第五話 怪物、会話を合わせる
「……分かりました。」
「マジで?!助かるう、自分で言うのもなんだけど珍妙な姿してるから逃げられるかとドキドキしてた。」
少女が重々しい表情で答えると、 そんな少女の様子にも気付いていないのか日向は明るく返す。
先ずはここがどこで元居た世界なのかはたまた別のよく似た世界なのか情報を集める必要があるからな。日向のあまりの軽さに洋子は戸惑いながらも探りを入れる
「あなたは何者なの…?」
「え?お、おれ?名前は朝宮日向。信じてくれないかもだけど…」
若干どもりながらも名前を言い、事情を説明しようとして直前で思い直す。
いや、待てよ。一度自分の身体を見るが明らかに人体の範疇を超えた肉体をしている。
正直に話したとすると国の研究所行きが確定して、生涯研究対象として過ごすことになるのではないだろうか。
「ん?」
途中で静止した日向に洋子が怪訂な顔をして言葉の続きを待っている。
額から汗が垂れたような気がした。
「あのー、、、は、はは」
顔を反らして笑ってごまかしを試みるが、チラリと少女を見るとその顔は険しい顔をしている。
「マジで人殴ってことも食ったこともないんです!これからもそんなこと絶対にしないです !
「なんでもするので!だから研究所送りだけは勘弁してください !」
その場で最終兵器の土下座をした。日向には恥もプライドもなかった。
そこにあるのは筋骨隆々の怪物が少女に土下座をして許しを請う光景のみだ。
しばしの沈黙が場に漂う中、少女が口を開いた。
「……なんでも。いいでしょう。よくわかりませんが許します。」
いよっしゃー。とりあえず研究所に直行なんてことにはならなさそうだぜ。
会話が噛まったく噛み合っていない気もするが、とりあえず何者なのかは話さなくても良さそうだ。
しかしなんでもとは言ったものの、このコスプレ少女が滅茶苦茶なことを言い出すのではないかと少しの後悔が出てきた。
「なんでもとは言ったが俺のできる範囲でだぞ !全裸逆立ちで街を一周なんてしないからな !」
「そ、そんなこと言うわけないでしょ ! 先ずは質間の続きをするわ。あなた誰かの式神ではないの ? 」
日向慌てて訂正をすると少女が質間を変えてきた。
「…しきがみ?なんじゃそれ。あ、いや、俺はただの野良ゴブリンだ。優しさだけが取り柄のゴブリンだ!」
おっと、ここは少女に話を合わせておかないとな。ヨスプレをしているくらいだ、きっと彼女は思春期特有の厨二的な奴なのかもしれない。
俺の返事が気に入らず気が変わって研究所行きなんて嫌だからな。
「いや、あなたみたいなゴブリンがいてたまるか?!ごまかすにしてももっとましな嘘付きなさいよ。」
あまりお気にい召さなかったようだ。年頃の子は難しいな。年齢変わらないけど。
「でも、誰かの式神じゃないってことは…」
少女は喉を鳴らし、意を決した表情をして日向の顔を見る。
な、何を言ってくるつもりなんだ…そんな自分今から真面目なこと言うんで拒否するなよみたいな表情して…恐ろしい
「私の名前は、京極洋子。あなたに私の式神になってほしい。」
真剣なまなざしで日向を見つめ願いを言う。
「あぁ、いいよ」
洋子の一世一代の告白に対して日向の返事は実に軽いモノだった。
まさかの快諾に目を丸くして驚く洋子をよそに日向は立ち上がり、洋子の手を取って握手をする。
いよーし。目覚めたときにはどうなるかと思ったけど、このちょっと様子のおかしい美少女の相手を適当にしつつ寄生して情報を手に入れていこう!
こ、こんな強力な妖を式神にできるなんて…しかも善性の妖で意思疎通もできる。日ごろの行いが良かったからに違いないわ。さすが私!
いまだ両者ともにすれ違いに気づかず。