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発生編 密なる室
密室で起きた殺人事件の真相とは――?
発生編、調査編①②、解決編①②の三部構成です。(全体で一万字程度)
短い旅ですが、お楽しみください。
残暑が去り、秋の風が吹き始めた九月下旬の深夜。
国立菌類総合研究所の『新島研究室』で一人の男が死んでいる。
男は研究室の中央に設置された顕微鏡の一台に座り、後頭部から血を流して事切れていた。デスクには多くのシャーレが置かれ、色鮮やかなコロニーを形成している。蓋にはマジックで菌種が細かく書き込まれていた。顕微鏡の対物レンズに直径数センチの穴が空いている。
同じくらいの穴が男の後頭部にもあった。流れた血は既に固まり、背後に並んだ薬品棚に血が飛び散っている。白衣の背中側にも血がべっとりだった。
男を取り巻く環境は閉鎖的だった。
出入口は施錠されている。窓も同様で、割られた形跡はない。外へ通じる秘密の抜け道も皆無である。
部屋の時計が深夜一時を指し、低い鐘の音が無人の研究室に響いた。