27話 おかみさん?
「んー、あっ、本当だ!」
「あれ、もしかして建物壊れてないんじゃない!?」
「えっ、本当!?」
一筋の希望を見出した僕に少しの元気が戻ってくる。
僕はその姿を目に収めようとするが、ルカに制されてそれは出来なかった。
「まだもうちょっと距離があるから、近くまで行ってから見よ?」
「うん、わかった。」
はっきり言ってその姿を見るというのは特に重要な事では無い。
重要なのは温泉に入れるか入れないのかという事だ。
温泉に入れると言うなら最悪どれだけボロボロだとしても僕は許容できる。
僕達はみんなで温泉宿にドキドキしながら近づいて言った。
みんなが言うには建物の状態はかなり良いらしい。
まだ割と新しい建物みたいで、他の建築物よりも多少丈夫にできているみたいだ。
「ということは…………どうやらおかみさんは居るみたいだねー!」
「や、やったぁ!」
先程までとの顔とは打って変わって僕は顔を綻ばせた。
やっぱり不安だったからこそ、入れるとわかった瞬間の嬉しさは尋常じゃない。
僕は飛び跳ねたいような気分になったが、動けない為、ルカの手の中でガッツポーズを作る程度に留めておいた。
温泉宿の目の前まで着いた頃に僕は温泉宿を眺めた。
とても丁寧に手入れがされているのか、壊れているところや汚れている所は見当たらない。
そして、僕の気のせいかもしれないが、今までと少し雰囲気が違う。
この前まで入っていた温泉宿は結構木や石などが使われていることが多かったような気がしたけど、今回の温泉宿は今までよりも角張った石が使われている。
僕はどんな装飾が綺麗とかそういうのは分からないけれど、何だかこっちの装飾の方が豪華な様な気がする。
ただ、それは好きという感覚ではなくて、どちらかと言えば前までの方が温かみがあって僕は好きだった。
「へぇ、立派な建物だね…………もしかしてここ、結構高いんじゃないー?」
「ふっふー、そんなこともあろうかと銀行の所でたんまり貰ってきたでしょ? …………まさかこれで足りないなんて事はないと思うんだけど…………。」
「まぁ、とりあえず入ってみよ!」
アニが先陣を切って扉へと向かった。
アニが扉の前に立つと、奇妙な事にその扉がウィーンという音を立ててひとりでに開いた。
「ぎょえっ!? な、何だこれ!?」
目の前に居たアニは変なポーズを取りながら飛び跳ねた。
今のポーズはちょっと面白かった。
「こ、これってまさか…………幽霊!?」
「あははっ、違うよアニ、これは自動ドアって言って僕達が扉の前に立つと勝手に開くように作られてる扉だよ!」
「そ、そんな扉があるのか………。」
アニは尻もちを着きながら物珍しいものでも見るような視線をその自動ドアというものに向けていた。
「ま、ということで、入ろっかー。」
尻もちを着いたアニをサナが起こしながらその扉の向こうへと進んで行った。
僕とルカも2人を追いかけて温泉宿の中へと入っていった。
「ふわぁー! な、なにこれ!?」
温泉宿の中を見た僕は思わず驚きの声をあげてしまった。
何故なら、今までの温泉宿とは比べ物にならないほどに広かったからだ。
その場所には見るからに造り込まれた椅子やよく分からない形の石など、様々なものが置いてあり、どれもが僕の目を引くものだった。
ただ、一つだけ気がかりなことがあった。
「あれ、おかみさん居ないな?」
アニが辺りをキョロキョロと見回しながらそう言った。
こんなに綺麗で、とても手入れのされていそうな空間なのに、それをしているはずのおかみさんがどこにも見当たらないのだ。
となるとここのお手入れは誰がやっているのかという話になってくる。
そこで僕は先程のアニの発言を思い出した。
ま、まさか…………。
僕が勝手に怖がっていると、いきなり僕の目の前でチーンという音が鳴った。
「ひゃぁっ!? な、何!?」
幽霊の事を考えていた事もあってか僕はとんでもない声を上げてびっくりしてしまった。
僕は大きく飛び上がり、ルカに抱き着いた。
「ご、ごめん、そんなに驚くなんて…………。」
「うぅぅー、音出す時はちゃんと声掛けてよー!」
僕は涙目でルカをポカポカと叩いた。
その時、その時の音と重なる様にパタパタという音が遠くから近づいてきた。
「…………ねぇルカ、誰か近づいてきてる?」
「ほんとだ、おかみさんかな?」
僕達はその足音のような物が近づいてくるのを黙って待っていた。
足音が一旦止まり、ガチャりと近くの扉が空いた。
僕達はそこからおかみさんが出てくると思っていた。
しかし、そこから出てきたのは…………。
小さな女の子だった。
「わ、わ、ひ、久しぶりのお客さんなの…………。」
「「誰!?」」




