プロローグ
魔王軍四天王の一人を倒し、王家から勇者の称号をもらった俺は得意絶頂だった。
勇者の俺カゲト、ギルド長の息子で守護者カール、女魔導士のバルバラ、恋人の聖女ディアナ。この4人は最高のメンバーだ。四天王さえもボコボコにすることができた。そう、俺たちには間違いなく魔王を倒せる力がある。
SSランク表彰のために冒険者ギルド長・グスタフに呼ばれた一室にはギルド幹部20人が勢ぞろいしていた。すべてSランク冒険者だが、今の俺たちとは1ランク以上の差がある。
「四天王討伐、ご苦労だった――」
ギルド長がそう言うと、メイドが俺の目の前に大量の金貨が入った袋を置いた。四天王討伐の報奨金だ。
「それで、一生暮らせるはずだ。引退して余生を楽しめ」
「ちょっと待ってくれ。俺はまだ20代だぞ。次の討伐予定も決めている」
「それでは困るのだよ」
ギルト長の隣には見るからに高そうな服を着た爺さんが座っていた。
「武器商人ギルド長のドミニク殿だ。知っての通り、冒険者への報奨金を出しているのは王家だけではない。ドミニク殿は大切な出資者だ。その意志は尊重しなければいけない」
「報奨金が惜しくなったのか? 金なら多少減っても構わない。俺は魔王を倒し、世界を救うためにやっているんだ」
「アタシはお金も欲しいけど」
魔導士のバルバラがつぶやいた。
「すでに幹部会で貴様のパーティーの解散は決定されている」
「待て! 俺たちも幹部のはずだ! そうだろ、お前ら――」
ディアナは目を伏せ、カールはニヤニヤしていた。
「仲間外れなのは私とあなただけのようね」
バルバラが杖をかざす。
「動くな! 移動魔法も使うなよ」
幹部が立ち上がり、戦闘態勢を取る。
「――Sランク20人。パーティーの半分かけた私たちでは勝てないわね」
バルバラは杖を手放した。
「ギルド長! お前のひ弱な息子を、一人前に育てた恩を忘れたのか」
カールが大きな盾でドンドンと床を叩く。
「黙れ! 僕を恐ろしい魔物の前線に立たせた天罰だ! いつも、いつも、いつもおぉっ!」
「それは、カールをタンクとして鍛えようと思って――」
「僕はギルド長の跡取りだぞ! 大事に育てろ! それが、タンクだと。馬鹿か!」
「カール、それぐらいにしておけ。馬鹿にふさわしい罰を与えてやる。マリウス様!」
ギルド長が後ろに声をかけると、学者風の老人が現れた。
「お父様!」
ディアナが立ち上がる。
大賢者マリウス。ディアナの父。十年前に五大陸の一つ、バンテランドから魔王軍を一掃した英雄。
「なんで、大賢者マリウスがここに……」
「僕とディアナの婚約のためさ」
「ディアナ!」
「ごめんなさい、カゲト……」
カールがディアナの肩を抱き寄せる。
「いつまでディアナの恋人面をするつもりだ。鈍感な戦闘狂! ざまぁないな。さあ、マリウス様。この馬鹿をさっさと――」
「待ちたまえ。カゲトよ。もう一度聞く。冒険者を止める気はないか?」
「俺の夢は魔王を倒すことだ!」
「――そうか、許せとは言わぬ」
マリウスは杖をかざす。魔力が集中するのがわかる。
何だ。この魔法は。聞いたことのない詠唱。
「カゲト、そなたにゴブリン族への出向を命ず――」