第10話 冒険者の悲哀
牛人の森で俺はバンテランドから来た冒険者パーティーに礼を言われていた。
このパーティーは俺に生け捕りされた後、ドミニクの悪事を知り、他の冒険者を説得してくれた。憤った大勢の冒険者たちはドミニク商会を打ち壊し、武器商人ギルド長でもあったドミニクは袋叩きにあった後、詐欺の罪で王都の騎士団に突き出されたのだ。
パーティーリーダーのパトリックが唇を噛む。
「私たちがもう少し早く気づいていれば……。バンテランドから渡ってきた冒険者の半分は困窮し奴隷になってしまいました」
「奴隷商を襲って、解放するのは?」
「ドミニクは罪を犯しましたが、奴隷商がやったことは正式な取引です。襲えば我々が罪人になります。それに――奴隷はもう買われていました」
「大量の奴隷がすぐ売れたのか!?」
「買ったのは冒険者ギルド長・グスタフ。連れていかれた先は、ランベルト領です」
「カールの奴隷にされたのか!」
ドミニク商会でカールを殺せなかったことが悔やまれる。カールはランベルト伯を斬った後、移動魔法のスクロールを使い、その場から消えたのだった。そして次の日には冒険者ギルドにランベルト伯殺害者討伐依頼として、俺の人相絵と懸賞金がかけられていた。
「これからどうするつもりだ?」
「今の冒険者ギルドには高ランクの依頼しかありません。低ランクのものはきっと冒険者を罠にかけるものでしょう」
パトリックたちが膝をついて頭を下げる。
「ランベルト伯カールが、私兵の募集をしております。我々は生きていくために、ランベルト領に行くことに決めました。奴隷となった同国民をそばで支えることもできます」
「そうか……。仕方がないな」
パトリックたちは深々と頭をさげると去って行った。
彼らを責めるわけにはいかない。冒険者は悲しい存在だ。平民は貴族で構成されている王国騎士団には入れない。親から農地や商いの元手を譲られない次男以下が、自立するためには冒険者になるしかない。一攫千金の夢はあるが、魔物に殺されるか、金が尽きて奴隷行きになるのがほとんどだ。
モウモウのところにいくと、ミノタウロスの幼児が走り回っていた。ここに来たときは赤ん坊だったが成長が早いので、今ではみんな5歳ぐらいの大きさになっている。
「カゲト、何かやったべ? ボスがカンカンだわさ」
火の玉がふわふわと浮きながら紙を持ってくる。
『牛人の森・副官の任を解く。ただちに霧の城へ出頭せよ』。
この連絡の速さ。メデューサとカールの繋がりはかなり深いと見ていい。
「わかった。すぐに支度をしよう」
ほこらからフラフラになりながら、目隠しをしたエレーナが出てきた。
「どうだ。最後の追い込みになったか?」
「はい、冒険者に毎日ヒールをかけていたので経験が溜まっていたみたいです。Bランク呪文をいくつか覚えました。石化解呪もです!」
「よくやった」
「じゃあ、ご褒美が欲しいです!」
「新しい服でも買いたいのか?」
「違います。会った時以来、カゲト様は何もしてくれないじゃないですかぁ」
甘えた声でどう言うと、エレーナは目を瞑った。俺は黙ってキスをする。
「それだけですかぁ。赤ちゃん欲しいですぅ」
赤ん坊の世話をしまくったせいで、エレーナの母性は高まりまくっていた。
俺も男だ。抱きたい気持ちはあるが、果たしてゴブリンになった俺と人の間に子が生まれるのか? 生まれたとしても、その子は幸せなのか? そんなことを考えると手は出せなかった――。