30話 お友達
僕はプエラに僕達の温泉巡りの旅について話すことにした。
「…………そんな、目が見えないなんて可哀想なの。」
プエラは僕の境遇に同情してくれた。
僕からしたらプエラの方が可哀想なのだけど、プエラはそんなのどうってことないと言わんばかりに僕に対して同情してくれていた。
「…………け、けど、それでもお客さんをここに入れることはできないの。」
「うん、それは分かってる。だから、僕達は仲間になれば良いんじゃないかなって思ったんだよ!」
「仲間?」
プエラは突然の言葉にキョトンとしてしまっていた。
「プエラもずっとここに1人だと寂しいでしょ? だからプエラも僕達と一緒に来れば良いんじゃないかな? そうしたら僕達はもうお客さんじゃなくて仲間になる訳だから、温泉にも入れるでしょ?」
ちょっと無理がある気もするけど、今の僕にはこの解決策しか思いつかなかった。
しかし、プエラは僕の言葉にあまり肯定的な反応を見せなかった。
「プエラはお母さんと約束したの、だからプエラはここから離れる事は出来ないの…………。」
「そっか…………。」
僕達はいずれここからまた別の場所へ行ってしまう。
ここが僕達の目的地である病気を治す事が出来る温泉だったとしてもルカ達の怪我が治る訳じゃ無いからまた別の場所に行かなければならない。
僕達が居ない限りプエラは1人のままだ。
僕の提案は僕達が温泉に入りたいからしたものでもあり、それと同時にプエラを1人にしない為のものでもあるのだ。
こんな小さな女の子がお母さんを失ってこれからずっと1人なんて酷な話だ。
どうにかしてプエラを一緒に連れてこうとしたけれど、プエラは頑なにこの温泉宿に留まろうとしていた。
「ねぇ、プエラ、ずっとこのまま1人なんて嫌だよね?」
「プエラは1人じゃないの…………お母さんが、お母さんが居るの…………。」
そう言うとプエラは泣き出してしまった。
僕の胸もさらに締め付けられる。
プエラも本当はお母さんがもう居なくなっていることは分かっているのだろう。
だけど、それを理解しない振りをしてどうにか孤独を感じないようにしているのだろう。
僕はその様子を見てプエラを1人にしてはいけないと強く思った。
僕は黙ってプエラをぎゅっと抱きしめ、頭を撫でてあげた。
いつもルカが僕にやってくれるようにだ。
最初は我慢するようにすすり泣いていたプエラも今までの孤独が一気に来たのか次第に大きく泣くようになっていた。
その泣き声を聞いてルカ達もこちらに集まってきたが、僕は口に人差し指を当ててそれを制した。
プエラはそれからかなりの時間泣いていた。
その間僕はずっと大丈夫だよと言ってプエラを抱きしめていた。
しばらく経って落ち着いたのか、プエラは少し恥ずかしそうに僕から離れた。
「うぅ、ありがとうなの…………。」
プエラは先程までよりも僕との距離を取っていなかったので、少しは信用を得られたのだろうと思う。
「やっぱり、プエラは寂しいの…………。」
そう言って僕の手をプエラはぎゅっと握った。
僕はその姿に思わずキュンとしてしまった。
「じゃあ、やっぱり僕たちに付いてくる?」
僕は再度その提案をした。
しかし、プエラはまた首を横に振った。
ただ、今回は先程までとは少し様子が違った。
「…………メグに着いてくことは出来ないけど、やっぱりメグ達を温泉には入れてあげるの。」
「ほんと? …………けど、それじゃあプエラは1人のままだけど…………。」
「だから、条件をつけるの。」
「条件?」
プエラから初めての前向きな返答に僕の声は勝手に明るくなる。
僕はその条件の内容について聞いた。
「条件は…………プエラのお友達を探してきて欲しいの。」
「お友達…………どんな子なの?」
「えっと、プエラのお友達は、ケイトって言って猫さんなの!」
「猫さんか…………ねぇ、ルカ、探せる?」
僕は猫さんというのがどういうものなのかよくわかっていなかったため、とりあえず後ろにいるルカに聞いてみた。
「猫さんだったら…………うん、多分大丈夫だと思うよ。アニとサナも居るしね!」
ルカは近くの椅子にちょこんと座っていたアニとサナを指してそういった。
「もちろん! このアニに任せればものを探すなんて楽勝だよ!」
「そうだね、僕達が居れば見つからないものなんてないよー。」
そう、2人は頼りがいのある返事をしてくれた。
「よし、じゃあそのケイトって言う猫さんを見つければ良いんだね!」
「うん。」
「分かったよ! じゃあみんな、行こう!」
僕はもう一度ルカに抱えてもらい、その猫さんを探しに行こうとした。
しかし、次の瞬間、服に妙な張りを感じた。
これは誰かに引っ張られてるみたいな…………。
その妙な張りがある方を見てみると、そこには恥ずかしそうに僕の服を引っ張るプエラが居た。
「あれ、どうしたの?」
僕はプエラにそう問いかけた。
「…………プエラ一人でいたくないの、ついて行っていいの?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりの勢いで僕は勿論と言い、プエラもケイトという猫さんを探す事になった。




