第4話 ……海だ。
待ちに待った放課後がやって来た。
ようやく帰れる事を嬉しく思いながら、立ち上がってカバンを肩に掛けると、ふいに声を掛けられた。
「一緒に帰ろうよ」
声を掛けてきたのは朱梨だった。
いきなり話し掛けられたのでもちろん驚いた。
思わず変な声を出してしまうぐらいに。
「え、その……、一緒に帰るというのは……」
「なに、嫌なの?」
素直に一緒に帰るのをOKしなかったからだろうか。
少し怒ったようにこちらを睨みながら言葉を続けた。
「クラブ入ってないし暇人だから時間あるでしょ。……ダメ?」
「……ダメ……じゃない」
「そう。ならよかった」
「……あと、嫌じゃないから」
告白をするような相手に一緒に帰ろうと誘われて、嫌な訳が無い。
俺が正直に気持ちを伝えると、彼女は嬉しそうに表情を緩ませてニコッと笑った。
「知ってる。わざわざ告ってきたもんね」
「……分かっててわざと聞いたのかよ」
「ごめんって。なんか可愛い反応するから」
と、朱梨はいたずらっぽく言ってから、やっぱり恥ずかしくなったのか耳を少し赤らめて視線を逸らした。
こういう反応をする彼女も十分可愛いぞ、と言いたくなったが、なんとなく怒られるような気がしたので口にはせずに言葉を飲み込んだ。
こんなやり取りを見ていたクラスメートからは、言うまでも無いが刺のように鋭い視線を浴びせられた。
けど朱梨から誘ってくれたというのもあるのか、俺が脅してる説は消え去ったようだ。
代わりに、彼女を好きな男子からは陰口を言われているのが聞こえてきた。ほとんど喋った事の無い人だったから別にいいけど。
◇ ◇ ◇
「海だ」
「そうだけど?」
朱梨と肩を並べて普段通らない道を歩いていると、海に着いてしまった。
彼女の目的地はここだったよう。
夕日が反射していて、とても綺麗。
「……帰るとは」
「えぇー。いいじゃん、ちょっと寄り道するぐらい」
いいけど、と言いたいところだが、よりによって録画していない見たいアニメが5時から始まる日なのだ。
ちゃんと録画しておけばよかった。
でも、朱梨と二人きりでこんなところに来れるのは嬉しい。
よくよく考えるとアニメなんてどうでもいいような気がしてきた。
「まあ、いいんだけどさ」
朱梨と過ごしてる時間の方がよっぽど楽しいだろうから。