18話 後悔をしないため sideパーシアン
「パーシアン様。」
ふいに、後ろから呼び止められたかと思うと、そこには、シオンに付いているはずのアイルがいた。
俺は、周囲を軽く確認して、答えた。
「どうした。」
「リュシオン様からの伝言に参りました。聖女様を追え、とのことです。」
アイルが少し声を小さくして、話す。
「……聖女様を監視しろってことと、聖女様と話せってこと、どっちだ。」
「おそらく、後者かと。実は……」
アイルは、先程見た、という状況を教えてくれた。
「なるほどな。わかった、あいつにもそう伝えてくれ。」
そう言うと、アイルは、礼をして、去っていった。
……アイル、割と不満そうだったな。
おおよそ、シオンが頼らねぇからだろうが。
まあ、聖女と関わるのなら、同じ貴族で、生徒である俺の方が、何かと都合がいいから、仕方ないんだが。
……行くか。
アイルの話だと、おそらく中庭付近にはいるだろう。
そうして、俺は、一人中庭へと向かった。
……いねぇな。取り巻きがいっぱいいるって聞いたから、いればすぐにわかると思うんだが、ここじゃないのか?
そう考えながら歩いていると、校舎裏の方に着いた。
「さすがにこんな人気がないとこにはいねぇよな。……いや、あれって。」
ぽつんと佇んでいるベンチで一人の令嬢が、俯いて座っているのが見えた。
……あれ、聖女だよな。
絶対いないと思ったのに。取り巻きもいないようだし、何があったんだか。
……話しかけて見るか。
「おい。」
声をかけると、聖女が、驚いたように震え上がって、こちらを向いた。
「は、はいっ!あれ、の、ノルディック侯爵令息様、どうされました!?」
……そんなに驚かなくても。
「どうした、は、こっちのセリフです。あなたがこんなとこに、一人でいるから。」
面倒くささも、相まってつい、語気が強くなる。
「す、すみません!な、なんでもありません、ご心配をおかけしてすみませんでした!」
そう言うと、聖女は、走り去っていこうとする。
「は!?おい、待て!」
俺は、反射的に聖女を追いかける。
「待てって!」
どう頑張ったって、身体能力の差は歴然である。
俺は、聖女に追いつき、聖女の目の前に立った。
「なんで逃げるんだよ!」
そう言うと、聖女は、泣きそうな顔で、再び震え上がった。
あ、やべ。これバレたらシオンに怒られるやつだ。
「……すみませんでした。」
聖女が弱々しく言った。
「いえ、こちらこそ、失礼な態度をとってしまってすみません。」
聖女に合わせて、俺も謝罪する。
そして、俺と聖女の間に、沈黙が流れた。
……どうすっかな。
「なぜ、私を追いかけてきたのですか。私に、何をして欲しいのですか。」
聖女が口を開いた。
「……あなたのことを、聞きに来ました。」
少し考えて、そう答えた。
「少なくとも、俺には、一人で俯いていたあなたが、何も抱えていないようには見えなかった、から。」
誰かが苦しんでいるのを見るのは、昔のことを思い出して、嫌になるから。
「苦しいとは思うが、俺に、教えてくれ。何かできるとは、限らねぇけど。」
気づくと、聖女が、少し驚いた顔で、こちらを見つめていた。
「……どうした?」
「いえ。……お優しいのですね。」
聖女がそう、つぶやくように言った。
「違う。……ただ、俺は、手遅れになって、後悔したくないだけだ。」




