第7話 子育て
牛人の森に副官として勤務している俺は、巨大ミノタウロス・モウモウの前で、こん棒を振って稽古をしていた。
「カゲトは遊んでばっかで全然使えねえべな。そんなことじゃ大事な部下を預けれねえべ」
「部下って赤ん坊のことか。なら部下などいらない」
「エレーナを見習うべさ。平べってえ乳からミルクが出てこないときはガッカリしたけんど、赤ん坊の扱いはカゲトより全然上手いべ」
エレーナが哺乳瓶で赤ん坊にモウモウのミルクを飲ませている。
「モウモウさん、平べったいは余計です。私は脚が自慢なんです。カゲト様もそう思うでしょ」
エレーナがくるりと回るとミニスカのような腰布がふわりと舞った。
「綺麗な脚だ。虫に刺されないよう、気をつけろよ」
「素直に褒めて下さいよー」
「カゲト、武器を振り回したいんなら、わだすのを使え」
モウモウが大きな鎌を俺に投げてきた。モウモウが巨大なので、俺が持つと死神の鎌のようだ。その場で何度が振ってみる。武器としては悪くない。
「何してるべ?」
「稽古だが?」
「子守しねえんなら、草刈りに行ってこい! 命令だわさ」
「あっ、カゲト様、ちょっと待ってらえます?」
――――――――――
モウモウがいる場所から少し離れた草むらで、俺は大鎌を振っていた。背に赤ん坊を背負いながら……。
気を取り直して大鎌で草を刈る。より早く! より力強く! そして――。
「ホンギャア!」
「あー、よちよち、ミルクでちゅかー?」
2時間ごとにミルクを!
ガサガサッ!
草むらから音がしたかと思うと、冒険者が現れた。装備は銅シリーズ。Cランクか。
「あれえ、ミノタウロスかと思ったら、ゴブリンかよ。ガッカリだぜ」
俺を舐めてるなー。秒で倒してやろうか?
「気をつけろ。あの見た目と威圧感。レベルはかなり高い。ゴブリンの亜種だ」
戦い慣れていそうな壮年の男が言った。闘気がわかるらしい。
「ホンギャア!」
お前もわかるのか赤ん坊。だが、うるさい。気が散るじゃないか。
俺は深呼吸をして、気を鎮めると、赤ん坊は泣き止んだ。
「気のせいじゃないのか、俺は感じないぞ」
「あれ、おかしいな。さっきまで凄い闘気を感じたのだが」
「こんな雑魚。さっさと倒して、奥に進むぞ。戦闘準備だ!」
ほっ、よっ、とっ。冒険者の攻撃をかわしながら、一人ずつ倒していく。秒殺するつもりだったが、気を押さえて戦うとなるとやりづらい。3分ほどかかってしまった。
装備と持ち金を奪い、近くにあったほこらに隠すと、俺は再び草刈り作業に戻った。
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その日の夕方。
俺の刈った草の山がみるみる小さくなっていく。
モウモウの胃袋の中に消えていくのだ。
「久しぶりにこんなに食べれて幸せだわさ。ふぅー、ゲップ」
「クッサ!」
俺は鼻を押さえる。激烈な臭さだ。振り向くと、エレーナが泡を吹いて気絶していた。
「しっかりしろ。エレーナ」
「ああ、ごめんなさい。モウモウさんに失礼ですよね……」
モウモウが草を掴む手を止めた。
「あんれ? この草、まずいべ。カゲト、血の付いた鎌で刈ったべ」
「私に隠れて、冒険者を殺したのですか!」
浮気みたいに言うな。
「カゲトは、ほんっとに使えねえべな。やり直しだわさ。なんだべ、その顔は。子育てに休みはねえべ!」