第2話 ドキッとした?
告白をした次の日。
普段通り朝早く学校に向かうと、今日は珍しく一番じゃなかった。
「おはよ」
「……おはよう」
朱梨がいたのだ。いつもは遅刻ギリギリに来る朱梨が。
「……今日は早いな」
「なるべく多くチャンスあげようと思ってね」
電気が付いていなくて薄暗くなった教室で、視線は手元の本に固定させたまま、彼女はそう言った。
ドキッとさせれるものならやってみろ、と喧嘩を売ってきているようにも感じられる。
朱梨が座っている隣の席にカバンを掛けてから座ると、とりあえず彼女の方に椅子ごと体の向きを変える。
特に何をしようとか決めていた訳では無いので、そのまま動きが止まる。
「……何もしないの?」
少し期待しているような目で、チラッとこちらを見てから言ってきた。
全然本のページが進んでいないので、彼女もこちらを意識してくれていると思っていいのだろうか。
純粋に疑問に思ったので、聞いてみることにした。
「もしかして、俺の事意識してる?」
「は、はぁ!? そ、そんなわけないじゃん。バカなの!?」
そう言いながら顔をほんのり朱色に染めて、慌てているようにパラパラと本のページをめくり始めた。
こういう可愛い反応をされると、やっぱり嬉しくなる。
「……そうか」
「それより早く仕掛けなくていいの?」
と言われても、どうすればドキッとするかなんて分からない。
「どうすればドキッとする?」
「それ聞いちゃうの? まあヒントぐらいなら教えてあげてもいいけど」
彼女は本を閉じると、椅子を俺の座っているすぐ隣に移して、体が触れるぐらいの近さに座った。
そして、顔を付きそうなぐらいの距離まで寄せて、じっと見つめてきた。
何がしたいのか分からない。でも、顔が熱くなって、鼓動が早くなってきた。
「こういう事」
そう言って朱梨は、ニコッといたずらっぽい笑みを浮かべて顔を遠ざけた。
なるほど。ヒントをくれていたのか。
彼女がどうしてあんな行動を取ったのか理解した俺は、元の位置に戻って本を再び読み出した朱梨の隣に椅子を移動させた。
「……なに? 近くない?」
ドキドキさせようとすると、相手の事を意識してしまって逆にこっちもドキドキしてくる。
勇気が出せなくて、ただ見つめているだけの状態なのだが、少しずつ彼女の顔が赤くなってきている事に気が付いた。
「顔、赤い……」
「うるさい」
恥ずかしくなってきたのか、顔を本で隠すように抑えながら呟いた。
「もしかして、見つめられたらドキッてしちゃう?」
「うるさいうるさい。そんなんでドキッとするわけないし。何も感じなかったもん」
そう言いながら今度は耳を覆うように手を添えて、机に顔を伏せた。
今の顔を見られたくないのだろうか。
でもしばらくはそのままでいてほしい。
俺の顔も見られたくないから。