#9 天体観測の思い出
…あぁ…もう…疲れた………死にそう………(初手ェ…)
この日は特に肉体的にも精神的にも疲れきって帰ってきた日だった。肩から重たい何かが、ずんとのしかかったような気分がする。結構いつもだけど((コソ
もういいや………明日休日だし…。あまりにも疲れてたから、スマホだけ出してカバンを床に投げ捨て、何もしないまま一目散にベッドに身を放り投げた。制服のままでベッドに飛び込むなんて汚いから普段はしなかったけど、もうどうでもよくなるぐらいに疲れてたから思わず飛び込んでしまった。
飛び込んだ時に僕の頬に触れるふわふわの枕と疲れた身体を包み込む優しくてひんやりとしたシーツが気持ちいい。僕……このために生きてきたんだな…………。そう思うくらい最高だった。
そんな幸せに浸りながらスマホで動画を見てた。だけどすぐに僕の瞼は重くなってきてそのまましっかり目を閉じて眠ってしまった。
しばらく時間が経って、僕が起きた時は深夜。辺りが真っ暗でひっそりと静まり返っている。すっかり目が覚めたけど、起きた時は絶望だった。
この時期特有の蒸し暑い夜。汗で服がベッタベタだ…最悪…とか思ってる暇じゃない。
制服で寝てんじゃん!ってこの時に我に返る。
スマホの充電なくなってるし…めっちゃお腹空いたし…
何から何まで地獄だった。
この状況に嫌気がさしてたまらなったから、まず急いでお風呂場まで直行した。服を脱いだ時に首を絞めてたネクタイや襟が急に緩まってすごくすっきりした。ベルトも。
おまけに汗とか汚れやらを流せてめちゃくちゃ最高だった。布団たちの洗濯は明るくなってからでいいや。
緩いTシャツに着替えて、次にお腹を満たそうと思って冷蔵庫を漁った。謎になんかあったシュークリームと定期的に箱買いする抹茶ラテを鷲掴みしてソファに座った。
シュークリームに関してはいつのか知らないけど見た目と臭いが大丈夫だから多分大丈夫と諭して食べといた。結構冷やされてたから中身がアイスみたく冷たくて普通に美味しい。食べながら原材料名見てた時に一緒に見えたけど、これ消費期限2日切れてた。まぁいいや。
甘いものってなんかすごく身体に沁みる。肉体も精神も回復した感じがする。
胃を埋め終わったはいいけど、この後何もすることがなくて焦った。いつもはずっと家にこもって勉強したり、趣味に没頭したり、たまに散歩したり。そういう生活をしてる。ヒドラさんがこの時間に連絡送ってきたりとかとか家に来たりしてくれないかなぁ……暇だし………、今なら絶対に全力で彼女に構う気があるんだけど…。僕が勉強してる最中でも容赦なく連絡寄越してくるくせに、こういう時に限って何も無い。
もういっその事自分から家行こうか迷ったけど、寝てるかもしれない女性の家に男がお邪魔しても傍から見たら不審者だし多分本人に殺されてる。肉の塊になってる。周囲から変態として認知されたくないな。そんな学校生活、クソ喰らえだ。
それなら散歩行って家の前通るぐらいにしようと思って、家の鍵と懐中電灯を持って外に出た。結構暗くて、背後を誰かがつけてたらどうしようという考えが脳内によぎった。怖かったし、定期的に後ろを確認しながら進んだ。
しかし、それは公園の前まで来た時だった。ちらっと僕の視界に映る人影。こんな時間に起きてる人いるのか……
その人はどうやら夜空を眺めてるみたいで、首を曲げて上空で輝く星を見ていた。星好きな人なんて僕は知らないしちょっと気になったから、その人の顔を見てみたくなった。偶然来た人を装って、その人の顔を確認して、また目的地までの道に沿って進もうと思う。
知り合いだったらどうしよう…などの、僕がいつも思うであろうことそっちのけで好奇心が勝ってしまった。
その人の斜め後ろからこっそり近づく。んで気づいた。
アポロン先生じゃねぇか!!
急いで引き返して帰ろうと思ったけど、腕を強く掴まれて逃げられなかった。反射神経良すぎだろ…
「神を舐めるな、ちょっと付き合えよ」
こうなってしまったらもう仕方がない…。むやみに逃げ出そうとしてボコボコになるなんて嫌だ。
「空見てみ」
上空を見てみると満天の星が輝いていた。
「夏の大三角ってわかるだろ?」
『"わし座"のアルタイルと"こと座"のベガと"はくちょう座"のデネブのやつですよね…』
有名な夏に見える三角形のことをいう。夏の星座は基本有名なのが多い、と思ってる。思ってるだけ。
「そう、それでな…」
いつもいつも変な話しかしてこないが意外と真面目な話そうでびっくりした。
「その"こと座"……オルフェウスの竪琴のことなんだよ!」
『…そうですか……』
アポロン先生は嬉しそうに話すが、イマイチ僕は星なんて好きじゃないし興味はないから、ただ呆然と聞いてるのか聞いていないのか曖昧な、微妙な態度で話を聞いていた。
こと座というのは『トレミーの48星座』というものに含まれる夏の星座だ。『トレミーの48星座』というのは、ギリシアの天文学者であるプトレマイオスの『アルマゲスト』という書物に記載された星座のことだ。僕のからす座も実は『トレミーの48星座』に入ってるよ。他にも、ヒドラさんのうみへび座やケートス先輩のくじら座、カルキノス先輩のかに座なんかもこれに該当する。
それでオルフェウスというのはアポロン先生の息子。
恋愛成功にしくいからって子供がいないわけじゃないんだよね。
この人めちゃくちゃ嬉しそうに陽気に話してるけど…
こと座として竪琴が打ち上げられた裏には、悲しい恋愛ストーリーが秘められている。それで今でも星空からオルフェウスくんの竪琴の音色が聞こえてくるとかなんとか…
『……これずっと眺めてたんですか…』
アポロン先生は僕の質問に対し頷いた。よくここまで息子の琴を観察できるなぁ……どんだけ息子好きなんだ。いい父親じゃん……
「てかなんで起きてんの」
今更すぎでしょ…
『変な時間に目覚めただけです』
「んじゃあしばらく一緒に見てようぜ」
星をずっと見てるなんて僕にはできないな。僕はヒドラさんの家の前を通りに外に出たんだけど?
『…いや……僕はいいです……』
「世間話でもしてあげるからさ?」
またアポロン先生の話か…くだらないのが多いけど、この学園を紹介するには十分なネタだ…まぁいいや………
僕はアポロン先生が座るベンチの横に腰かけた。
あ……お腹痛い………