第5話 上司メデューサ
霧の城・メデューサの部屋
俺が殺したはずなのに、なぜ生きている。今思えばケルベロスもそうだった。
メデューサが俺の顎を指で持ち上げる。
「アナタに受けた屈辱は永遠に忘れません。蛇族って執念深いの」
「敵なんだからしょうがないだろ。それに、あれは俺だけじゃない。パーティー全員でやったことだ」
「他人のせいにするつもり? 少しずついたぶるように、ワタクシを削ったのは誰ですか? アタッカーは誰? それはア・ナ・タ! そのせいで、そのせいで……」
メデューサは声を震わせながらフードを取る。頭には無数の毒蛇の髪。ではなく、頭頂に一匹だけ蛇が生えていた。
プッ! 案内していたナーガが吹きだす。
「お黙り!」
メデューサの目が赤く光ると、ナーガが一瞬で石になった。
「ねえ、カゲト。部下にまで笑われるアタクシの気持ちがわかりますか?」
「カゲト様、女性の髪を切るのはひどいです!」
「髪じゃない。毒蛇だ。多段攻撃をさせないために、削っていくのは戦いの基本だ」
「お嬢さんのほうが、よくわかっているようですね。ディアナもそうでした」
聖女ディアナ。俺のパーティーの回復役。
「そうか! ディアナがお前やケルベロスを蘇生させたんだな!」
「お前呼ばわりしないで!」
「ぐっ!」
メデューサのヒールが足の甲に突き刺さる。
「アタクシはアナタのボスです。物を聞きたければ口の利き方を覚えなさい。おわかり?」
「……ボス、教えてくれ」
「ええ。カールが見えないように体で隠していたから、アナタにはわからなかったでしょうけど」
ようやく、話が見えてきた。
「カールとは――」
一匹だけ生えている蛇が一枚の紙を俺とメデューサの顔の前に垂らす。
「話は終わりです! はい、命令書! さっさと仕事に取り掛かって! 幹部の大半はアナタが殺したし、ワタシも蛇が生えそろうまで人前に出たくはないの。死ぬまで働くのよ! いいわね!」
「……わかった。ボス」
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ナーガに渡された命令書を持って、霧の城を出た。
門の前を通る時、エリーナがあいさつをする。
「ケルベロスさん、行ってきます」
「とっとと失せろ、小娘」
「またね、お嬢ちゃん。危ないと思ったら、城へ逃げてくるのよ」
「いでえー、いでえよー」
エリーナが弟頭の傷を見る。
「この傷、石化されているのですか?」
「ボスの頭を見て『涼しそう』なんて言うから、おしおきされちゃったのよ。馬鹿でしょ、この子」
「もし石化に効く薬があったら持ってきますね。あっ、待ってください。カゲト様」
俺は歩きながら命令書を見る。
そこには「牛人の森・副官を命ずる」と書いてあった――。