第一話「使えねえ荷物持ちを解雇する前に、自分が何の役なのかを知らされた件」
第一話「使えねえ荷物持ちを解雇する前に、自分が何の役なのかを知らされた件」
東の海に浮かぶ島国ヒノモト。その中の一つの島の片隅には海と森に挟まれたムロハラという町があった。
ムロハラの町の近くにまで迫る森は広く深く、そこには狼や熊、鹿や兎といった野生動物の他に魔獣と呼ばれる生き物達も棲んでいた。
野生動物や魔獣、また薬草や果物等を森の恵みとして狩り、採集する事を生業とする狩り人と呼ばれる者達がヒノモトの国中に居り、ここムロハラの町にもそうした者達が多く暮らしていた。
彼等は毎日の様に森へと出掛けて動物や魔獣と戦い、その肉や皮、骨等を森の恵みとして町に持ち帰っていた。
ある日の早朝。
まだ夜も明けたばかりの早い時間から、一つのパーティが森の奥を目指して町から出掛けていった。
「うう……。眠いいい。」
欠伸をしながらふらふらと山道を歩く小柄なヨシヒメは、先頭を歩くヤエカの着物の裾を縋る様に掴んだ。
「ちょっとおー。皺になるからやめてよねー。」
ヤエカもまた少し眠そうにしながら振り返り、ヨシヒメの額を軽く突っついた。
「あらー。仲いいわねアンタ達。はしゃぐ気持ちは判るけど、まだずっと歩かなきゃならないんだから黙って歩きなさいな。」
豊満と言えなくもない体を揺らしながら二人の後ろにやって来たササメが、ヨシヒメの癖毛混じりのおかっぱの髪を軽く撫でて窘めた。
先行するそんな彼女等を見守るリーダーを気取り、愛用の刀を腰の帯に差したミツタカはゆったりとした足取りで後から追い掛けていた。
そしてその最後尾を。
「――おいおい。そんなもん、帰りにでも拾えばいいだろ。」
「ご、ごめん……。でも念の為、非常食にと思って……。」
どんな事態になっても食べられる物は必ず持っている様にと、荷物持ち職の習性が染み付いたフクタロウは歩く途中で目に付いた木の実を少しずつ拾っていたのだった。
呆れた様な口調でミツタカに咎められ、フクタロウは木の実拾いを中断して慌てて立ち上がった。
この森の入り口にだけ分布している人の拳大の実のなるムロハラ胡桃は、殻は少し固いものの薄いので子供でも割り易く、中身もしっかりと詰まっている為に町では好まれて広く食べられていた。
しかし中身もしっかりと詰まっていると言う事で結構な重さがあり、持ち運ぶのには少し面倒なものだった。
「ま、いいんじゃないの? それ、ナントカっていう美容にいい油が含まれてるって言うし。そいつ重い物運ぶ位しか役に立たないんだからさー。」
「あ、後であたしに寄越しなさいよね。」
「ヨシヒメ~! あんたまだ全然若いんだからアタシに譲りなさいよお。」
ヤエカ達が後続のミツタカとフクタロウを振り返り、フクタロウの手にしていたムロハラ胡桃だけを一瞥するとまたお喋りに興じながら先を歩き始めた。
「ほら、さっさと歩け。」
「う、うん……。」
ミツタカに促されフクタロウは慌てて立ち上がった。
背負っていた帆布製の薄汚れた大きな背嚢へと胡桃を二つ急いで放り込むと、ミツタカの後ろに付いて歩き始めた。
レベルのそれなりに高い荷物持ち職の者達は、地蜥蜴や水蜥蜴の皮製の軽くて丈夫な背嚢を持っていたり、かなり高位の者達は袋の内部が拡張される術の施された背嚢を持って仕事を行なっていた。
しかしフクタロウの様な平凡な荷物持ちは、頑丈なだけで重い帆布で出来た背嚢に入るだけ物を詰め込み、己の体力筋力だけを頼りにして仕事に励むしかなかったのだった。
大柄で筋肉質ではあったが、かと言って然程背の高い訳ではないフクタロウの様な体格の者は、戦う技能があればパーティの前衛で盾や棍棒を振り回したり格闘したりと活躍していたが、そうでない者は荷物持ちとして所属する場合が多かった。
フクタロウは当然、後者としてミツタカ達のパーティに所属していた。
◆
出発した夜明け間もなくの時刻には太陽も海から上ったばかりだったが、昼まで後少しという今は森の真上で輝いていた。
ムロハラの近くに広がる森は、最深部にある巨大な霊樹を中心に、それぞれ異なる植生の領域が年輪の様に順番に重なって層を成していた。
ミツタカ達のパーティは、一番外側の浅い層ではあったが、そこの奥へと到着しようとしていた。
ミツタカ達の今日の目的地は、外側の層の奥にある小霊樹の生えている小さな聖域だった。
「そろそろお腹空いたわね。霊樹の前にちょっと休みましょうよ。」
「賛成~。お腹空いたー。」
後ろを振り返りもせずヤエカが声を上げ、ヨシヒメもヤエカの腕に抱き着きながら賛成した。
小霊樹への道は森で活動する狩り人達の定番の道筋の一つでもあった為、魔獣はよく出現するものの草木は刈り払われ歩き易く整備されていた。
道の途中には休憩し易い様に小さな広場もあり、ヤエカとヨシヒメ、ササメはさっさと広場に入ると手近な小岩を椅子代わりにして腰を落ち着けた。
「お前等なあ……。」
呆れつつも、気儘に振舞う彼女等を微笑ましく見ながらミツタカものんびりと広場へと入ってきた。
「遅っせえわよフクタロッ。早くお弁当出しなさいよ。」
ヨシヒメが岩に腰掛けて足をぶらぶらさせながら、やっと彼等に追い付いてきたフクタロウを睨んだ。
「ご、ごめん……。」
手の甲で汗を拭いながらフクタロウは背嚢を下ろすと、中からヤエカ達の弁当箱を取り出していった。
頑丈で大きな漆塗りの弁当箱は保冷や保温の機能も付いており、彼女等の好物が詰め込まれていた。
その分重く嵩も大きく背嚢内の容量を圧迫していたのだったが、それが荷物持ちの仕事だろう、と、フクタロウの負担を誰も気遣う事は無かった。
ヤエカ達に弁当箱を差し出すと彼女等はひったくる様にして受け取り、互いに楽し気にお喋りしながら食事を始めた。
そんな彼女等の様子を苦笑しつつ眺めていたミツタカに、フクタロウは同じ作りの弁当箱を手渡した。
「おう。」
ミツタカも弁当箱を受け取ると、適当な草むらの上に腰を下ろして食事を始めた。
「……。」
食事を始めたミツタカを少しだけ覗き見るかの様にそっと目を向けてから、彼等四人から少し離れた場所に腰を下ろすと、フクタロウは背嚢の中から自分の分の弁当箱を取り出した。
ヤエカ達からするとフクタロウの食事はどうでも良かったが、一応はパーティ内の人間の備品に差があるのは外聞が悪い――平等に扱っていないのは男らしくないと言われるから、というミツタカだけがこだわっている理由でフクタロウの弁当箱もヤエカ達と同じ製品だった。
――頑丈で高性能ではあるが重く大きな弁当箱が五個、フクタロウの背嚢に収められ容量を圧迫している事については誰も気に掛ける事は無かったが。
◆
皆が食事を終えようとした頃、広場から少し離れた茂みの中から女性らしき悲鳴が聞こえてきた。
「!!」
ミツタカが反射的に刀を手にして立ち上がり、警戒しながら広場の入り口に来て身構えると、小霊樹のある方向の茂みの中から若い男二人、女二人のパーティが切り傷だらけの姿で道へと飛び出してきた。
彼等のすぐ後を追い掛け、四つ目の大きな猿の魔獣も一匹姿を現した。
彼等も小霊樹目指して向かっていたのだろうが、運悪く彼等の手に余る魔獣に遭遇してしまったというところなのだろう。
「げっ、ミツタカ……!」
両腕に怪我をしている侍風の鎧装束を纏った青年が、ミツタカが居る事に気付き忌々しそうに顔を歪めた。
「おうお前等! 礼ははずめよな!」
猿の魔獣の力量を確かめ、勝てると踏んだミツタカは素早く刀を抜いて彼等と魔獣の間に滑り込んだ。
突然の乱入者に猿の魔獣は一瞬戸惑い立ち止まったが、すぐに自分を邪魔する者への怒りを露わにして今度はミツタカへと鋭い爪を立てて掴み掛ってきた。
ミツタカと魔獣が戦っている隙に、四人は急いでフクタロウ達の居る広場の中へと駆け込んできた。
「いらっしゃーい。さ、礼金はこちらよー。有り金全部と言いたいとこだけど、半分に負けたげる。」
ミツタカが勝つ事が決まっているかの様に、ヨシヒメは彼等に手招きをして早くも礼金の催促を始めた。
「クソ……。業突く張りめ……。」
侍風の青年は一応は命が助かった事に安堵しながらも、相場よりも多い請求額に怒り、ヨシヒメを睨み付けた。彼等のパーティの他の三人も恨みがましい目を向けていた。
「嫌ならいいんだぜ。このままこいつをそっちにけしかけて、俺達ゃ逃げるからよ。」
猿からの爪や噛みつきを刀で弾いてあしらいながら、ミツタカはからかう様に青年達のパーティに声を掛けてきた。
「クソ! 判ったよ! ちゃんと払うよ!」
青年が自棄糞で叫び、まだ止血も碌に出来ていない手で腰の巾着袋をそのままヨシヒメへと投げ付けた。
「おう! 毎度有難うございますってなもんだ!」
青年が金を払ったのを確かめると、ミツタカはにやりと笑い、やっと真面目に刀を構え直した。
「!!」
そしてそのまま飛び掛かって来る猿の魔獣へとミツタカも走り出し、あっさりとその首を刎ね両手足を切り飛ばした。
「……。」
自分のパーティからも青年のパーティからも離れた所に立ってミツタカの戦う様子を見守っていたフクタロウは、その手際の良さに感心した様にそっと息を吐いた。
ミツタカが怪我一つ無く戦闘を終えた事にも嬉しそうに口元を綻ばせたが、誰もフクタロウのそんな様子に気が付く事は無かった。
「おうお前等、命が助かって良かったな。」
魔獣の血の付いた刀を手拭いで拭き取りながら、坊主頭に汗一つ掻いていないミツタカが笑いながら広場へと戻って来た。
「さっすがミツタカ~! 強い男は大好き!」
からかい混じりの口調ではあったが、ミツタカの戦い振りと臨時収入に機嫌良くササメは拍手をしながらミツタカが戻って来たのを出迎えた。
ヤエカとヨシヒメも臨時収入を喜んでハイタッチをしていた。
「そりゃあ助かったのは事実だけども……。」
侍の青年の手に包帯を巻きながら、紅白の巫女服を纏った少女が不満そうにミツタカ達を睨んだ。
「……やめとけ。言うだけ無駄だ。こいつらの欲深さは有名だろ? 今日は運が悪かった。」
手当てを受けながら青年は力無く溜息をついて巫女の少女を止めた。
青年達の存在を既に忘れたかの様にヤエカ達が上機嫌でミツタカの活躍と臨時収入を褒めていた。
強くて男らしいとか強引で素敵だとか彼女等がおだてている様子を青年達は憎々し気に睨んだ後、町に戻るべく立ち上がった。
「あ……あの……これ……。」
広場から出ようとしていた侍の青年の背にフクタロウはそっと声を掛け、着物の袂から小瓶に入った丸薬を差し出した。
「ん……?」
謂れの無い施しに不審そうに青年達はフクタロウを見返したが、フクタロウの人の良さそうな垂れ目がちの顔立ちのお陰か彼等はそう強く警戒心を抱く事も無かった。
「あ、あの猿の切り傷……後でよく熱を出すって聞くから……。その……熱冷ましの薬……。」
「あ、ああ……!」
「そういえばそうだったわね……!」
フクタロウのつかえがちな説明に、青年達は納得の声を上げた。
森のこの領域に出現する猿の魔獣についての対策をきちんと勉強し、フクタロウは薬を持って来ていたのだった。
「ちょっとフクタロッ! 何勝手な事してんのよ。大体その薬、パーティの備品じゃないの?」
フクタロウの様子を見咎めたヨシヒメが不機嫌そうに遠くから声を掛けてきた。
「だ……大丈夫。これ……俺の私物……だから……。」
ヨシヒメの声に思わず肩を震わせてフクタロウは振り返ったが、慌てて言い訳を口にした。
「――すまんな。気持ちだけ貰っとくよ。」
フクタロウに気の毒そうな目を向けつつ、青年は小瓶を差し出すフクタロウの手を押し留めた。
青年達のパーティはフクタロウにだけ軽く頭を下げると広場を出ていった。
◆
広場での休憩を終え、ミツタカ達は再び山道を歩き始めた。
広場から三十分もしない内に彼らは小霊樹の生える小さな聖域へとやって来た。
「霊樹ちゃん~! 頼むわよ~! 今日こそイイ感じのスキルを授けてちょうだいね!」
「ホント頼むわー!」
ヤエカとヨシヒメがわざとらしく大きな柏手を打ちながら聖域の広場へと一番に足を踏み入れた。
赤い鳥居の向こうには白い玉砂利敷きの広場があり、その中央には椿の木が聳え立っていた。
小霊樹とはいっても、樹齢は二千年を超え空高く聳え立つ巨樹から感じられる風格と圧力は決して小さいものではなかった。
椿の巨樹の根元には人間の背丈程もある楕円形の透明な宝玉が埋まっており、その前には朱塗りの木材で小さな祭壇が設えられていた。
巨大な森の中の各層にある小霊樹と呼ばれる巨樹の生えた場所は、「神降ろし」と呼ばれる儀式を行なう事の出来る霊的な場所として知られていた。
狩り人としての戦闘技能や体力等、一定以上のレベルに達した者が霊樹で神降ろしを行なうとスキルと呼ばれる様々な特殊能力が得られる場合があった。
また、スキルが得られなかった場合にも異世界の様々な知識を授けられた為、どちらにしても狩り人達にとっては有り難い恵みを受けられる場所だった。
「――ヤスノなんてさあ、治療魔法のスキル貰ったって言うし。あれって使いようじゃ美顔とか出来るって言うじゃない。あたしもそんなの欲しいわよねー。」
友人が授かったというスキルを羨ましそうに語りながらヤエカは目の前の宝玉を見た。
「まあまあ。アンタだってこないだ難病の薬の知識貰って、「薬師部」に売りつけて大儲けしたじゃない。」
ササメが大金を得たヤエカを羨ましそうに軽く睨んだ。
スキルが得られなくても、神降ろしで授けられる異世界の知識は薬の作り方や鉱物の様々な加工方法、或いは今迄ゴミとして捨てられていた様な一部の動物の内臓から美味な料理を作る方法等、多かれ少なかれ人々の生活を豊かにするものばかりだったので、高価に買い取られたり、儲けの何割かを何年間貰える契約をしたり――という様な、金銭的な利益をもたらすものも多かった。
「ったく、賑やかだねえ。」
ヤエカ達が祭壇の前で楽し気に騒ぐ様子を呆れつつも笑って眺め、ミツタカも鳥居をくぐって広場へとやって来た。
「――っ。」
ミツタカの後ろでフクタロウが石段を踏み損なって軽く体勢を崩した気配があった。
ミツタカが振り返ると、ぎりぎり転ばずに俯いたまま踏ん張っているフクタロウの姿があった。重く大きな背嚢を背負っているので転ばずにいるのも一苦労ではあった。
「おいおい。何やってんだ。」
軽く眉間に皺を寄せ、ミツタカは煩わしそうに石段の上からフクタロウを見下ろした。
「ご、ごめん……。」
姿勢を立て直したフクタロウはミツタカに軽く頭を下げて謝った。
「まあ、いいけどよ……。」
ヤエカ達ならば口汚く罵ったり小馬鹿にするのだろうな、と、思いながらミツタカは特にはそれ以上何か言う事も無く溜息をついた。
強引で他人を顧みない行動も多いミツタカではあったが、かと言って誰かを意味も無く見下したり貶したりする事は殆ど無かった。そうした行為は一応、男らしくない、格好悪いものだという意識があったからだった。
見下されたり貶められている者の様子を見ているだけで特には助けないのは男らしいのか、という指摘については黙殺していたが。
「ほれ、急げ。ヤエカ達がまたうるせえぞ。」
「う、うん……。」
ミツタカはそう言ってフクタロウを促し、祭壇の方へと足を向けた。
ミツタカはフクタロウの事を、ヤエカ達の様にはあからさまに見下したり毛嫌いしているという訳ではなかったものの。
口下手で内向的で、自分からは余計なお喋りをする事もないフクタロウは、荷物持ち職としてのレベルは低かったものの真面目な働きぶりなので可もなく不可もなくといったところではあったが。
いつも自信無さ気にミツタカを見てくる様子は、何となくこちらの座りが悪い様な気持ちにさせるものだった。
フクタロウの方が背は高くなくても図体は大きいのに、その自信の無さのせいでこちらが見上げられているかの様な気持ちにさせられるものでもあった。
何となく鈍臭くて冴えない奴――ミツタカのフクタロウに対する印象はそんなものだった。
◆
「やっと来た。遅っせえのよフクタロッ。」
苛立ち混じりの溜息をわざとらしく大きく吐きながら、ヨシヒメは祭壇の前にやって来たフクタロウを睨み付けた。
「パーティ全員でっていう決まりが無かったら、さっさとあたし達だけで済ませてたのにさあ。」
ヤエカとササメもヨシヒメに同調して溜息をついた。
神降ろしの儀式は必ずパーティ全員が宝玉の前に揃っていなければ発動する事はなかった。
「今回こそはいいスキル頼むわよー!」
張り切っているヤエカ達の後ろにミツタカとフクタロウも並んだ。
前回の神降ろしでは誰もスキルは得られず、薬や化粧品の作り方や、この森に埋まっている宝石の在処と言った知識を授けられただけだった。
「まあ、お前も何か使えるスキル貰えるといいな。もっと役に立ってもらわなきゃなんないしな。」
使えるスキルが欲しいと意気込んでいるヤエカ達の背を苦笑交じりに眺めながら、ミツタカは隣に立っているフクタロウへと何気無く声を掛けた。
「……! う、うん!」
不意に声を掛けられた事に驚いて顔を上げたフクタロウは、少し嬉しそうに頬を染め頷いた。
祭壇の方に顔を向けていたミツタカはそれに気付く事も無く、ヤエカ達に続いて宝玉の前へと歩み寄った。
フクタロウも含めて全員が宝玉へと手を触れると、そっと目を閉じた。
それからさして間を置かず宝玉は輝き出し、人数分の細い光線をそれぞれの額へと放っていった。
「――!!」
光線に頭を貫かれたと同時に、皆は神降ろしの世界へと意識を飛ばされていった。
――誰かに見下ろされているかの様な。
――誰かが何処からか面白がって眺めているかの様な。
何故か、そんな奇妙な錯覚がミツタカの脳裡に湧き起っていた。
前回の神降ろしの時には感じなかった感覚にミツタカは戸惑いながらも、取り敢えずそのまま成り行きに身を任せた。
ヤエカ達はどうなのだろう、と、気遣いつつも、突然流し込まれ始めた異世界からの知識に圧倒され、ミツタカは呆然と立ち尽くすしかなかった。
◆
――キミだけの冒険活劇へと走り出せ!
舞い散る桜吹雪と白い雪を頂いた霊峰がミツタカの脳裡に閃き、何かの題らしき言葉が大きな筆文字で絵の様に配置され流れ去っていった。
――選べる種族は八百万。各種パラメータ調節によりアバターの作成も思いのまま。東の果ての島国ヒノモトを舞台に、配置されたイベントとストーリー分岐は八百万超え。
侍や巫女、僧侶、拳法家、陰陽師、方術師、魔術師――様々な衣装や装備を身に着けた老若男女や、狐狸や犬猫、鳥や蜥蜴を思わせる姿の者達の立ち姿が何かの見本の様に並べられ、また流れ去っていった。
何だこれは?
ミツタカが情報の洪水に混乱している間にも、次々に見せられ聞かされるものは移り変わっていった。
主役と呼ばれる者達一行のヒノモトの国中を駆け巡る冒険活劇。その者達と出会い、別れる人々との様々な物語。
その物語の中の内の小さな一つに――ミツタカ達の姿もあった。
いつもの居酒屋の片隅で、フクタロウを詰り解雇するミツタカ達の姿。
解雇されてしまったフクタロウは落ち込みつつも、主役達一行と出会い彼等の仲間になった。
フクタロウは彼等に優しくも厳しく鍛えられ、高位の戦える荷物持ち職として成長し活躍していった。
――一方、フクタロウを追い出したミツタカ達は日々を怠惰に過ごし、次第に借金も嵩んでいき追い詰められ……。
「……!」
自分が何を見せられているのかは正確には理解は出来なかったものの、ミツタカはこれらが自分達の暮らすこの世界の事を示しているのだとは漠然と理解した。
何だかいまいち判らなかったものの、居酒屋でフクタロウを解雇する自分達の様子は、預言やお告げの様なもので、いつかは本当に訪れる出来事なのだろうとも。
このまま日々を過ごしていれば、その解雇の場面は現実のものとなり、その後自分達は……。
勿論その事にもミツタカは驚き、蒼白となったが――しかし、次々に示される登場人物達の人となりや来歴等の情報に何よりも驚かされた。
棲み処の霊山を荒らしていた魔獣を退治してくれた主役に恩義を感じて付いて来た狐神の眷属の少女。立ち寄った藩の揉め事を解決した主役に仕えたいと藩を飛び出した跡継ぎの青年。悪の呪術師に仕えていたが主役に感化され改心した双子の呪術師の美女――等々。
主役一行に所属している美女や美少女、美男子達の背景の説明がなされていき――彼等の仲間入りしたフクタロウについての説明もその中にあった。
ミナミヤスハラ村出身の朴訥な青年。気は優しくて力持ちを地でいく。荷物持ち職。昔ながらの閉鎖的でしがらみの多い村での生活で彼は――。
「……!」
そしてミツタカの意識は途切れた。
さて。マジナイ神も高縄屋敷も、あと成人向けお絵描き原稿も滞りまくりの中、何故かお話を思い付いてしまい書き始めてしまいました。
ツイッターの方では乱暴に語気荒く書き散らかしてしまいましたが、流石に当のなろうとかでは憚られるのでオブラートに包みますが、まあ、結局は自分の好きなガチムチホモ男子達がなんやかやする物語に飢えていると言う事と、後、追放物って大体美女美少女達とのハーレム的な何やかやとか、或いは追放する側が覚醒して物語を動かしてしまった事で追放された側が入れ替わった立ち位置になってしまって悪い結果で退場、みたいなのとか。そういうのもいいけど、やっぱり自分の好きな物が読みたいなあ……と。
そんな訳で、しゃーない自給自足するか……と書き始めてみました次第であります。
もっさい冴えないイモ男子がなんやかやホンワカちゅっちゅみたいな物語が読みたいのよヲカマのおっさんは。
それと後、物語世界の知識を得るパターンとして異世界転生にしようかと当初は思っていたのですが、高縄屋敷で使っている神降ろしという概念の練習と言うかそういうので、ちょっと流用してみました。