第1話 ノッポと女神官
目が覚めたとき俺は薄暗い洞窟の中にいた。
辺りを見回すとゴブリンだらけだった。起き上がり、武器を構える。
慌てることはない。どれだけ雑魚がいようとも、ゴブリンなどワンパンだ。
ん? 何だ、この安っぽい手斧は? それに緑色の腕は何だ?
大賢者マリウスの言葉が蘇る。あのときマリウスは俺をゴブリンに――。
「まさか! 本当に!」
「うるせえぞ、新入り! さっさと支度しろ。狩りの時間だ」
モヒカン頭のゴブリンが俺に命令してきた。
立ち上がると、モヒカンは俺の半分ぐらいの背しかなかった。
「でけえな、おい。人間並じゃねえか、ノッポ野郎」
斧に顔を映す。肌の色と牙、そして爪だけが以前と違っていた。
「冒険者の匂いはわかるな、ノッポ」
モヒカンは十匹ほどを従えて、洞窟を駆けていった。
匂いを嗅ぐ。人のときより嗅覚が鋭くなっている。俺はモヒカンの後を追った。
追った先には4人組の冒険者がいた。戦士は剣の持ち方もなってないし、魔法使いはへっぴり腰だ。間違いない。Dランクの新人だ。それでもゴブリン相手にいい勝負をしている。弱いなあ、ゴブリンって。
そもそも、俺はゴブリンと戦ったことはない。幼いころから剣の鍛錬をしていたので、初めからBランクに認定された。
「まあ、新人の戦闘訓練には最適だな」
「偉そうにぬかすな。おめえも新入りだろ、ノッポ! 戦わんかい!」
モヒカンが俺の横腹を槍で突つく。痛い。そうだった、今の俺は最高級の防具どころか、腰巻一丁のほぼ裸状態だった。
手斧を軽く振ってみる。身体能力も変わっているのかもしれないな……。
俺は深呼吸をすると冒険者たちの前に立った。
「ヒッ! 大きい。みんな気をつけろ。化け物ゴブリンだ!」
勇者に向かって化け物だと!
手斧を振る、1回、2回、3回――。冒険者4人は攻撃を仕掛ける前に倒れた。
「10連撃か。まあ、悪くない」
「おめえ、すげえな!」
モヒカンが口をあんぐり開けていた。
「――だけど、速さだけだな。死んでねえ」
違う。殺さないよう手加減しただけ――。
そう言おうとしたとき、冒険者たちにコブリンが襲われていた。男は食われ、女は衣服を剥ぎ取られて、犯されようとしていた。
「おい、待つんだ!」
「早いもの勝ちだぜ。ノッポ」
助けたところで、どうする。俺はゴブリンなんだぞ。
俺は冒険者の上に乗る。
「オイオイ、何してんだ、おめえ。オスとメスもわかんねえのか。オスにぶっ差しても腹ませられねえぞ」
ゴブリンたちの笑い声の中、俺は男の装備を剥ぎ取った――。
――――――――――
冒険者の服を着ると、脇腹のところに血がにじんでいた。さっきモヒカンに突かれた傷だ。
「薬草はあるか?」
「ねえよ。んなもん。食って栄養をつければ、そのうち治る」
俺が服を剥ぎ取った冒険者の肉を食いながらモヒカンが言った。
そうだよな。ゴブリンが薬草なんて気の利いた物を持っているわけがない。
横を見ると、女神官を犯そうといていたゴブリンが下腹部の装備を取るのに手こずっていた。
あれは、神の祝福を受けている装備だ。ゴブリンがやすやすと外せる装備じゃない。
女神官の上に乗っていたゴブリンを突き飛ばして、話しかけた。
「女、親は貴族か大商人だな。Dランクが持てる装備じゃない。聞け。助かりたかったら、俺にヒールをかけろ。この脇腹だ」
「あ、あ……」
女神官はショックのせいか、涙を流すばかりで言葉が出てこない。
「俺は祝福を受けた装備の外し方を知っている。今すぐやらなければ、お前はゴブリンどもに犯され、子供を産まされる。死ぬまで何度も何度もな」
「い、いやー! かけます! かけます! 聖なる女神の名において~~~、ヒール!」
脇腹の傷が治っていくのがわかった。いいぞ、治癒呪文はゴブリンの体にも効く。
俺に女を奪われたゴブリンが短刀で突き刺してきたが、拳で一撃をくれると顔が吹き飛んだ。女が悲鳴を上げる。
「ノッポよお。おめえがオスとメスを間違えたからって、横取りはねえだろ」
「アイツがモタモタしているのが悪い」
「しょうがねえなあ。おい、新入りにおしおきしてやれ」
生き残っていたゴブリン4匹が飛び掛かってきた。
手斧を横なぎに斬り、一撃で仕留める。
「かぁー、ひでえ野郎だな! 仲間殺してまで、メスにぶっ差してえのかよ――でも、他がいないなら、早い者勝ちもクソもねえな。おめえのもんでいいや」
モヒカンがあっさりと引き下がる。ゴブリンは淡泊な性格らしい。
モヒカンが離れたので、俺は女神官の装備を外す。
「は、話が違うじゃないですか! 犯さないと言ったはずです」
「何もしないと疑われる。乱暴にはしない。優しくする」
女神官はぶんぶんと首を振るが、かまっちゃいられない。
「目を瞑れ。好いている男はいるか?」
「憧れの人はいます。失踪した勇者カゲト様です」
「――じゃあ、目を開けろ。俺がカゲトだ」
「ぜっんぜん、違います!」
「……じゃあ、目を瞑れ。カゲトに抱かれているところを想像していろ」
――――――――――
コトが終わると、女神官に服を着せ目隠しするように布を巻いた。
「こ、今度は何が始まるんです!」
「これからゴブリンと暮らすんだ。何も見えない方がいい。お前の名は?」
「エリーナです。あなたの名は?」
「カゲトだ」
「また、ふざけて!――でもそれでいいです。カゲト様と呼んだ方が空想の世界に逃げられるから……」
この女を鍛えて、俺の戦力にする。反撃の第一歩だ。