第二話 怪物、現実を知る
しばらく歩くが、全く景色が変わらない。
小鳥の一匹もおらず、小動物の気配もない。正確に言えば見えてはいるのだが、俺が歩く度に逃げているのだ。猛スピードで俺とは逆方向に飛んであるいは走って消えていった。
自分以外の生物が存在せず、世界に一人取り残されたような感覚になる。
木々が風で揺れてざわざわという音だけが耳に入る。
陽の光も巨大な木々に阻まれて日向のもとに届くのは僅かだ。
…あれ
怖くね……
高校生にもなって恥ずかしいことではあると理解しているが、霊的な何かが出てきそうで急に怖くなってきた。どちらかというと霊的な側である自分が何を言ってるんだと思われるかもしれないが、一度怖いと感じてしまえばそんなことは関係ない。
一刻も早く此処から抜け出したいと日向は、脚に力を入れ走りだそうとした。右足に力を入れ左足を前に出す。が、自分の想像する一歩とは遥かに違い一歩で十数メートルを進み、目の前の巨木に突っ込む。
…あっ
巨木を二、三本へし折り、地面に左足が着地する。
びびりすぎて声も出なかったが、身体に傷はまったくなく痛みもない。
見た目通り強靭な肉体らしい。
凄すぎるだろ俺の肉体!どうなってんだ、これ!
日向は規格外すぎる己の肉体に驚愕する。
もう一度走りだそうとする。先の失敗から学び力を抑えて最初は小走りに段々とギアを上げていった。
筋骨隆々の怪物が凄まじい速度で森を駆ける。
その様相は一歩で大地を砕き、足場には隕石が落ちたような跡ができ、木々を躱し時にはなぎ倒す。
そうして突き進んでいると、森の終わりが見えてきた。木々に遮られていた光が溢れている。異世界の景色はどんなものなのかとワクワクした気持ちを抑えながら森を脱出する。
森を抜けた先、それは日向が想像していた中世の街並みや摩訶不思議なモンスターが溢れる大地などとはかけ離れた、見覚えがある住宅街だった。三階建てのアパートに一軒家、アスファルトで舗装された道路と日向が生まれ育った現代日本だった。
嘘だろ…
エルフの集落は?
ドワーフの鍛冶場町は?
凶悪なモンスターが渦巻くダンジョンは?
日向は異世界転生などしておらず、怪物の姿で再び現代に生まれ変わったようだった。
あまりのショックに全身が燃え尽きた灰のように白くなり、意識が飛びかける。先ほどまでのワクワクは絶望に変わり、これから怪物の姿で生活をする自分を思い浮かべ更に絶望を感じた。
ううぅおぉぉぉぉ!!
頭を抱えてしゃがみ込み、大粒の涙を目じりに蓄え、悲鳴じみた雄たけびを上げる。
これからどうすりゃいいんだよぉ
人っ子一人いない町の隅で怪物が一匹悲しい叫び声が響き渡る。