予知夢を違える貘の札
前世で会った連絡員の男、翔。
レトロなLCDゲームを手に入れたが、バックライトが無いのが泣き所だった。知人を介して弊社社員に改造を依頼。チップLEDを追加して暗所で遊べるようにしてもらっていた。
その、待ち時間のことらしい。
メーカーで主催していたゲーム大会でハイスコアを更新し、最終日に逆転されたものの、結果は準優勝。その腕を買ってゲームテスターのアルバイトに雇ったと、祈織は説明したが……
看板タイトルだ、オンラインも含め数千人が挑んだ。
「まさか、いきなり初見で準優勝?」
「まさか! 何ッ回もやったんだぜ」
「何回目で?」
「5回くらい」
絶句した。
たったの5回、ゲームに傾倒している風でもない。それどころか、祈織が採用時にプレイ歴を尋ねて、出てきたタイトルは、子供のころにした2~3本と。
オレが未来で渡した液晶ゲーム。
『くねくねっち』だったと言う。
「どうして、くねくねっちなんだ?」
「鬱陶しい社長サンだなぁ、何だよ」
「いいだろ? それくらい教えても」
「どうせ馬鹿にすっから嫌なんだよ」
彼は逃げるように、祈織へ視線を向けた。
祈織は、ただ、静かに頷いただけだった。
深い溜め息。
観念したように、一言「デジャブ~」と、呻くように呟いた。
「デジャビュ……既視感?」
「とは、違うかもしんない」
祈織が「続けて?」と先を促した。
「夢を視る。ダメんなっちまった世界、廃墟で会った男、貰ったオモチャ、アジトから出撃する戦闘機。断片的で、繋がってて、夢にしちゃあ生々しすぎるんだよ。未来を視る、予知夢ってやつさ」
予知夢にしては、筋書きが違う。
書き変える前の未来を視てる?!
ハッとして祈織を見ると、慌てて首を左右に振った。
転生神すら把握していない、閃光記憶の持ち越し?
「教えてくれ、どこへ出撃した?」
「空が宇宙に出撃した」
「ソラ、て。誰?」
「俺の、姉貴だよ」
「 オ ペ 子 ぉ ?! 」
都合二回、死線を超えて来た。
そのオレも知らない既視体験。
「もしも、オレがいなければ……そんな話?」
祈織に目交ぜすると、静かに首を振った。
「いいえ。水が高きから低きに流れるように、人も時間も摂理には逆らえません。その過程に変化は起こせても、帰結する先は同じ。本来あるべき姿です」
「それ、かなえさんが言うかなぁ」
少し落ち着いて考えてみる。
試験飛行までオペ子とは頻繁に顔を合わせた。
実際の出撃は、博士の管制だったのは何故だ?
……出撃。
同じマスドライバーから出撃したのは、5機。
右城博士の娘も、その一人。
祈織が意識を共有し訓練を受けずに出撃した。
それも打ち上げ、グレイアウトした時点まで。
全て祈織へ明け渡している。
待てよ?
訓練施設にいたのは、誰だ?
短期集中の過酷な訓練に耐えた女が一人いた。
フルフェイスと耐Gスーツを着込んでも女性的な体つき。
シルエットからして違っていた。
「あれは、オペ子だったのか」
何事も他人任せにせず、人一倍、責任感の強い人だった。
その後の展開も知っている。
大気圏を出た時点で、僚機は粗方レーダーから消えた。
他は、想定を超える偵察ドローンの猛攻に合ったのだ。
次々と墜とされていった。
数分後、残っていたのは、自機と右城機。2機だけだ。
オペ子の機体は、露と消えた――――