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第94話 二人の両親

「忠鬼は結構丸い目でな紀伊にそっくりだ、だが、とても良い反射神経をしていたぞ。

俺と砂鬼と三人で悪さをすると必ず最後まで捕まらないのが忠鬼だった。

雅鬼はどっちかと言えば切れ長の目で、すらっとした美人だった。歌がうまかったのは知ってるだろうが、変なところで真面目な奴でな。何が楽しいのかあのまじない師に弟子入りなんかして・・・。」

二人は声の向へ目を向けた。

八鬼は二人の隣に腰を下ろすと紀伊と軌刃の顔を見つめていた。

そこには親友の面影がしっかりと残っていたからだ。

「そうだな・・・忠鬼は子供の頃から許婚の雅鬼にべた惚れで、雅鬼はきっとそれ程でもなかったんだろうな。よく空回りな悪戯をしては怒られていた。

村が襲われて離れ離れになってもあいつはずっと諦めずに雅鬼を探してた、そしてこの国にやってきた。

あのころは俺も若かったから、色々二人で無茶もしたし。まあ、一番の無茶は、平争に歌いに来た雅鬼を見つけた時だな・・・。生きてるって分かった雅鬼を魔城まで連れ戻しに行って、二人を逃がすのにどれだけ苦労したか・・・。」

いつも我関せずといった八鬼が初めて自分の親について語ってくれた。

二人はその話しに食らいつき、更なる言葉を求めたが、それ以上聞くことは出来なかった。

一呼吸おくと八鬼はとても辛そうな顔をして、黙り込んだ。

彼自身死んだ親友のことを思い出すのは辛かったのかもしれない。

「母も父を愛してたんですよね。」

紀伊はそれでももう少し知りたかった。

聞けるのは次いつになるか分からなかったからだ。

「だろうな。魔城から彼女を逃すとき雅鬼は忠鬼の手を離さなかった。あそこにいてずっと気を張ってたんだろう。

あんなに素直に忠鬼の言うことを聞く雅鬼は初めてみた、気の強い女だと思っていたが、忠鬼の前では違うんだな。

村に戻って夫婦になって忠鬼は急にしっかりした男になったし、雅鬼も芯のある女になった。二人は鬼族のあの村の希望だった。生き残りの中の希望として皆から見守られていた。

そしてお前達が生まれた。村が幸せに包まれてた。あの時は。ただ幸せだったんだ。またやり直せる、鬼族が増える。皆そう思ってた。多分一番そう考えたたのはお前達の両親だろうな。」

紀伊は瞳を閉じて記憶の中に残る子守唄を思い出した。

優しい声と優しい言葉だった。

不意に軌刃が声をあげた。

「父と母は自爆したと聞きました。どうすれば・・・。」

暫く答えはなかった。

親友の子にそれを教えるのはどうしても嫌だったのかもしれない。

「俺には守りたいものがあるんです。お願いです。教えて下さい!」

けれど軌刃の瞳は親友の子供の瞳ではない。

男としての瞳だった。

根負けしたのは八鬼だった。

「・・・自爆とは・・・一気に竜を解放させる、我々は竜使いというように竜を体の中に宿し、呪文によって竜の力を出すのだが、ただ一度だけ竜は我々の体を食い破り竜鬼山へ帰ろうとする。その時にとてつもない力が働くのだ。その場合本人は確実に死ぬ。だから自爆という。」

紀伊は目を開いて正面の軌刃を見つめた。

軌刃もまた紀伊を見つめていた。

(そんな技を使いたくない。しかし、もし使わなければならなくなったら・・・。)

お互いそう考えているのが手に取るようにわかった。

(絶対この人にだけは使わせない。)

八鬼は二人の様子をしばらく見ていたが目を伏せ、一言言葉を残し歩いていった。

「お前たちを見てると、お前たちの両親を見ているみたいだ。お前達は死ぬなよ。」


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