第16話 ドーザの落胆
羽無しドラゴンのドーザが殺気を放ちながらナーガに詰め寄る。
「あたしは何も知らない。城に戻ったときにボスに聞いて」
「おぬしらナーガは作戦室勤務だ。知らぬわけがあるまい。わしが攻撃できぬのはボスだけで、他の魔族は簡単に焼き殺せる。言え! 7日後に何がある!」
ドーザが口を大きく開くと、火球が浮かび、どんどん大きくなっていく。
「わかった! わかったわよ!」
―――――――――――
ナーガの話によると、7日後に来るのは冒険者ギルド長グスタフで、そこで砦を明け渡し、グスタフの手柄にするらしい。相変わらずせこいことを考える。
「また奴らに大金を稼がせるのか……」
「大金どころじゃないわ。難攻不落の守護砦にはかけられた褒賞は領地よ」
何だと。カールだけじゃなく、グスタフまで領地を持つのか。
「はい! 知っているのはここまで! あたしが話したって絶対ボスには言わないでよ!」
ナーガはしつこいぐらいダメ押ししながら帰っていった。
俺はまた利用されるのか? 牛の森のときのように何かできることはないか?
そんな俺の思考を邪魔するように、ドーザが大きな声で怒鳴った。
「おぬしが頑張りすぎるからこうなったのだ! これまでの努力が台無しだ!」
「努力っていつも潜っていただけだろ。お前、ナーガに詰め寄ったときから変だぞ」
「うるさい! 中を見てみろ」
ドーザが足を大きく踏みつけると、地面が崩れて穴が開いた。
中に入ると、ドーザが炎を吐く。すると穴が先まで続いているのが見えた。
「この洞窟は?」
「王都の中心まで続いている。10年かけて掘った」
「凄いな……。ここから魔王軍が攻めれば城を内部から陥落できる」
「そうだ。だが、この家を人間どもに明け渡せば、いずれ気づかれて埋められるだろう。わしの10年が水の泡だ!」
「だったら、すぐに魔王軍で攻めればいい。まだ間に合う」
「お断りだ。きっとボスは自分がやったことにして魔王様に報告するだろう。手柄を奪われるのは真っ平御免だ」
「じゃあ、なんで掘ったんだ?」
ドーザが気を落ち着かせるようにキセルを吹かす。
「魔王様が来たときに使うためだ。魔王様は毎年、四天王の戦地を視察する。こちらからすれば4年に一度だ」
そんな決まりがあったのか。人間は誰も知らないだろう。
知っていればその機会を狙って魔王討伐するパーティーがいたはずだ。
「手柄を上げれば、魔王軍の大幹部だ。そうなれば、わしの体につけられた毒蛇の錠前を魔王様が解呪してくださる」
メデューサの部下で無くなれば、確かに不要になる。
俺も幹部を目指すべきか――。
しかし、魔王が来るのはまだ先だ。今、考えるべきなのはそこじゃない。
暗くて見えない洞窟の先を見つめる。
考えろ。この状況。持っている手札で、できることは何か――。
「ドーザ、俺が手柄を上げたら、必ずお前に譲る。だから、この穴を使わせてくれないか」
「――いいだろう。どうせ塞がれる穴だ」
エレーナとミュウミュウを呼ぶ。
「エレーナは俺と洞窟に入る。ミュウミュウは牛の森へ行って、できるだけ哺乳瓶にミルクを詰めてくるんだ」
「えー、ミュウもいっしょがいい。お姉ちゃんと暗がりで変なことするんでしょ!」
「もう、ミュウミュウったら!」
エレーナが叱りながら、顔を赤らめて見てくる。おいおい、何を考えている。
「おぬし、この穴で何をする気だ」
「内緒です♥ ねえ、カゲト様」
「お姉ちゃん、ズルイ!」
二人の頭をこづく。
「王都へ潜入する。一か八かだ」
俺は顔の隠れる兜をかぶった。