第一話 怪物に成った日
ーー朝
陽の光を浴び、その眩しさに目を覚ます。
……ん?
ここは何処だ。
見慣れた天井ではない。さらに言えば部屋内でもない。
寝たまま首を振り、辺りを見回すと木々に囲まれ草が生い茂っている。木々の隙間から陽の光が差し込んでいる。
まだ、夢の中かと何気なく頭を掻こうとして、右手が視界に映る。
その手は明らかに人間の手ではない。黒い鱗に覆われ、爪は鋭くどんなものでも引き裂けそうだ。大きさも自分の記憶している手とは二回りも三回りも大きく、下に目を動かせば筋骨隆々の腕が姿を見せる。
仰天して飛び起きると腕、胴、足と自分の身体を順に見ていく。
それは、人の身体というにはあまりにかけ離れた肉体があった。
所々に鱗が生え、漆黒の肉体には金色のラインが模様のように入っている。
丸太のように太い腕に見合うようなパックリと綺麗に割れた腹筋は弾丸も通さないのではと思わせるほどだ。
額あたりを触ると金色の髪が見える。さらに上に手を持っていくと立派な二本角がある。
何処からどう見ても怪物だ。少なくとも人間ではない…
「あー、あー」
声は出せるようだが、いつもより低いように感じる。
ど、どうなってるんだ、落ち着け…昨日は何をしていた…お、俺は…
心を落ち着けようと、自分のこと、昨日のことを考える。
名前は朝宮 日向。
普通のサラリーマンの親父と専業主婦の母さんの間に生まれた高校生で、大学生の姉が一人と中学生の弟が一人いる。身長、体重、運動神経、勉学すべて平均点のザ・平均マンだ。
昨日は、学校が終わって、風呂に入って、ゲームをして晩飯を食べて、歯磨きをしてベッドで寝た。
何もおかしなことはなかったはずなのに、朝起きたらこの有様だ。
まだ夢から覚めてないのか?何かのドッキリか?
そう思って思い切り頬を引っ張ると確かに痛みを感じる。特殊メイクにしてもこの肉体は再現不可能だろう。
混乱する中、ある選択肢が頭に浮かぶ。
もしや異世界に転生したのだろうか!いや、そうに違いない!
何を隠そう俺は異世界転生好きのアニメオタクなのだ。
どうせなら人の姿で転生したかったのだが、仕方なしだ。
先ほどとは打って変わって日向は、異世界に転生したのだと興奮して喜んでいた。
家族や友人に何も言えなかったのは悲しい気持ちはあるし、申し訳なさは感じるが、こうなってしまえばどうしようもない。前世は前世として置いておき今世を謳歌しようではないか。魔法やモンスター、エルフにドワーフもいるんだろうな。
日向は、これまで頭の中で考えていたような展開がこの先起こるんだろうかと胸を躍らせる。
そうだ、とりあえず人を探そう。
此処がどこかも分からないし、このままこの場に留まっても何も起こらないだろう。
そう思い立った日向は、おもむろに歩き出す。