表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/117

第96話 少女と女の間

軌刃の居なくなった後、暗くなった部屋で紀伊は窓から外をみた。

何処からともなく兵士達の号令の声や馬の嘶きが聞こえた。

(軌刃も死ぬこと覚悟してる。)

自爆のことを聞いた軌刃のあの真剣な眼差しを思い出した。

(でも、やだよ!死んで欲しくない。大好きな軌刃・・・お兄ちゃん死なないで。)

「紀伊。」

大芝が部屋の隅に立っていた。

大芝は夕闇で暗くなった部屋の中で青白く光っていた。

「何、それ新しい能力?」

「いいや、隠してたんだ。普通の人間の振りをするためにな。」

紀伊は笑うとそんな大芝の隣に並んだ。

「ねえ、大芝。私、人を愛せるようになってからウザイ子になってる気がする。秋矢様にすがり付いてみたり、怒ってみたり。でもその分、自分の気持ちに素直になれた気がする。」

「無関心でいられるよりも関心を持ってもらえた方が俺はいいな。あの時、花梨にそうしてもらえたら少しは違ったのかもしれない。黙ってしまわれると相手の本心が分からなくて、逆に心配になる。」

「そうだね、花梨様はあんまり本心を見せてくれないね。いつもはぐらかされてる気がする。」

「ああ。それに比べると紀伊なんて分かりやすいもんだ。怒るとほっぺた膨らむか口がとがるからな。」

「また子供扱いして。」

紀伊は大芝と話せることが嬉しく思えて、大芝の袖を掴んだ。

「でも、変わったんだよ。私だって、失うことは恐いはずなのに、何もしないことがいやなの。自分の命を失ってもいいから、誰かを守りたいの。」

「紀伊を成長させてくれたのは、あの青年かな。」

「秋矢様をずっと弟だと思っていたけれど、今のあの人は私よりも何倍も何倍も大人のように思えるの。私のない部分を補ってくれる。それが心強くて格好よく見えるの。」

紀伊は何かすっきりしたような顔をして、大芝を見た。

大芝は薄く光ながら紀伊を見つめていた。


軌刃が出発して三時間ほどした時、秋矢が大広間に現れた。

「父上は各国を潰すおつもりです。今しかありません。」

紀伊は秋矢の側まで歩いていくと秋矢の手を握った。

恐ろしく冷たい手であったが、紀伊は両手でしっかりと包み込んだ。

「さて行くか。」

八鬼が座っていた椅子から立ち上がる。

大芝は腕組みをして立っていたそこへと紀伊は近づいてゆく。

大芝は兄のようでもあり、父のようでもあり、悪友でもあった。

「ねえ、大芝。呪いが解けて全てが終わったら、大芝の骨、納骨してあげるから。どこに持ってけばいい?」

「骨な。今、探してるんだ。でも見つかってもあのくそまじない師にだけは供養させるなよ。地獄に行きそうだから。・・・できれば家族の眠る墓がいいな。」

紀伊と大芝が微笑むと、真壁が口を挟んだ。

「子猫ちゃん。頑張っておいで。ここは軌刃の故郷で、その妹なら子猫ちゃんの故郷にもなるんだから。」

「そう言ってもらえるとなんだか嬉しいです。」

「軌刃と二人の面倒なら喜んで見よう。二人とも私のお嫁さんにしてあげるから。」

「ええ?それはちょっと、だって私には素敵な夫が。」 

紀伊は秋矢の手に力を入れた。

(この人が居れば恐くない、何も恐いことなんて無い。)

「行こうか。」

「うん。」

秋矢目を閉じると、景色が一変した。

そこは見慣れた魔城の中の廊下だった。

三叉路の真ん中に自分達は立たされていた。

「では、私は兄上を復活させます。紀伊と八鬼殿はその通路から入って行けば、鉄の扉があるはずです。透影とあなたは援護してやって下さい。」

(ここで、離れちゃうのか。)

手を放そうとすると八鬼が止めた。

「俺は一人で大丈夫だ。紀伊を君の方に連れて行ってやってくれ。」

紀伊は秋矢と見つめ合うと頷いた。

八鬼は満足そうに微笑むと、二人の背を押した。

「早く、行ってこい。」

紀伊はその声に頷くと、最深部に向けて二人で走り出した。

「鬼族、なんて厄介なだけだな。」

八鬼が呟くと大芝が後ろで笑った。

「じゃあ、何でそんなに笑ってるんだ?」

「さあな。やっとあの魔王に復讐できるからかな?」

「それは俺も同感だな。」

八鬼と大芝はお互い不敵な笑みを浮かべると、地下への階段を下りていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ