第15話 2年後
守護砦に来てから2年――。俺は何とか生き延びていた。
体はすっかり傷だらけになっている。
これは騎士団との戦いで、エレーナのヒールが間に合わないほど斬られた証拠だ。
逃げるオークたちが、俺の横を駆けていく。また魔王軍が撃退されたのだ。
俺の後ろには数十本の剣が地面に突き差してある。
これだけあっても騎士団を退けるころには、すべて使い切る。
「お兄ちゃん、見て! あの大軍。興奮でミルクがあふれちゃいそう」
幼女から胸がはちきれんばかりの女に成長したミュウミュウが大斧を舌で舐める。
体の模様も白部分が多くなり、顔は左目に黒の星マークが入ったようになっている。頭には金髪のウィッグを自分で作って被っている。
「まあ、ミュウミュウったら、はしたない。ちっちゃいときは恥ずかしがり屋な女の子だったのに。戦いの中で育ったからでしょうか」と、エレーナは嘆いていた。
「みーんな、いっちゃいな!」
ミュウミュウが大斧を振り回すたびに、騎士が吹き飛ぶ。Aランク並みのパワーは俺たちにとっては大事な戦力だ。
「ヒール・ダブル! マジックウォール!」
家の中からエレーナが俺とミュウミュウをサポートする。エレーナも2年間の戦いでAランクに成長していた。
「神速雷鳴剣! 円の型」
俺自身はというと、すっかり全体攻撃が得意になった。
3時間ほどの戦いで騎士団が引き揚げていく。敵は神官部隊も引き連れてきているので、残った死体は斬った数の半分もない。
「いつもよりあっさりだったねー」
ミュウミュウが物足りなさそうに言う。
「相次ぐ戦闘で騎士団の数は減っている。追撃で兵を失うのを嫌って、この砦を避けているのだろう」
この2年間で魔王軍と騎士団の戦いのパターンは大体わかった。
はじめは魔王軍が常に優勢だ。猛々しい勢いのまま突っ込んでいく。だが、長引くと統率者がいないので、士気を維持できなくなる。そして、組織的な反撃をされて誰かが逃げ出すと、一気に総崩れになるのだ。
「お兄ちゃん、おっぱい張っちゃった。ミルク飲んでー。」
「仕方ないやつだな。出して見ろ」
ミュウミュウは駆け寄ると、胸を出す。
「アン♥ お兄ちゃん、くすぐったいよ~」
「我慢しろ」
「我慢しなくていいです。はい! 哺乳瓶。自分で絞りなさい」
「お姉ちゃんのイジワル! おっぱいが無いからミュウのツラさがわかんないのよ」
「はぁ!? 何ですって!」
二人が姉妹喧嘩をはじめたので、騎士団が残していった武器を回収していると、羽無しドラゴンのドーザが地中から出てきた。
「ご苦労さん。あんなボスのためによく働くのう」
「死にたくないだけだ。手伝ってくれると楽なんだがな」
「ごめんだな」
向こうから赤髪のナーガと荷台を持ったオークがやってくる。
「いつもの通り、鉄の装備よりいい物はもらっていくわ。悪く思わないでね」
「ねっちこい嫌がらせだのう。蛇らしいしつこさだ」
ドーザがキセルを吹かす。
「俺が生き延びているのが、気に入らないのだろう」
「あら、最近はご機嫌よ。あなた頑張っているらしいじゃない。はい、ボスからの新しい命令書」
ナーガが紙を見せる。
『告・守護砦勤務者。7日後に任を解き、霧の城へ帰還を命ずる』
「じゃあ、あたしはこれで――きゃっ!」
ナーガの体の横を火炎が走る。
「わしが納得するよう説明してもらおうか」
帰ろうとするナーガの前にドーザが立ちふさがった。