第17話 王の暗殺
ドーザの洞窟を進んでいくと、途中からいくつもの穴に枝分かれしている。
その中のひとつは王都城内の井戸の一つにつながっていると、ドーザが教えてくれた。
井戸から出るとエリーナがボソボソ言っていた。
「結局、洞窟では何もしてこなかった……。意気地なし」
「わざと聞こえるように言っているだろ。俺は意気地があるから、お前を襲うより、もっと大きな獲物を襲うことで頭がいっぱいなんだよ」
精神を集中し、大きく深呼吸する。
「あれ、カゲト様の存在が薄くなっていく。大変! 死なないでカゲト様!」
「うるさい。闘気を消しただけだ。グスタフが来る前に王を暗殺する」
「えーっ!」
エリーナの口を手で押さえる。
「いい加減にしろ。これ以上騒ぐとお前から暗殺するぞ。いいか、お前はメイドの振りをして、王の部屋に近づくんだ。場所は俺が背後から案内する。勇者の称号を授与されるときに、案内されたことがあるからな」
――――――――――
城内の廊下をトレイを持ったエリーナが歩いていく。その数メートル後ろに気配を消した俺がついていき、エリーナを不審な目でみた者は拳を腹にお見舞いして気絶させていく。
王の私室の前にエリーナが立つ。
扉が開いて王がいることを確認できたら、後は俺の仕事だ。
エリーナが扉をノックしようとしたとき、荒々しく扉が開き、派手な装飾の入った鎧を着た男がエリーナを突き飛ばした。
「邪魔だ。メイド! 王は来客中だ!」
闘気が出そうになるのをグッと抑える。
俺の相手はこいつじゃない。この男は知っている。騎士団長・リーンハルトだ。
部屋の中が一瞬だけ見えて扉が閉まった。いたのは標的の王と――。
「グスタフ!」
声と共に闘気があふれ出す。
「貴公は誰だ!」
しくじった。早くエリーナを連れて逃げなければ――。
だが、リーンハルトの剣先はエリーナの首に当てられていた。
「並みの闘気ではない。どうやってここまで来たか聞かせてもらおう」
「王都への抜け穴から来た。教えたら、エリーナを離してくれるか」
「本当ならばな」
すまん。ドーザ。穴を無駄にしてしまった。
井戸まで3人で歩いていく。
何か、何か、まだできることはないか? リーンハルトを観察しろ。
井戸の中に降りると、リーンハルトが驚きの声をあげた。
「――こんな穴を掘る目的はただ一つ。貴公の顔を見せてもらおうか」
仕方ない。俺は兜を取る。
「やはり、魔物だったか。だが、約束は約束だ。騎士団は約束を破らない」
エレーナを離したリーンハルトが帰ろうとする。
「待ってくれ! もうひとつ手柄が欲しくないか?」
リーンハルトの足が止まった。
「お前は騎士団の誰にも言わず、ここまで来た。俺と戦う危険があるのにも関わらず。なぜか? 自分だけの手柄にしたいからだ。魔王軍の戦闘で騎士団の数は減り、王はお前に対し、不満を抱いている。その証拠が冒険者ギルド長への依頼だ」
「知った風な口をきくな!」
「俺はお前の味方だ。有益な情報を渡そう。グスタフは王から領地を騙し取ろうとしている」
餌に食いつけ! 俺の予想は当たっているはずだ。
「――話してみろ。ただし、聞くだけだ」
「グスタフは魔王軍と繋がっている。だから戦わずに守護砦を取れるんだ。お前が守護砦にきてその現場を取り押さえれば、王は騙されずにすみ、お前は手柄を立てられる」
「フッ。よりによって守護砦に来いだと! 私がそんな陳腐な罠にかかると思っているのか。魔物を信じて殺されてみろ、一族の恥さらしだ!」
リーンハルトが再び歩き始める。
「待て! 騎士団の栄光を、腐ったギルドに奪われていいのか!」
俺の声もむなしく、リーンハルトの足が止まることはなかった。
――――――――――――
落胆して守護砦に戻ってくると、ミュウミュウの姿は無かった。
あいつの脚ならそんなに時間はかからないはずだが、何かあったのか?
ミュウミュウが戻ってきたのはグスタフが来る一日前だった。
「お兄ちゃん、上手くいった? って、顔じゃあないみたいね」
俺は王都での出来事を説明した。
「ただ、リーンハルトは迷っている。やつの貴族のプライドに賭けるしかない」
「それなら、いい人連れてきちゃったかも。兄弟が荷車に乗せてきたから、もうすぐ着くよ。あっ、ほら、見えてきた!」
その姿を見て、俺は立ち上がった。
「エレーナ、大至急。王都へ向かってくれ! まだ間に合うかもしれん」