7話 やせいせいぶつ
「あっ、見て見て! これってもしかして やせいせいぶつじゃない!?」
どうやらアニがまた何かを発見したみたいだ。
アニは私の事を気遣ってか事ある毎に報告してくれる。
僕は目が見えないのでその殆どが見えないのだけれど、なんだかんだ言ってちょっと嬉しい。
ただ運ばれている荷物じゃなくて、みんなと同じ旅の仲間なんだって教えてくれているように思えた。
「えっ、やせいせいぶつ!? どれどれ!?」
「ほら、これ!」
「うわー、珍しいねー。」
みんなはそのやせいせいぶつとやらを物珍しそうに観察していた。
それはそんなにも珍しいものなのだろうか?
僕は興味が出てきてしまった。
「ねぇルカ、もうそろそろ見ても大丈夫かな?」
「うぅん、もう結構経ってるし大丈夫だとは思うけど…………。」
「もおー、ルカは心配しすぎだよ! あたしが使ってた時はそんなに危ないものじゃなかったし、大丈夫だよ!」
「うーん、そうだね、このサイズの可愛いやせいせいぶつなんかこれから見る機会なんて殆ど無いだろうからね…………。」
ルカはもう一度唸った。
「分かった、良いよ、けどその代わり、絶対に無理はしないでね!」
「うん、分かった!」
ルカの許可を獲た僕は早速見ようとするのだが、よく考えたらまた見えるようにする方法が分からない。
「アニ、これどうやって見えるようにするの?」
「んーとね、こう、目にぐぅーっと力を入れて、目の中の目を開くみたいな感じ?」
「…………何それ?」
アニの説明はよく分からなかったけれど、とりあえず何とかやって見ることにした。
何となく目を瞑るような感じで目に力を入れてみるが、特に何も起こらない。
今度は逆に目を開けるように力を入れてみるが、やはり何も起こらない。
「あ、アニぃ、出来ないよぅ。」
「うーん、なんでだろう、あたしの時は簡単に出来たんだけどなぁ。」
「アニの説明が抽象的すぎるんだよー、えっとね、目を凝らす時みたいな感じで目に力を入れてみてー。」
「こ、こう?」
僕はサナの指示に従い、何も見えはしないけれど目を凝らしてみる。
すると、目の真ん中辺りに何かがあるのを感じた。
「そしたら目になんかある感じがすると思うんだけど、それを動かそうとしてみてー。」
「うん、分かった!」
僕はその何かを動かそうとしてみた。
すると、不思議な事に今まで感じたことの無い部分が動いているのを感じた。
そして、その度にチラチラっと周りが少しだけ見えた。
「あっ、何だか出来そう!」
「うん、良かったねー。」
「うおー! サナはやっぱり説明が上手だな!」
「まぁね、伊達に長年一緒にいる訳じゃ無いからねー。」
僕はサナの説明のおかげでコツを掴み、何とか少しづつだけど見えるようになってきた。
「あっ、そうそう、一気に周りを見たりしたら負荷がすごいから、一旦は地面だけを見るようにしてね!」
「はーい!」
僕は首を下に向けて地面だけに集中した。
コツを掴んでから直ぐに僕は周りが見えるようになった。
僕はいま座っていたのが大きな石だったのを確認して、そーっと立ち上がった。
「こっちだよ!」
アニが僕の手を引いてやせいせいぶつの所まで連れていってくれる。
僕はドキドキしながら1歩1歩着実に歩いていった。
「ほら、これだよ、可愛いよねー!」
ルカが嬉々として指さす方を見てみると、そこには…………。
「何……これ?」
僕は思わず絶句してしまった。
何故ならそこには拳大ぐらいのうねうねとした生物が居たからだ。
「これが……やせいせいぶつ?」
「そうそう、可愛いよねー。」
「う、うん…………。」
僕以外のみんなは可愛いと言っているし、これはきっと可愛いものなのだろう。
ただ、僕にはどうしても気色の悪いものにしか映らなかった。
まだしっかりと周りを見ることが出来ないから気持ち悪く見えているだけかもしれないけど…………。
……いや、きっとそうだ。
僕はルカの近くに言って周りを見えなくした。
平衡感覚が一気に失われ、ルカの方に倒れ込んでしまう。
「あれ、もういいの?」
「うん……もう十分かな?」
本当は気持ち悪くてもう見たくないから見ないようにしただけなんだけど、それを可愛いと思ってみているみんなに言うことでも無いと思って僕は黙ってルカにぎゅっと抱きついた。
「メグ? 何か嫌な事でもあった?」
「え? ううん、何でもないよ。」
「……そっか、ならいいんだけど。」
そう言ってルカは僕を抱き上げ、頭を撫でてくれた。
それだけでさっきの不快感はすっと消えていく。
「ねぇ、僕早く温泉に入りたいな、もう出発しない?」
「ええっ、あたしもうちょっとだけ見てたいんだけど…………。」
「んー、僕はもういいかなー、うん、出発しよー。」
「えー、こんなに可愛いのに…………。むー、じゃあ、出発しようか…………。」
アニは悲しそうにそう言った。
アニには申し訳ないけれど、あの気持ち悪いやつとは少しでも早くおさらばしたい。
アニは最後までまだ残りたいと言っていたが、僕はルカに抱き抱えてもらい、その場を去った。