに笑い出しそうになるのを抑え、頬の端をひくつかせながらもヒロヒメは自分の分の巾着袋へと手を伸ばした。

 これで宝石の類を体内に多く持っている種類の玉虫の依頼を受けたとしたら、報酬額は余裕で五倍六倍になるだろう――その想像だけでヒロヒメ達は恍惚としてしまった。

「ほら、あなたの分よ。」

 何とかまともな表情を取り繕い自分達の取り分を手にした後、ヒロヒメ達は窓口の前から少し体を引きフクタロウを前へと促した。

「う、うん……。」 

 フクタロウは戸惑いながらも手を伸ばし、袋を開けて中身の確認を始めた。

「へっ!?」

 大きく体を震わせ、裏返った声がフクタロウから上げられた。

 袋の中に入っていた金額は今迄フクタロウが見た事の無いものだった。

「……他の人と間違ったりとか……?」

 少し震える手で巾着袋の紐を閉じ、フクタロウは台の上で職員の方へと袋を押し遣った。

「間違ってないわよ。ちゃんとあなたの取り分よ。」

 ユウミヤが台の上の袋を引っ張りフクタロウの前へと戻した。

「そうよ、ほら。」

 さっさと受け取ってよ、めんどくさい――そんな思いを押し隠して微笑みを取り繕い、ヒロヒメも職員から受け取った明細書をフクタロウへと見せ、合計金額とパーティ内の四人で四等分した金額の二つの項目を指差した。

 書類の数字を見てから、フクタロウは改めて巾着袋を開けて中身を数えて確かめた。

「これ……オレが稼いだのか……。」

 驚きにまだ少し震えながらも、自分の稼いだ額の大きさにフクタロウはしみじみと呟いた。

 パーティの後方でうろうろするしか能の無い、図体ばかりでかいだけのレベルの低い荷物持ち――ヤエカ達から散々そう言われて見下されて、その時のミツタカは無関心で庇ってくれる事も無く……。

 そんな自分が手に入れた、自分が運んだ収穫物を売って得られた今日の報酬は、フクタロウの手の中で金額以上の重さを持っていた。

「そうよ~! フクタロっち、あんたスッゴイ稼げる頼りになる男なんだから!」

 クレハが遠慮の無い強さでフクタロウの背中をバンバンと叩いて褒め称えた。

「そうそう! ホント、稼げる男って大好き!」

「この調子でこれからもよろしくね。」

 ユウミヤとヒロヒメもここぞとばかりに笑顔を作り、フクタロウの肩や背中を叩いた。

「あ……有難う……。」

 口々に褒められフクタロウは俯いてしまいながらも笑みを浮かべていた。

 少しずつではあったが、フクタロウの中に自分も人並みに稼げるのだという自信が芽生え始めていた。

「じゃあ、これ、大金なんで失くすとまずいんで、オレの口座に入れといて下さい。」

 今度はしっかりと自分の物という自覚を持って、フクタロウは巾着袋を窓口の職員の前へと出した。

「はい、確かにお預り致しました。」

 職員が頷いた後、フクタロウは何気無くヒロヒメ達の方を向いた。

 当然彼女達も預けるのだろうとフクタロウは思っていたが、彼女達は巾着袋をそのまま浴衣の胸元に抱え込む様にして持っていた。

「あ、ああ! あたし達はちょっと、すぐに必要な用事があるからこのまま持って帰るのよ。」

 フクタロウの何となく疑問に思っている様子に気付き、ヒロヒメは言い訳を口にした。

「そうなんだ。気を付けてね……。」

 大金を持ち運ぶ事に心配をしながらも、余り他人の事情に立ち入るのも失礼かと思いフクタロウは呑気に笑いながらそう声を掛けるだけに留めた。

「ダイジョブよ~。強盗なんかアタシがハンマーでぶちのめすからあ。」

 クレハは背負っていた愛用のハンマーを見せながら明るく笑った。

 ――ヒロヒメ達も勿論、狩部に自分達の口座を持ってはいた。しかし買物や旅行、彼氏達との遊興にすぐに使う事が多いので、大抵の場合は支給された報酬はそのまま持ち帰る事が多かった。その為、彼女等の口座に預金は殆ど無く、形ばかりの物になっていた。

 クレハの笑う様子に釣られ、彼女等の事情も思惑も知らないフクタロウは呑気に笑みを浮かべていた。



 二日目も森の第三層の依頼で、高レベルの魔樹が死んだ後に腐って分解されて出来た土を町へと運ぶというものだった。

 途中、小型の魔樹や森狼、蛇の魔獣といったものも襲い掛かってきたが、大した怪我もせずにヒロヒメ達は充分に対処する事が出来た。

 ヒロヒメ達一行がやってきた場所も、元々は魔樹から果実や樹皮、樹液等を管理しながら収穫していた一種の果樹園だった。

 しかし第三層という場所に対して魔樹のレベルが高くなり過ぎた為、管理する手間と危険性とを考え合わせた結果ここの魔樹は真核を破壊されて討伐されたのだった。

 高レベルの魔樹の死骸は数ヶ月経過して腐敗し分解され、蓄えていた栄養や魔力とでも言う様なものはそのまま内部に残る良質な土になっていた。

「えーと? 査定は重さ優先なのね……。」

 休憩しようと手近な切り株に腰を下ろしたユウミヤが、ヒロヒメから依頼書を借りて改めて内容を読んだ。

 魔樹の樹皮や幹の繊維質の小さな塊が多く残る土はふかふかとした性状で、水や空気を多く含む様になっていた。その為、同じ容積でも袋への詰め込み方によって重量が違ってくるので量を多く望む依頼主の意向により、重量によって報酬を決める事になっていた。

「成程ねー。不人気だし土は供給不足だしで、なかなか狙い目だったのね。」

 第三層とは言え途中は魔獣もよく出現するし、小霊樹へ続く道の様に整備をするには費用対効果等が不充分であるし、荷車等を用意して大掛かりに土を採集する事もやりにくいという中途半端な依頼となっていた。

 その為、魔樹の土は貴重品と言う程ではないものの、薬師部(くすしべ)は薬草栽培の契約農家向けに欲しがり、商部(あきないべ)の方からも金持ちの農家に向けて販売する高級で高品質な土壌改良剤として需要があった。

 ユウミヤは、自分達が楽をしながら高額の報酬を得られる依頼を見つけ出したヒロヒメの直感スキルに改めて感心した。

「マジで土一升金一升じゃん。」

「えー? ナニソレ?」

 ここに来るまでに叩き潰した魔獣達の体液が付いたハンマーを拭き取りながら、クレハがユウミヤへと顔を向け小首をかしげた。

「微妙に合ってるような合ってない様なアレだけどね……。」

 二人の遣り取りを地面に腰を下ろして休みながら聞いていたヒロヒメが、軽い溜息をついて苦笑した。

 その言葉は土地の値段が高過ぎる事への例えであって、土そのものが高価という事ではなかった筈だったが……。

 彼女等がそんなお喋りをしている向こうで、フクタロウは着流しに皮鎧姿のままシャベルを振るっていた。

 一応形だけヒロヒメ達も手伝うとは声を掛けたのだが、ヒロヒメ達は魔樹や魔獣への対処があるので役割分担をして体力を消耗しない様に、と、自分が土を集めるからとフクタロウはたどたどしく言って遠慮した。 

「ホントちょろいわねー。」

 汗と土にまみれて大きな土嚢へと土を入れているフクタロウの様子を眺めつつ、ユウミヤは軽く腕を伸ばして疲れた体を解した。

「ゴクローサマー。」

 クレハは浴衣の袂からビスケットの小袋を取り出して齧り始めた。

 暫くしてフクタロウが作業を終えると、普段使っている背嚢三つ分の大きさの土嚢が満杯になった。

 その内の二つを「異空間収納」で仕舞い込むと、残りの一つと今日持ってきたシャベルや水筒をいつもの背嚢へと押し込んだ。

「お疲れ様ー。じゃあフクタロウさんも少し休憩して。それから帰りましょう。」

 ヒロヒメは座ったままでフクタロウへと声を掛けた。

「う、うん……。」

 着物の袖で汗を拭いながらフクタロウはその場へと腰を下ろした。

 そうして座ったままフクタロウは目の前に小山を作っている黒土の塊をぼんやりと見つめていた。

 フクタロウの出身のミナミヤスハラ村は余り裕福ではなかったので、こうした高級な農業資材には縁が無かった。

 村の数少ない現金収入の手段として栽培されている大蜜柑の農家の者達が、貧しい中で色々と肥料や栽培方法を工夫していた事を何となくフクタロウは思い出し――暫く前の神降ろしでミツタカが倒れた時に大蜜柑を差入れした事も取り留めも無く思い出していた。

 今頃ミツタカはどうしているだろうか。

 そんな事を思っている内に休憩を終え、フクタロウはヒロヒメ達と共に町へと戻る事にした。



 重い荷物を背負っての移動と言う事でどうしてもフクタロウの歩みは遅れがちになり、ムロハラの町に戻って来たのは昨日と同じ位の夕暮れを暫く過ぎた頃だった。

 ヒロヒメ達は土と汗で汚れたままのフクタロウを少しだけ遠巻きにして、一応は魔獣の襲撃に警戒しながら歩いていたが幸い帰途は何事も無く移動する事が出来た。

 狩部の窓口で依頼完了と買取処理を終えて皆が受け取った報酬額は、やはりヒロヒメの予想通り高額で昨日の依頼に劣らないものだった。

「――てなワケでえー、明日から一週間はお休みでえす。」

 昨日と同様に報酬の入った巾着袋を抱えたクレハが、受付前の待合所で明るくはしゃいだ声を上げた。

「お疲れえ~。」

 ユウミヤはクレハ、ヒロヒメと笑いながらハイタッチをした。当然他の二人も巾着袋をしっかりと抱え込んでいた。

「フクタロウさんもお疲れ様。ゆっくり休んでね。」

 ヒロヒメはフクタロウへと微笑んだが、汗と土で汚れているフクタロウからはほんの少し距離を取っていた。

「う、……うん……。」

 休みの取り方等、パーティによって色々な活動の仕方があるとはフクタロウも一応知識としては知ってはいたが、ヤエカ達と組んでいた時には一週間まとまっての休みを取る事等無かったので戸惑ってしまっていた。

「さー、イスルギ行きの荷物、今夜中にまとめなきゃ―。」

「あたしもあたしもー。」

 クレハとユウミヤはまたイスルギの町に彼氏とやらのコンサートを聞きに出掛ける様だった。

「あたしも彼氏達のとこでゆっくりするわー。」

 ヒロヒメが楽し気にこぼした言葉に、フクタロウは何となく不思議そうに小さく首をかしげた。

「あ、ええと、彼氏とその家族達、よ。」

 フクタロウのきょとんとした表情に他意は無いだろうとは思ったが、ヒロヒメは慌てて言い繕った。

「そうねー。」

 やれやれといった様子でユウミヤは溜息をついてヒロヒメを横目で見た。

 明日からの休日を言葉通り多数の彼氏達とヒロヒメは楽しく過ごすのだったが、ユウミヤとクレハは一応余計な事は言わない様に黙っていた。

「へえ、家族ぐるみのお付き合いなんだね。」

 ヒロヒメの言葉にフクタロウは呑気に笑い返した。

 一週間後の昼過ぎにまた狩部の掲示板の近くに集まり、その時に次の仕事の話をする事として解散となった。

「みんな、道中気を付けてね……。」

 ヒロヒメ達にそう声を掛け、フクタロウはシャベルだけを入れた背嚢を背負い直し宿舎へと帰る事にした。



 フクタロウ達が狩部に帰ってきたのと同じ位の時刻に、ミツタカもその日の依頼を終えて窓口へと戻ってきた。

 昨日今日は単独で第三層に行き、森狼や沼トカゲの駆除を行なっていた。

 駆除依頼の中に沼トカゲ一匹分の肉と皮が必要だというものもあったので、仕留めた一匹を背負ったままミツタカは窓口に顔を出した。

 何となくくさくさする様な、すっきりとしないささくれ立った気持ちを感じながらミツタカは依頼をこなしていた。

「お疲れ様です。」

 今日はシゲヒサが遅番の仕事だった。

 すっかり馴染みとなってしまった青年職員の前に、ミツタカは沼トカゲを背負ったまま腰を下ろした。

「はい、駆除依頼ですね。証明箇所の確認をします。沼トカゲの買い取りはあちらの窓口で――って……。」

 型通りの応答をしながらシゲヒサはミツタカの背負っていた沼トカゲへと目を向けたが、ミツタカの肩越しに白目を剥いて舌を出しているトカゲの頭が潰れて傷も付いており、余り状態が良くない事に気が付いた。

「えーと……これだと余り値段は付きませんよ……。」

 質の余り良くない状態の物でも粘って高値を付けさせた事もあったかつての欲張り業突く張りの復活か、とシゲヒサは一瞬身構えたが、不機嫌そうで――それでいて何処か拗ねて寂し気ですらある様な感情がミツタカの目の奥にある事に気が付いた。

 ――今のところフクタロウさんの方は大丈夫な様だが、むしろこれは。

「別に構わねえよ、安くても。」

 シゲヒサを軽く睨み、ミツタカは吐き捨てる様に呟いた。

 むしろミツタカさんの方が不調と言うか、不機嫌と言うか。

 シゲヒサは困ったものだと溜息をついた。

「――ああ、丁度良かった。ミツ坊居たんだね。」

 そこに仕事を終えたらしく、ひっつめた髪を解いて軽く首許で結わえ直したアヤがやって来た。

「ん? フクタロウ君は一緒じゃないのかい?」

 どうやら本命の用事はフクタロウの様で、アヤは不思議そうにミツタカの隣に居る筈のフクタロウの姿を探した。

 アヤの言葉にミツタカは不機嫌さが増し、眉間の皺が深くなっていた。

 ミツタカの不機嫌な顔にシゲヒサはまた溜息をつき、代わりにアヤへと答えた。

「それがですね……。」

 荷物持ち職の人間を雇いたいというヒロヒメ達のパーティからフクタロウが誘われて加入した事、ミツタカは以前の救助料毟り取りによるユウミヤからの恨みを買っていた事で加入を拒否された事等をシゲヒサはざっと説明した。

「成程ねえ……。まあ、狩り人達は何処で何をどう活動するのも自由だし自己責任だけど……。ねえ……。」

 組んでいた者達が様々な事情で別れたり、対立したりというのもよくある話ではあった。

 ミツタカとフクタロウの事も、アヤやシゲヒサが今迄長年見てきた狩り人達の集まったり別れたりする話の一つでしかなかったが。

「まあ、あたしもアンタにあれこれ言える資格は無いけどねえ……。でも、いいのかい? 折角あの子とやり直せそうなトコだったんだろ?」

 建前の再講習と罰則講習の時にアヤが見たミツタカとフクタロウの共に行動する様子は、決して悪いものではなかった。見下して扱き使っていた事を謝罪し、二人で再出発をしようとしていた姿を微笑ましく見守ろうと思っていたのだが。

「……うるせえよ。狩り人は自由で自己責任。あんた達が一番よく知ってるだろ……。」

 眉間に皺を寄せたままミツタカはアヤを睨み、またすぐに目を逸らした。

「まあ、そうなんだけどねえ。」

 溜息をついたアヤがまだ何か言いたそうな雰囲気なのを感じ、ミツタカはまた睨み付けた。

「いいんだよ! あいつにはもう少ししたらもっといい事がある筈なんだ! 俺が居たら邪魔に……。」

 途中でミツタカは口を閉じ、また顔を逸らした。

「ほら、さっさと受付札出せよ!」

 八つ当たりの様にシゲヒサへと乱暴に声を掛けたが、シゲヒサの方も狩り人達の乱暴な振る舞いには慣れており、苦笑しながら受付札を取り出した。

「あ、あれか……。長が言ってた神降ろしの風変わりな知識ってやつかい……。」

 ミツタカの言い掛けた言葉に、アヤはミツタカとフクタロウの教育を長から頼まれた時に少しだけ聞かされた事を思い出していた。

「……。」

 アヤの言葉にミツタカは返事をせずに不機嫌そうに睨むだけだった。

「あたしは神降ろしの時はスキルと、美味しい青汁の作り方しか授からなかったけどねえ。」

 シゲヒサから受付札を乱暴に毟り取ったミツタカの様子をアヤは苦笑しながら眺めていた。

「青汁ですか……。僕は異世界の惣菜饅頭の作り方でしたよ。」

 「防御」スキル以外ではシゲヒサは、中の具にチーズや野菜ソース等を絡めて作る饅頭の作り方の知識を授かり、それは「商部」が買い取って広められ町の屋台でよく作られて売り出されていた。

「あー、あれ、あんたの授かったやつだったのかい。後で買いに行こうと思ってたのよ。」

 アヤとシゲヒサが呑気に会話するのを煩わしそうに一瞥し、買取窓口の方へと行こうとミツタカが席を立ったが、次のアヤの言葉に立ち止まってしまった。

「まあそれはそれとして、フクタロウ君には頼みたい事があったんだけどねえ。正式に指名依頼の手続きして呼び出した方が確実かしらねえ。」

 立ち止まり不審気に見て来るミツタカへと軽く笑い掛け、アヤは頼み事の内容を口にした。

「長からあんまり大っぴらにしたくないって言われてるんだけど、チュウゴロウのオヤッサンが久々に真面目に薬師部の長らしい仕事でもするかってんで、異国語でエリクサアとかエリキシィル?まあ兎に角、超高級超高品位回復薬を作る事にしたらしくてね。材料集めの依頼をあちこちの町の狩部や薬師部、商部に出し始めたのよ。」

 以前にここの狩部の長に紹介されたカズラオカの町の薬師部の長チュウゴロウは、「異空間収納」のスキルを持ち、そのレベルはかなり高いものだった。

 ミツタカが大人しく聞く様子になっていたのでアヤは話を続けた。

「まああのオヤッサン、貴重品だか希少品だかの材料は自分で出掛けて取って来るんだけど、難易度が低くて依頼や買物で済ませられる材料を頼まれてねえ……。」

 超高級と名の付く回復薬――瀕死の重傷でも命を救い、欠損した手足すらも再生して回復出来る力を持つという薬の主たる材料が容易に入手できる訳も無く。

 ムロハラの町の近くの森で言えば、中心部に近い領域で蠢く凶暴な魔獣の内臓や血液という様な材料が必要とされていた。

 ミツタカから長を通して伝えられた「異空間収納」の今迄に無い利用方法を会得し、研鑽や訓練を積んだチュウゴロウは、そうした魔獣を独力で倒して材料を調達する実力を得ていたのだった。

「依頼なんか出さなくても全部お一人で出来るんじゃないんですかね……。」

 横で話を聞いていたシゲヒサが過日ミツタカや長達と見たチュウゴロウの力を思い出し、うんざりとした様子で呟いた。

 アヤもシゲヒサの言葉に賛成しないでもなかった。

「まあ、全部の材料を一人で調達というのも大変だってんで、依頼を出す事にしたらしいねえ。――で、ここの森の第一とか第二層の浅い所で採れる薬草とか岩石とかをフクタロウ君に運んでもらいたいという訳なのよ。あたし達素人にはよく判らないけど精製をかなり繰り返すからとんでもなく大量に必要なんだけど、怪しまれたり勘繰られたくないとかで……。で、知ってる人間で、荷物も沢山運べる丁度いい人材という事でね。」

「成程……。」

 ミツタカはアヤの話に小さく頷いた。

「丁度いい人材ではありますし、スキルのレベルも順調に上がっている様子ですしねえ……。」

 自分と同じ様に丁度いい人材という事で、厄介事を頼まれようとしているフクタロウに同情を抱きながら、シゲヒサは仕事で見た昨日のヒロヒメ達のパーティの依頼達成内容を思い返していた。

「……フクタロウさんがあの性格ですから、私達も今は敢えて話を広めたりはしていませんし、むしろ口を閉ざしていますけど。」

 シゲヒサは受付の席からミツタカを見上げ、職員としての分を超えるとは思いながらもフクタロウへの同情ついでにミツタカへと忠告染みた言葉を口にした。

「スキルのレベルが上がり始めた事によって荷物持ち職のレベルとしてはこの町の中で、既に中の上といった所になり始めていますよ。彼の能力が広く知られていくにつれて引き抜きや懐柔、時には脅迫――よくある話ではありますが……。それによって、より悪意のある狩り人達に有用なスキル持ちが潰されるのは如何なものかと思いますよ。」

 世間知らずで気弱な人見知りもするフクタロウを悪意のある者達が利用する――シゲヒサの受付職員としての勘がヒロヒメ達の事を既に訝しく思ってはいたが、彼女等よりももっと悪質な者達が今後近寄る事もあるかも知れない。

 フクタロウの事を憎からず――いや、むしろ大事に思っている節のあるミツタカが、きちんと面倒を見たらどうかと、シゲヒサは職員としての良心と勘から忠告していた。

「……。」

 シゲヒサの言葉をミツタカは立ち尽くしたまま、しかし煩わしそうに聞いていた。

 言われるまでも無く、そんな事はミツタカには判り切っていた。

「――狩り人は自己責任だ。」

 何処か自分に言い聞かせるかの様にミツタカはシゲヒサへと言い放ち、それからアヤの方へと顔を向けた。

「フクタロウに用があんなら宿舎の方に行けばいいだろ。もう戻ってんじゃねえか?」 

 シゲヒサの言葉への拒絶はミツタカなりに何事か決心している事があるのだろう。

 シゲヒサは自己満足のお節介だとは思いながらも、ミツタカとフクタロウを引き続き見守っていくかと苦笑し溜息をついた。

「――そうですね。フクタロウさんは依頼以外では夜ふかし等も無く真面目ですし、パーティの女性達も過剰な夜間の飲食や夜遊びを無理強いする様子もありませんし。」

 何気無く発せられたシゲヒサの言葉に、何故かミツタカは反射的に苛付いてしまっていた。

 フクタロウにヒロヒメ達が飲み屋でしなだれかかり、媚びた様な笑顔でちやほやする様子を想像してしまい――自分勝手な空想の筈なのに怒りまで感じてしまっていた。

「宿舎ねえ……。そうね。久し振りにタキ婆とも飲みたいし、お酒とおつまみ買ってから行こうかしらねえ。」

 ミツタカの苛付きを気にしつつも、アヤは宿舎に買っていく酒を何にしようかと思案し始めた。

「そういえばカヨがお土産ってお酒持って来てた――、あ……。」

 アヤが何事か思い出し、眉間に軽い皺を寄せた。

 不機嫌なミツタカを更に不機嫌にさせてしまう事に申し訳無く思いながらも、アヤは言いにくそうにしつつもミツタカへと口を開いた。

「あー……ええと、一応、耳に入れておくわね……。」

「んだよ?」

 アヤの言葉にミツタカは不機嫌な表情のまま答えた。

「カヨと、後……サエカさん。イチクラ村の……。今日、ムロハラに着いたのよ。」

 カヨはアヤの一つ年下の従姉妹でムロハラから徒歩で二日離れたシラグチという町で暮らしている――かつてミツタカが新人時代に組んでいたパーティの指導役だった。今は結婚し狩り人稼業を引退してシラグチの狩部で事務職員として働いていた。

「そうか……。」

 特には不機嫌さが増す事も無く、ミツタカは平静を装って答えたものの、その表情は硬く強張っていた。

 もう五年――いや六年が経つのか。済んだ事だと心の中に押し込めていた筈なのに。

 苦く、ざわざわと落ち着かない思いがまた蠢き始めるのをミツタカは無理矢理にまた押し込めた。

「小さくはない町だけど、何かの拍子に顔を合わせる事もあるかも知れないでしょ……。一応、言っておこうと……。」

 何処か言い訳めいたものを滲ませながらアヤはミツタカへと話を続けようとしたが、ミツタカが軽く首を横に振って遮った。

「いいんだ別に。もうそこまで気にしてねぇ。」

「そう……。」

 アヤもまた何処か硬くなり始めた表情で呟いた。

 そこに買取処理の窓口の方から、薄く土と汗で汚れたフクタロウが歩いて来るのがミツタカの目に入った。

 ミツタカの目に何か柔らかく温かいものが一瞬浮かんで、またすぐに消えた。その様子にミツタカの視線の先をアヤが目で追うと、フクタロウがのろのろと歩いている姿があった。

「あ、フクタロウ君! 丁度良かった。」

 本当に丁度良かった――そう思ったのはアヤだけではなかった様だったが。

「あ、どうも……。」

 アヤに呼び止められフクタロウは軽く頭を下げた。

「あ……!」

 アヤの隣にミツタカが立っている事に気が付き、フクタロウの頬が仄かに赤らみ嬉しそうに綻んだ。

「おう……。」

 先程のアヤとの話のせいでまだ少し硬い表情のまま、ミツタカはフクタロウへと声を掛けた。

「ちょっと依頼したい事があってねえ。お疲れのところ悪いんだけど、宿舎で話させてもらいたいの。――あ、あたしも今日はタキ婆のとこで泊めてもらおうかしらねえ。」

 フクタロウとミツタカの肩へと手を回し、アヤはそう言って半ば決定事項の様にして二人を連れて歩き始めた。

「え? 依頼? ええと……。」

「何で俺まで!」

 フクタロウは戸惑い、ミツタカは文句を言うが、アヤは意外と強い力で二人の肩を掴んだまま宿舎へと連行していった。

 アヤ――いやチュウゴロウの依頼の話は、今のあの二人には丁度良かったかも知れない。

 シゲヒサはアヤに連行されていくミツタカとフクタロウの後ろ姿を微笑みながら見送った。



 アヤはミツタカとフクタロウを連れたまま一旦表通りに出ると、手近な店で酒と煎り豆等のおつまみを買い求め狩部の宿舎へと向かった。

 荷物持ち職の習性で、アヤの買った大き目の酒瓶三つと煎り豆や干し魚等の詰められた紙袋をフクタロウが抱えると、ミツタカと並んでアヤの後を付いていった。

「あ、悪いわねえ……。助かるわ。」

 アヤが振り返ってフクタロウへと礼を言った。

「タキ婆居るー? って居るわよね。管理人だもの。」

 宿舎に着くと勢いよく引き戸を開け、アヤは中に居る筈の寮母のタキへと呼び掛けた。

「ああ、アヤ坊。久し振りだねえ。どうしたんだい?」

 玄関口を入ってすぐの食堂から、いつもの薄灰色の着物を身に着けた恰幅のいい体が現れた。

「あ、そうそう。久し振りと言えば、今、久し振りのお客さんが来てるのよ。あんたの従姉妹の――。」

 アヤへと笑顔で歩いてくるタキの言葉と表情は、しかしアヤの後ろに居たミツタカに気付いて強張った。

「ミツ坊……。」

「何? タキ婆、お客さん? それならあたし達そろそろおいとま……。」

「――ってアヤじゃない。どうしたの?」

 食堂に居たらしい二人の女性がタキの後ろから姿を現し、そんな事を言いながらアヤとその後ろのフクタロウとミツタカに気が付き――彼女等もまた表情を僅かに曇らせて立ち尽くしてしまった。





2025-0603

 この第八話も元々のプロットのメモ書きには書いていなかったものです。今回、そもそもが急な思い付きで作り始めた物語なので、いつもならばガチガチに書き込む筈のプロットメモ書きも、大体の所でこれでいいじゃろうと終わらせたので、いつものお話膨らませ癖全開な感じです。

 どうせ膨らませるならばガチムチイモ男子の股間の膨らませを以下略ナントカカントカ。


 まあ、物語終わりの方でそもそものメモ書きに書いていたエリクサア云々の下りがあったので、第八話で伏線っぽくお話に配置する事が出来て、物語に少し深みが出来たのじゃないかしらとか何とか自己満足でございます。

 早く荷物持ちとリーダーの、兄ちゃんっ!喜三次――じゃない、フクタロウ!もう離さないぞー。を書き上げたいものであります。

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