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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

洋風ボーイズラブまとめ

聖女なら双子の妹で・・・え、目的は僕ですか?

作者: さんっち

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


日々の行動は、意外としっかり誰かが見ているもんです。

魔境付近にあるドルメニア王国では、魔法が発達している。優れた魔法使いであるほど、相応の地位が与えられる社会構造。


ブランヘルツ伯爵家の屋敷には、今日も苦しむ領民が駆け込もうとしていた。


「お願いです、マリヤ様に会わせてください!子供が3日前に熱を出してから、今日になって邪気に蝕まれた症状が出て・・・私達でも手を施しましたが、どうすることも出来なくて!」


「悪いが個々人の依頼には応じないと承っている。他を当たってくれ」


「そんな!どうしていつも、領民に魔法を施してくださらないのですか!?」


「何だ、この王国を守る()()への侮辱か!?」


見張りの雇われ兵に槍を向けられ、大慌てで逃げる平民の母親。ゲホゲホと苦しそうに咳き込む息子を見て、何度も謝罪を繰り返している。


「既に私達では手を尽くして、それでもどうにもならなかったから、聖女様のお力が欲しかったのに。あぁ、私がもっと魔法が出来れば・・・」


ポロポロと子供の額に涙を流し、やがて膝から崩れ落ちてしまう。その女性に声をかけるべく、古びた別邸から少年は飛び出した。


「突然すみません、僕が魔法を施して宜しいですか?」


「そ、その紺色の髪・・・マ、マリヤ様?」



「いえ、僕はマルタです。平均的な魔法使いですよ」



マルタ・ブランヘルツ、マリヤの双子の兄だ。だが双子は産まれた瞬間、扱いに差が付いた。


何故ならマリヤは産まれたとき、常人の何十倍もの魔力を叩きだしたからだ。会得が難しい浄化・回復魔法もあっさり覚えて、国から「聖女」の称号を得る程に。


いつしかマリヤばかりを可愛がる両親は、マルタを放置するようになっていた。関わりを絶つように、独り別邸に追いやったくらいに。


マリヤは両親に甘やかされた結果、「自分こそ1番」と思うようになり、傲慢な部分が強い。本来領地を統治すべく与えられた聖女の称号だが、貧しい領民からは還元率が悪いと、全てを無視しているのだ。


自身が怠けているから、領地は貧しいというのが分からないのか。しかし妹に甘い両親は、マリヤの行動を全て受け入れてしまっている。


(僕らは腐っても貴族なのに、あんな調子じゃダメになる)


そんな思いで、マルタは必死に勉学と特訓を重ねた。最近ようやく浄化・回復魔法を使えるようになり、こうして苦しむ人々を助けている。


酷い熱がある子供にそっと触れて、浄化と回復魔法を施す。柔らかな光を当てること数分、次第に子供の呼吸は落ち着いていき、やがて目を開けてキャッキャと笑い出した。


「あぁ!本当にありがとうございます・・・なんとお礼を申したら!」


母親からは泣いて喜ばれたが、むしろ伯爵令息でありながら、困窮する領地を何とも出来ない自分が不甲斐なかった。


それでも感謝されるのは嬉しい。少しでも役立てるなら万々歳だ。


今日も彼は影の魔法使いとして、静かに生きている。



その日は、王族主催の夜会。伯爵夫妻もマリヤも綺麗に着飾り、意気揚々と会場に足を踏み入れた。途端に「聖女様!」と声が上がり、多くの貴族がブランヘルツ伯爵家に挨拶しに来る。


その集団から少し外れて、マルタは立っていた。地味な黒装束を纏い、フードを深くかぶっている。


「どういうわけか双子で招待されている。連れて行ってやるが、影に徹しろ」という命令から、目立たないように心がけている。



「ブランヘルツ伯爵家だな、待っていた」



伯爵家を名指しする声と共に、1人の男が姿を現した。


短髪に金色の瞳、胸元には王家の紋章を模したペンダント。第四王子ジャーディンだ。優秀な魔法兵士として、魔物討伐に力を入れている。


先週まで長期間の遠征に出ていたからか、腕や顔などアチコチ手当てされていた。この姿でも動けるとは、優秀な魔法兵士とは伊達じゃ無い。


突然の王家からの声かけに、一族は慌てて頭を下げる。


「ジャ、ジャーディン王子!」


「そう緊張するな、少し話がある。俺を救ってくれた、優秀な魔法使いにな」


そ、そうでしたか!とマリヤがすぐに反応した。どこか大袈裟で、絶対に覚えがないのだとマルタには分かる。


王子の中では唯一独身のため、マリヤは婚約者の座を狙っていた。国王の末子で王位継承権は低いが、地位も財力もある。聖女の自分こそ相応しい、婚約者に確実だと、信じて疑わない。


周囲からも「さすがは聖女様」と注目の的になり、優越感に浸っているマリヤ。ニマニマが止まらないようだ。


「王子様からそうおっしゃっていただけるなんて、嬉しい限りです。聖女の責務を果たすことが出来て、本当に光栄で・・・」



「悪いがお前ではない、どいてくれ」



さらっと王子は言い切ったと思えば、マリヤを素通りする。そして人混みから外れた場所に立つ、マルタの前にやって来た。


「マルタ・ブランヘルツ、ようやくこの名を呼べるときが来たな。あの時の俺を救ってくれて感謝する」


両親とマリヤが酷く困惑するが、それはマルタも同じ。「え?」と物言いたそうな表情になってしまい、脳内が「?」で覆い尽くされる。


「えと、あの、その・・・?」


説明するより見てもらった方が早いと、王子は顔のガーゼを外した。下から現れたのは、爬虫類のような鱗で覆われた右目側。


(こ、これって・・・「魔物化」の痕?)


邪気に蝕まれた症状の1つだ。本来なら聖女の治癒で見慣れているはずだが、マリヤは即座に「キャァアア!」と悲鳴を上げる。



「いやぁああ!なによその目、あの醜い【蛇男】じゃないの!!


なんてモノを見せてんのよ、気持ち悪い!」



蛇が嫌い、気持ち悪いモノが嫌い、自身の機嫌を損ねる奴が大嫌い。お淑やかな聖女の仮面が外れ、本性を見せたマリヤ。混乱したのか、目の前にいるのが誰かも忘れて罵倒する。


それがあまりにも不敬で、公然でとんでもない失態をかましたと、数秒して気付いたようだ。「あ、これはっ」と慌てるマリヤに対して、王子は淡々と話しかける。


「覚えているのか。お前が治療を拒絶した、あの醜い【蛇男】を」


ザワッと周囲は騒ぎ出した。「治療を拒絶?」「あのマリヤ様が?」という声が聞こえる中、マルタには【蛇男】と呼ばれた男との記憶が、鮮明に蘇ってきた。


●●


伯爵家の屋敷近くで、1人の兵士が発見された。近隣で魔物討伐をしていた際、蛇の魔物に襲われて、重傷を負ってしまったという。


彼の魔物化は深刻だった。蛇の頭に、大量の鱗に覆われた腕。魔物特有の蒼い血を垂らしながら、舌を伸ばして必死に呼吸している。


異様な見た目に、マリヤは先程以上の悲鳴を上げた。


「こんな【蛇男】なんかに魔法を使いたくない!そもそも評価や金にならないじゃない、さっさと屋敷から追い出して!」


当人の前でそう言い放ったと思えば、逃げるように王都へ遊びに行ってしまう。


こんなに大怪我しているのに、助けるどころか精神的に追い詰めるなんて。どうしてここまで薄情な奴なんだと、ギリッと唇を噛んだマルタ。


すぐに兵士に駆け寄り、彼の手を包み込む。



「僕が治療します!例え時間がかかっても・・・貴方を救ってみせます!」



マルタはその兵士を別邸に匿い、その日はずっと回復魔法を施した。平均的な魔力しかないため、出血を止め、深い傷口を塞ぐのは夜までかかってしまう。一通り終われば力尽きるように、彼の横で寝てしまった。


それでも翌日、目を覚ましたマルタには毛布が掛かっていた。どうやら兵士が気を配って、1枚渡してくれたらしい。飛び起きれば、蛇の瞳と目が合った。


「ハッ、す、すみません!昨夜はよく眠れましたか!?」


マルタの声に、兵士はコクコク頷く。とりあえず山は越えたようでホッとした。


魔物化により言葉は話せないため、意思疎通はジェスチャーか筆談だ。


「差し支えなければ、お名前を教えてください。なんと呼べば良いのか分かれば、話もしやすくて」


兵士は少し悩んだ後、【ジャン】と少しクセのある流れ文字を記す。


「ジャンさんですね。僕はマルタ・ブランヘルツです」


【助けてくれて感謝する】


「滅相もありません。むしろこの方法でしか貴方を救えず、申し訳ないです。


マリヤの力には到底及びませんが、貴方を蝕む邪気を浄化してみせます!」


浄化・回復魔法による手当ての他にも、体を拭いて清潔にしたり、食事を用意したりと、身の回りの世話も欠かせない。同時に家の雑務をこなし、困りごとを抱える領民を手助けする。


マルタは朝早くから夜遅くまで起きており、時々寝落ちするほどのハードワークを抱えていた。


それでも懸命な治療の結果、ジャンは少しずつ回復していく。魔物化も少しずつ改善していき、全身の鱗もかなり消えた。


残るは顔のみ。少しずつ髪や耳など、ジャンの顔は人間らしい部分が戻ってきた。


あと少しで完治する、そう思っていた頃。外に出ていたマルタは、顔に痣を作ってきたのだ。慌てるジャンに、アハハと笑いながら説明を始める。


「驚かせてすみません。実はマリヤが領民に対して、一方的に酷い言葉を言い放ってたんです。それを注意したら、両親に伝えたみたいで。


激怒した父が怒鳴り散らして、その勢いで。いつもは言葉で終わるんですけど、今日は荒れてたなぁ。


夕食も抜かれましたが、まだ保存食の貯蓄がありますし」


残り少ない干し芋を手に取り、ジャンには大きい方を手渡すマルタ。大丈夫、何ともないという顔で静かに干し芋を囓っていたが・・・気付いた時には、その瞳からポロポロと涙を流していた。


「アハハ・・・本当は分かってるんですよ。こんな生活イヤだって、あんな家族イヤだって。


でも、どうしようも出来ない・・・そんな自分も、嫌・・・」


言葉の途中で、フラッと倒れ込むマルタ。ジャンの体に身を任せてしまうが、もはや動いていられない。疲れも相まって、眠ってしまったのだから。



目覚めたとき、マルタはベッドで横になっていた。ジャンの姿は何処にも無い。【ありがとう、俺はお前の味方だ】という手紙が、床に残されていただけ。


まだ完治していないのに、出て行ってしまったのか。別の人間に襲われないだろうか、無事に戻れるだろうか。考えれば考えるほど、不安になってしまう。


心にポッカリと穴が開いたのを隠すように、まだ痛む頬を撫でて、彼の無事を祈るのだった。


●●


そして現在。まさか当人が、しかも王子が、目の前にいるとは。


「ジャンさんが・・・ジャーディン王子?」


背丈も髪色も、あの時の兵士と同じ。しかし王子をあばら屋に匿い、ボロボロなベッドに寝かせて、干し芋ばかり食べさせていたなんて!


そんなマルタの混乱など知らず、ジャーディン王子はそっと、彼のフードを取る。露わになった紺色の髪と、痣のある顔。


自分に回復魔法を使う余裕が無いマルタ。殴られた痕は、まだハッキリ残っていたのだ。ジャーディンは指でその痣を拭いながら、そっと口付けをする。


「お、王子・・・」


「誰かを守ってばかりのお前が傷付くと、心が痛むからな」


まさかこんな人前で、王子から迫られるとは。それでもその優しい声に、温かい手に、ジワッと涙が溜まってしまう。


そんな空気をぶち壊すように、マリヤが割り込んできた。


「そ、そんな。あの蛇男が王子だったなんて!そうだと分かっていれば、私は喜んで治療していましたよ!」


「上位身分以外の者は、治療したくないという主張か」


先程と変わって鋭い目を向けられて、マリヤはビクッと震えた。「でもっ!」とまだ何か言おうとした彼女を、両親は死んだ目で止めた。


もはや彼女が何を言っても、火に油を注ぐだけ。


「マリヤ・ブランヘルツ伯爵令嬢、領内で苦情が大量に入っている。領民や周辺地域に対して、聖女の執務を何もしていないとな。


さらに数年前から支援金を送っているにもかかわらず、領地は貧困のまま。


国への虚偽報告及び、領地からの数多くの懇願。今回の俺の遠征は、ブランヘルツ伯爵領の現地調査でもあった」


ジャーディンは文官から、様々な資料を受け取った。嘘だらけの活動報告、負債ばかりの帳簿など、伯爵夫妻と娘マリヤの実態が次々と明らかになっていく。


「あの別邸に匿われていた期間にも、色々見せて貰った。そちらの振る舞いに領地の現状、そしてあまりにも偏った家の構造をな。


苦しむ領民を放置して、特定の者を見下し嘲る者に、聖女の器は無い」


「なっ、なっ、な・・・!嘘よ、だって私は魔力を!」


「魔力があろうが、それを使う者の心が歪んでいる時点で、価値など皆無。虐げや侮辱といった、人として踏み外した行為をする輩は尚更だ」


王子はマルタを引き寄せ、自身の後ろにやる。そして懐から王命を取り出し、淡々と読み上げた。



「本日をもって、マリヤ・ブランヘルツから聖女の称号は剥奪する。聖女の怠惰を見過ごした伯爵夫妻にも、相応の処罰を直に下す。


また領地の現状を見て、ブランヘルツ伯爵家による統治は困難と判断された。よって土地及び人民、財など全てを国が差し押さえる」



権威と財を全て奪われた両親とマリヤは、フラフラと膝を付いた。兵士は彼らを立ち上がらせれば、無表情で会場から連れ出す。


いくら嫌っている家族とはいえ、こうして公で断罪されるとは。まぁ相応のことをしてきたのだ、仕方ないとけりをつける。やがて騒動は一段落して、会場の雰囲気は落ち着いた。


だが領地を差し押さえられたことは、やはりマルタにも堪える。やっぱり何も出来なかった、これからどうしよう。


不安で俯くマルタに、ジャーディンはそっと声をかける。


「マルタ、()()領土を支える気は無いか?」


「えっ?」


「俺は第四王子、用途の無い余り物だ。ならお前に協力したいんだよ」


王家の中で低いとはいえ、王子自らが伯爵領を統治するとは。異例の提案に、マルタは目を丸くする。


「ブランヘルツ伯爵領は、魔物の出現率が特に高い。国も重点的に統治しなければならない地域なんだ。


完全に国の管轄にしても良いが、そうなるとお前の行き場がなくなる」


本当は婚約して輿入れさせたいのに、父上が許してくれない・・・と頬を膨らませるジャーディン。さらっと凄いことを言われて、思わず赤面してしまった。


「知らないと思うが、お前は領民からの評判が良いぞ。何でも親身になってくれる、人として信頼できると、聞き取りでは語っていたくらいだ」


お前となら出来る、と手を差し出された。よく見れば魔物化の痕が残っており、手のひらはまだ鱗が一部残っていた。


正直不安しかない。魔法しか能の無い自分が、領主として振る舞えるのか。


「分からないことは、分かるまで教える。不安なことがあれば、協力する」


それでも、この手を握れるのなら。味方である人と、共にいられるのなら。



「・・・はい、よろしくお願いします!」



初めて握った他人の手は、どこかゴツゴツしていて、温かかった。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

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