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第99話 消えゆく命

「紀伊!」

花梨は叫んで壁へと寄った。

壁には紀伊と秋霖の姿が映っていた。

「紀伊が、捕まった・・・。」

紅雷が呟く。

柳糸は脱出しようと扉を叩き始めた。

「あのひよっこ、何してるんだ。」

巳鬼が忌々しそうに呟く。

秋霖と紀伊の姿は平争にも映っていた。

「紀伊・・・。」

軌刃が空を見上げる。

空には二人の姿が映っていた。

「どういたしましょう?」

部下は空に映ったその姿に充分恐れを抱いていた。

空に人の姿が映るなど今まで聞いたことも、見たこともなかった。

脅すには充分だった。

軌刃は奥歯をかみ締めた。

目の前では四国の張っている結界に魔物がぶつかっていた。

そしてその結界にはすでに皹がが入っている。

この結界が破られればなだれ込んでくる。

「あれはまやかしだ!心乱されるな!俺達は最強の平争の兵士だろう!」

何かの破壊音がした。

目をやると魔物がついに割れた結界から頭を出していた。

「一歩も入れはしない!」

軌刃は両手に持つ小刀をしっかり握ると、かかっていった。


秋矢はもう少しというところまで来ていた。

踵を返し、引き返そうとする体を紫醒が止めた。

「あなたが今戻れば、結局何も助けられませんよ!早く秋涼様を!」

「しかし紀伊は!」

「まだ幹部達が残っています!あなたは秋涼様を!」

「だが!」

「秋涼様がいなければ全員死ぬでしょう!どっちを選ぶのですか?」

「くっそ!」

秋矢は壁を叩くと階段を降りた。

どれほど続くのか、そう思えた時やっと行き止まりが見えた。

そこは頑丈な金の鍵が掛かっていた。

「この鍵は・・・。」

「秋霖様が施した魔法でしょう。」

「こんな巨大な鍵など!」

秋矢は焦りのあまり、視野が狭くなり、紫醒に怒鳴りつけた。

紫聖は少し考えてから結論を下した。

「鍵をとくには秋霖様の血が必要。そう聞いてその血をひいた貴方はここにこられたんでしょう?ただ必要なのは血だけではないらしい。ここは魔法が使えぬよう結界が張ってあります。ですが私はここで魔力を放出させてみます。もし私の魔力が結界に勝てば、結界が破れるかも知れません。」

「できるか、紫醒。」

「やるしかないんでしょう?」

秋矢は自分の指を切ると血を鍵にかけた。

紫聖は秋矢を押しのけると、手を鉄の扉につけた。

「本当は紀伊をここにおいておくべきではなかったんです。四国の孤児の施設にでも預ければよかった。」

空気がパチパチと音を立て始める、視認できる範囲では、何も起こっていないようであったが結界が音をたて始めたのである。

「でも、お前がここにおいておいてくれたから、俺には居場所があったんだ。紀伊が笑ってくれたから、俺はここで母上と暮らせた。」

秋矢の言葉に紫醒は口を緩めた。

「本当は自分が手元に置いて育てるつもりでした。でも、二日で根を上げて秋涼様にお願いしたんです。」

「紀伊は手がかかるから。」

「ええ、手のかかる主と同じで。」

大きな破裂音と共に紫醒の肩が裂け血が飛んだ。

けれどそれと同時に扉にも亀裂が入った。

「もう少しだ。頑張れ、頼む。」

「うおおおお!」

紫醒の叫び声と一緒に結界はもろくなり扉が崩れ落ちた。

「紫醒!」

紫醒はその扉の下敷きとなっていまった。

魔法をかけようとしたときに、血が床を伝って秋矢の靴を汚した。

「おい、紫醒!」

声をかけてももう返事はない。

血は床をただ這うように汚してゆくばかり。

そして自分の選択すべき道は一人の命より、皆を救うための兄の救出。

「紫醒・・・。すまない。」

秋矢はその前で少し目を閉じると、紫聖の放出した魔力で溶けた扉入っていった。


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