シークエル(後日談)
それは2度目の転生のシークエル(後日談)――――
新型ウイルスの爆発的な蔓延。
それは、終わりの見えない疫病との闘いだった。
地球外生命体との邂逅と、提供されたワクチン。
思いがけない2つの出来事で、急速に収束した。
アフターコロニャ元年。
そんな幻想を、無警戒に受け入れてしまうほど。
我々人類は疲弊していたのだ。
西暦20x0年。
随分、時間が経ってしまった……
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下矢印が延々流れる階床表示。
それだけが、エレベーターが体を下層へ運んでいると自覚させる。漠然と眺めていると、傍らの女性から声がかかった。
「撃墜した機体の情報が4件入りました」
「前回は情報統制されてて知らなかった」
「今回は先延ばしできています」
「それも、いつまで持つか……」
不意に仄かな重力の緩みを感じて、重々しく鉄扉が開いた。
過剰すぎるほどのセキュリティを施した、知る人も限られる社屋の地下フロア、人感センサーが反応し、仄かに通路を照らしていく。
と。
その先に先客が座っていた。
不思議な現象を見るように天井を仰ぐ。
この場に不似合いな、帽子姿の若い男。
薄く笑ってから、三白眼を細く絞った。
こちらを向いて「バレたか」と呟いた。
驚愕した。
「まさか、そんな……お前!」
「翔君、どうやって入ったの」
前世の知人、連絡員の男だ。
「疲れちゃってさぁ、休憩中」
「ここは立ち入り禁止……まさか奥も?」
「え、奥? なんかあんの?」
悠揚迫らぬ態度、涼しい顔。
本当に知らないようだった。
思い返せば、当然。
オレは前の時代へ逆行転生した身。
この青年との接点は未来にあった。
今は消失している。
この奥で何をしているのか、彼が知る由も無かった。
では、何故ここに?
「かなえさん、お知り合い?」
「全国大会で準優勝した……」
「準優勝! プロゲーマー?」
「は? なんだこのオッサン」
神 祈織は、歳に似合わぬ美貌に艶然とした笑みを浮かべた。
「貴方のバイト先の代表取締役社長です」
「しがないゲーム屋だ、趣味が高じてね」
毒気を抜かれて棒読みで「社長サン?」と繰り返した。
ここまで、うまいこと調子を合わせられた。
近い将来、レジスタンスの連絡員になるが、今は違う。
ここで呑気にバイト中。
このまま歴史改編が進めば、それすら変わっていく……
「ショウ君と言ったか? あらためて、よろしく」
握手しようと手を差し出す。
彼の手から、キーホルダーが落ちた。
何気なく拾いあげて、愕然。
「これは!」
「あーそのピコピコ? くねくねっち、知らない?」
「これを、どこで」
「社長サンも欲しい? 高ぇのなんの、プレミア品」
未来で渡した、レトロなLCDゲーム『くねくねっち』
現時点で、彼は経験していない。
過去の世界、この時代でオレが書き変えた接点だった。
ショウという名の青年に「奥で話そう」と声をかけると、一瞬、警戒心を眉間に刻んだ。
即座に、祈織から「いけません!」と強く制止された。
「社外秘の機密情報があります。翔君はアルバイトです」
梃子でも動きそうにない。
こりゃ、どうしたもんか。
「ぅ、右城」
「うしろ?」
「ぅにゃ?」
祈織は本来、才色兼備で隙のない高嶺の花。
そのうえ現世へ受肉した、転生神なのだが。
右城博士の娘と同調して中に入り込んだり。
逆行転生して生真面目に働いているうちに……
「彼は古い友人、関係者だ……右城なら、意味わかる?」
「はいっ!」
なんか少々ポンコツになった――――