『悪夢を覆すチカラ』
前世で視たと主張して、錯乱状態だと思われた。
自分が正常なのか、自分で判断できなくなった。
転生先で孤立し、誰からも相手にされなかった。
だから瓦礫の街にうずくまっていた。
それでも。
2人だけ、信じてくれた姉弟がいた。
その弟が、目の前にいる。
地下フロアには重苦しい空気が流れていた。
「夢で視た内容。予知夢の証明は不可能だ。だからオレはそれを否定しないけど。それでも、オモチャを受け取る未来は消えて無くなった」
「未来の話に、否定以外のなんなんだ」
「君は、攻略法もカンニングしただろ」
「カンニング?」
不満気に鼻を鳴らす音。
返事はそれだけだった。
「ゲーム大会で、準優勝」
ピクリと背中が跳ねた。
図星か。
「残機ゼロ、クリアすら困難な最高難度のスコアアタック。オレがそう作らせた。5度目で突破できるわけがない、正直に言えよ」
はぐらかそうとしたのだろう。
彼が「なにを」と呟いた言葉。
ひどく震えていた。
「不正行為? 違うね、夢なんだぜ」
「断片的な夢だと言ったな? 廃墟で男に会う、オモチャを貰う。2つが繋がっていると仮定すれば、どうだろう。お姉さんと話していたパイロットスーツの男が、減圧室に入る直前に放り投げてきたキーホルダー、か?」
「夢の話だけどな」
「否定しないのか」
予知夢で視た、2つのゲーム。
ゲーム大会のスコアアタック。
未来で受け取るキーホルダー。
決定的な違いは、歴史改編の有無。
彼は改編前の歴史を懸念している。
さすがに驚いた。
「その先を知ってる、だからオレは否定しない」
「先? ……あの夢の先? それ、話してくれ」
「敵中枢に到達、オペレーターから聞いて失念していた機能に散々苦しめられる。各ステージで拠点防衛していた敵主力機が、次から次へ復活。ボスオンパレードと言われる展開だ」
「あぁ、ゲームの続きね」
「彼女は、生産や補給とは根本的に違う ”減った分だけ戦力を補充する” 方法こそ最大の敵になると言った。武装に気を取られ、その忠告を聞き流したんだ」
「オペレーターの忠告ね」
「最後の敵、いわゆるラスボスだ。それ自体も形態を変えながら何度も復活する。やっとの思いで撃破した時は、質量を維持できずサイズも随分小さくなっていて。後に残されたアイテムは、ひとつだけ」
「割に合わないな」
「そして……カラクリが判明する」
「カラクリ?」
「武器選択画面に【REWIND】、巻き戻しと出た。時間遡行による修復機能、元々は、そんな機械の一部だったんだろう」
「タイムマシンみたいな?」
「どうかな? ……兵器に吸収したから解析できた」
「じゃ、使えなくなってて、試しちゃいないわけだ」
祈織が、軽く首を振った。
「私達に向けて撃ちました」
「でもそれゲームの話だろ」
祈織は、また首を振った。
少しの間、静寂が訪れた。
「祈織さんの話? 私達?」
「オレとかなえさんは、時間を遡ると同時に転生した。機体は激しく損傷し地球へ戻るには燃料も足りない、それしか選択肢が無かったんだ。詳しくは言えないが、それが、神 祈織 の力、それに賭けた」
失敗する公算が大きすぎた。
乾いた吐息が自嘲と共に漏れた。
「つまり……これは、失敗談だな」
「ラスボスは見事に倒したじゃないですか」
「世界がどうなろうと知ったこっちゃない」
こちらを気遣う、祈織のやさしい声。
だからこそ今でも後悔し続けている。
「侵略者から地球を救った、英雄ですよ?」
そっと、細い指が絡みついてきた。
プリシュティナの砲口で、違う身体で。
あの瞬間もこうして手を握ってくれた。
「オレが護りたいのは、この手が届く範囲だけなんだ」
手探りで導き出した、時間遡行の出力。
消し炭になった後、2人の行きつく先。
恐怖におびえて震えていた。
英雄でもなんでもなかった。
苦い記憶から、目をそらす。
「お、おい! 今のが実話なんて冗談よしてくれよ?」
「予知夢を視るって真顔で言う奴の言葉が、ソレか?」
また静寂が訪れた。
「お前、昔っからそういうとこあるな」
「ついさっき会ったばっかりだぜ?!」
「あ~、いや……昔、ってのは違うか」
「なんだよ! 気色悪ぃ話やめろよ!」
いつだって、オレが一番欲しいモンを持ってきてくれる。
20世紀の遺物、今や貴重品。
よくもまぁ手に入れたものだ。
その執着が、彼をこの場へ導いた――――
「くねくねっち、それは何だ、何故買った? 大事な人を護る” 鍵 ”だと信じた、だから無理してでも買った……違うか? オモチャで満足か? 違うな!!」
祈織が制止するより迅く、リモコンを手にした。
ボタンを押す。
薄暗い冷えた空間が、白色光で満たされていく。
「悪夢を覆すチカラ。お前は、ソレを悪夢で視た」
「 あ の 戦 闘 機 ?! ……にしても、この数!!」
「今の手持ちはこれだけだ。既存の機体を改修し、コストと燃費を重視した量産型宇宙戦闘機。とはいえ、宇宙人の鹵獲兵器を運用する。その調達が難しく、まだ未完成の機体が大半だが――」
パイロット候補を探すための、ゲーム大会。
ランキング上位者のブ厚いファイルを見た。
これはもう必要なくなった。
「全部、お前にくれてやる」
「俺に? ……全部ぅ?!」
順調にパーツが揃ったとして、5~6機か。
こちらは無限コンティニューとはいかない。
たとえ、そうだとしても。
ようやく、残機ゼロで挑む時代は終わった。
「横シューは破壊し尽くした先にだけ平和がある、無慈悲な世界だった。だから、機体は多いほうがいいし、パイロットは誰でもいい。勇者なんて必要ないんだ」
作戦目標は、最深部の修復装置。
【REWIND】の物理的破壊。
孤独な進軍、長旅になるだろう。
「でも……オレの手の届く距離に、お前がいて良かった」
ポ カ ッ !
「我が社の最高機密、どうして見せちゃったんですか?! ゲームショウで飾ってプレスとユーザーの度肝を抜く計画だったのに!」
知らず「はぁ」と、溜め息が漏れた。
「痛いなぁ……祈織さんは仕事熱心すぎるよ」
「え? その深刻な話から、今そんな感じ?」