10話 奇跡と悲劇 sideサフィーリア
「そろそろ違うとこも行ってみよっか。」
隣にいるスフィアに話しかける。
思ったより長居しちゃったな。まだまだ見れる場所ありそうなんだけど。
「サフィーリア、私、渓谷に行ってみたいの。」
「あー、ほんとの渓谷のほうね。いいね!」
ここら一帯が、聖闇の渓谷っていう地名になってるのにほんとに渓谷もあるから、ややこしいんだよね。
そして、スフィアと話しながら移動した。
渓谷の方にはさすがにさっきよりは人がいた。
「すごいところだね、まさに、絶景!って感じ!」
こーゆーところ来るとテンション上がっちゃうんだよね。
「だね!私もわかる気がする。」
さっきの場所のようにスフィアがまた、景色に見入っている。
「ほんとに自然が好きなんだねー、スフィアって!」
「うん!でも、サフィーリアも十分だと思うよ!」
いつものように、スフィアと話していた、その時だった。
視界に渓谷から飛び出してきた黒い影が映った。
なになに!?
「これって……魔物!?」
「魔物って……なんでこんな所に……」
その影は、狼のような形をした、魔物だった。
そして、すぐに、すこし離れた場所から、誰かの悲鳴が聞こえてくる。
渓谷の反対側に騎士の姿が見えるけど、あんなところにいたら、きっと間に合わない。
……戦わなきゃ。
「せっかく手に入れた平穏ぐらい守れなきゃね。」
「サフィーリア……?」
スフィアが、かなり怯えているのが声からわかる。
「スフィアは、下がってて。できる限りがんばってみるよ。」
笑ってスフィアに話しかける。
「サフィーリア……ダメ、ダメだよ!あぶないよ!」
サフィーリアの静止を聞かずに、魔物の方に向き直り、深呼吸をする。
「いくよ。閃光」
一瞬にして、魔物の周囲が光に包まれる。
完全に闇属性の魔物っぽいし、光魔法が最適だろうけど、かなり、強そうだしなー。
そう思ったのもつかの間、光の中から斬撃が飛んでくる。
そして、光から出てきた魔物は、案の定、無傷だった。
……やっぱりかぁ。どうやって止めよう、とりあえず、今は助けてくれる人たちが来るまで、時間を稼ぐのが優先だし。
そんなことを考えている間に、気づいてしまった。
あれ、この魔物、こっちを見てない?
よく見ると、魔物の視線は私より後ろのほう、つまり、スフィアに向けられていた。
……スフィアが狙われてる?なんで……
考えている暇はない。今、おそらく冷静に判断することができないであろうスフィアに、魔物を近づけちゃいけない!
「こっちだよ!泡水弾幕」
放たれた水の弾幕が上手く魔物にあたり、魔物の進行を妨げている。
やっぱり、この魔法、攻撃力は低くても、動きにくくなったり、視界が見えにくくなるから、足止めに最適なんだよね!
喜べたのも一瞬のことで、スフィアのほうを見ていた魔物が、急にこっちを向いた。
あ、やばいかも。
考える間もなく、魔物の足が私を蹴り飛ばした。
身体が宙に浮いているのを感じる。
ダメだ、痛みで身体が……上手く動かない。
「サフィーリアーーーっ!」
スフィアの叫び声が聞こえた。
空のほうを向いていても、見えるほどのあたたかい光を感じたのは、もうダメだ、と諦めかけた時だった。
それと同時に、魔物の気配が消えていくのを感じる。
……よかった、スフィアは、これで大丈夫……かな。
吹き飛ばされた私の身体が、渓谷の深くに落ちていく。
スフィアだけでも……助かってよかった……
……約束守れなくて、ごめんね、シオ。
届けられない悔いを秘めて、私は、意識を失った。




