第3話 撫でて
退屈な授業が終わり、ようやく休憩時間に入った。
ふと隣を見ると、朱梨が机に頭を預けて眠っている。
「寝てるのか……」
……せっかくドキドキさせるために良さそうな案を考えていたのに。
本当に寝ているのかは分からないが、なんとなく声を掛けるのはいけないような気がした。
だから、代わりに彼女の頭に手を優しく置いた。
どうしてこんな事をしたのか自分でも分からない。
それでもクラスメートからの注目を浴びながら、小動物のように丸まっている朱梨を撫でる。
「ひゃっ……」
手を動かした瞬間、彼女の体が一瞬だけ痙攣したようにピクリと震えた。
声も、小さかったが出したのを聞き逃さなかった。
「ご、ごめん。嫌だった……?」
いきなり変な行動を取ったので、嫌がられた可能性は全然ある。
ドキッとさせる前に嫌われたら困るぞ。
そう思った俺は、反射的にすぐ謝った。
しばらく返事を待っていると、ようやく朱梨が口を開いた。
「……もっと」
「え?」
「もっとやって」
「……はい」
彼女がそう言うということは、嫌がられていない、ということでいいのだろうか。
どちらにせよ、お願いされたので撫でるのを続けるが。
「…………なぁ、そろそろやめていい?」
「だめ」
「えぇ……」
しばらく撫で続けて思った。
クラスメートから殺気の籠もった目線を向けられている事に。
朱梨は男女問わず人気者なので、彼女を守らないと、とか思ってしまうのだろう。
異性として好きなら特に。
こんなにも早く休憩時間が終わって欲しいと思ったのは初めてだ。
「……ねぇ、結翔」
「ん、どうした?」
彼女に声を掛けられたらので、俺は返事を返す。
「その……、やっぱりやめて欲しい……かも。恥ずかしいんですけど……」
「それは俺も思ってた」
ようやく撫でるのをやめる許可が下りた。
内心残念に思いながら、そっと手を離した。
そして気付いた。
朱梨の耳が真っ赤な事に。
多分自分もそうなっているだろうが、照れてくれていてちょっと嬉しくなった。
教室では、二人は付き合ってるんじゃないかとか、朱梨は結翔に脅されているのではないか、などの勝手な噂が飛び交い始めた。
非常に面倒臭い。
俺、イジメられたりしないかな……。
そんな不安を抱きながらも、撫でても嫌がられなかった事に満足した。