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第九話 怪物、家に転がり込む



洋子の家は、古びた二階建てのアパートだった。お世辞にも綺麗とは言えず年代相応の外観をしているが、部屋の空きは少ないようで、だいたい部屋に明かりが灯っている。


キーっと軋む階段を上がり一番手前の部屋が洋子の借りている部屋のようで、慣れた手つきで鍵を開け中に入る。


出入口の左にはキッチンと小さな冷蔵庫、右にはお手洗いとお風呂があり、ワンルームで部屋の中心に丸机があり小型のテレビと布団が隅に畳まれている。少し狭くはあるが部屋の中は、物が少なく小綺麗な印象だ。


「もう出てきていいわよ。」


洋子は、懐から式札を出し床に置くと机を挟んで式札の反対側に座る。


出ろ出ろ出ろ。

日向が式札の中で念じると徐々に日向の身体が式札から少しずつ出てくる。


入ったときは比べ物にならないほどスムーズに出られたことにわずかな感動を覚えていると洋子が話しを始める。


「帰りの道中でも話したけど、式神になったからには妖退治を手伝ってもらうわよ。」


「んぁ。そうだな、いいぜ。俺そこそこ強いみたいだし。」


日向は楽観的に返事をしつつ洋子に向かってサムズアップとウィンクをする。

そんな日向をジト目で見返す洋子。


「返事が軽すぎて不安になってくるのだけど。」


「まあまあ。そんなことより、洋子は夢とか目標はあるのか?」


帰り道に聞いた話では俺が想像したことよりも更にこの世界は過酷であるようだ。


洋子曰く、古来から人類は妖、悪魔といった怪物と殺し殺されの争いを続けてきたが、日本において最近は特に劣勢に立たされているそうだ。


十年前の東京陥落に加え、二年前の四国陥落により日本の生存圏は近畿、東海地方を中心に北陸地方の一部、九州南部といったところまで縮小を余儀なくされていた。


日本ピンチすぎない?首都占領されてますやん。とも思ったが、どうやらこの世界では京都が首都らしい。


というのも妖退治をする退魔師たちの総本山が京都にあり、その近辺に優秀な退魔師が集っていた。退魔師がいるということは妖の脅威から身を守ってくれるわけで、安全圏を求めて人々が集まって繁栄してきた。


そうした背景もあり日本事態が滅ぶには至らなかったが、東京と四国が陥落した被害は甚大で経済崩壊を起こし死者は千万人を優に超えていたとのことだ。


「どうしたのいきなり?」


「こんな世界だから夢とかそんなもの持って生きられてんのかなって少し気になっただけ。」


日向は机に左肘をつき顔を手に乗せて洋子を見る。


「ないわよ。そんなこと考えてもなかった。妖を退治してるのもお金をもらうためだけ。ただ生きるために退魔師をやってるわ。」


洋子は見つめてくる日向を見ながら、表情を変えず問いにあっさりと答える。


「生きるためだけにか……。」


「えぇ。両親も妖に殺されたから頼れる人なんていないし。」


洋子の両親は共に退魔師であったため、四国が妖に襲われたときに妖退治に向かいそこで命を落としていた。


「よくある話よ。幸いなことに私にも妖退治の才能があったみたいで、まだ普通の生活できているけどもっと悲惨な人生辿っている人も山ほどいるはずよ。」


「そうだよなぁ。こんな状況なら夢だなんだと言ってる場合じゃないよな。」


日向は姿勢を変えて頭の後ろに手を回し、天井を見やって考え込んでいる。

天井には染みがあり、雨が降ると雨漏りでもするのだろうか。


「よしっ。妖バンバン倒しまくってお金ザクザク稼ごう!」


「……単純な妖ね。まぁ、やる気がある方がこちらとしても助かるからいいのだけど。」


洋子を真っすぐ見てニコリと笑う日向の様子に、洋子の表情も柔らかくなる。


「さて、話もひと段落したところだし、夕ご飯の準備でもしようかしら。あなたも食べる?」


「いいのか?!ぜひ食べさせてくれ。手伝うこととかある?」


洋子は出入口横にあるキッチンに移動してテキパキと準備をする。


「いや、あなたの図体で動き回られたら邪魔だから大人しくそこで座ってて。」


「たしかに……。」


洋子から釘を刺された日向は少し上げた腰を下ろして夕ご飯の準備をする洋子の後ろ姿を眺める。


こうしてみると普通の女子高生なんだよな。妖退治なんてことをしているとは到底思えない。


俺がいた世界に生まれていたならきっと両親も生きていて親子三人で仲良く暮らせていたんじゃないだろうか、なんて無意味だと分かっていながらそんな想像をしてしまう。


もし、俺に本当に力があるのならほんの少しでも洋子の力になってやりたい。そう思った俺は洋子の言う通りチョロいんだろうな。


夕ご飯を楽しみにしつつ、そんなことをぼんやりと考えた。


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