再会
「兄が大変お世話になりました」
りつは深々と寺の住職に頭を下げた。
「いい人ですなお兄さんは」
「ええ。人柄だけは」
りつは本堂に通されると兄と対面した。
「兄さん、お疲れ様でした」
そうして線香を手向けた。
「あの日、秋篠川は昨晩降り続いた雨で水かさが増しておってな。帰り道にお兄さんは川で遊んでいて流されそうになった子供を助けたんじゃ」
「そうだったんですか……」
「子供は助かったが、義麻呂どのは残念じゃった」
「……」
「今でもときどき気配を感じるから、ひょっとして宮へ仕事にでも行ってるのかもしれん」
ガタン ゴトン ガタン ゴトン……
電車の揺れで目覚めたユリは、自分を支えてくれている存在に気づいて彼の方を見た。
「一瞬寝てしまったわ」
ユリは肩からずり落ちてしまったシースルーのストールをかけ直す。
すそにラメ糸の刺繍があしらわれたものだったので陽にキラキラ輝いていた。
「珍しいねユリが居眠りするなんて」
「不思議な夢を見たわ」
「どんな?」
「ほら、あれ」
「ん?」
ユリの視線は窓の外に向けられた。
左側にはちょうど平城宮跡の復元した朱雀門が見える。
「じゃあ、こっちか」とユリは反対側の窓を指さす。
「古代の平城宮であなたが働いてたの。しがない下級役人でね」
フフッとユリが笑う。
「でも大好きだった」
「変わった夢だな。……何? じっと見て」
「生きてるな~って思って」
「は?」
「平凡ないい人だったけど、早く死んでしまったの」
「なんだよそれ」彼は苦笑いしている。
「私はそんなあなたにずっと片思いてた」
「女官か何か?」
「ううん、違う」
「……?」
「蛇よ」
「ヘビ?」
「そう。あなたに助けてもらった蛇。人に捕まっていじめられてたところを助けてもらったの。恩返ししたくてくっついていたけど、あなたは別の誰かに興味を持ってた。私はその人が羨ましかった」
「……ヘビかぁ」
「苦手?」
「いや、なんかそういう夢を子供のころ見たことあったなぁって」
「えっ?」
「夢の中にヘビの化身だっていう羽衣まとった天女みたいな女の人が出てきたんだ。短い髪の毛が印象的で、ちょうど今のユリみたいな」
「……」
「だから初めて会ったとき、どこかで会ったっけ?って聞いたろ」
「あ~……そうだったね。笑わせようとしてるんだと思ってた」
「ひどいなぁ」
ガタン ゴトン……。
夕暮れに染まった平城宮跡が遠ざかっていった。