表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/117

第92話 秋矢への憎しみ

「魔物にやるの?」

砂鬼が虫の息で呟く。

どこまで行っても紫奈よりも少しまだ幼い少年の顔は無表情だった。

死を覚悟していた砂鬼だったが、いつまで経ってもその瞬間は訪れることがなかった。

「結局どれだけ逃げても、魔王に殺されちゃうの。逃げられるって…思ったのに。」

砂鬼は悔しかった。

家族を奪われ、次にどうにか生き残った忠鬼と雅鬼を奪われ、そして自分。

涙が伝う。

それでも一つ気がかりなことがあった。

「あんたさっき、紀伊ちゃんの話をしてたよね。お願いだから、あの子だけは生かしてあげて…あの子は大切な仲間の子供なんだよ!生かしてくれるんだったら、私、どんな死に方でも受け入れるから。」

けれど返事はない。

秋矢は砂鬼を抱えて、何処かの部屋にいれた。

部屋の様子を見ると女の子の部屋だった。

ただ暫く、使われている様子はなかった。

「紫奈、泣いてるのかな。私、あんなに素直に愛してもらったの初めて。」

紫奈の声と自分を男と知っても愛してくれるその心を思い出すとやりきれなかった。

「子供だって出来ないのに、どうしてあんなに必死に愛してくれたんだろう。」

目の前がだんだんかすんでゆく。

「紫奈、ごめんね、私、死んじゃうみたい。」

すると優しい白い光が自分の傷ついた手を包んでゆく。

耳元で男の声が聞こえた。

「昔から紫奈に口で勝ったことないんだよね。君、紫奈に口で勝ったことある?」

「え?」

砂鬼は考えていた。

自分の前の紫奈は割りと寡黙で自分の求めることを何でも叶えてくれた。

「ついでにキザだしさ。」

その言葉に砂鬼は笑った。

そして笑う余裕が出てくると同時にかすんだ目が見えるようになった。

目が見えるようになると砂鬼はただ不思議そうに自分を癒す少年を眺めた。

今見える顔は先程の氷のような顔ではない。

紫奈や紅雷、紀伊と年のそう変わらない少年の表情だった。

余計意味が分からなくなって砂鬼は尋ねた。

「あんた何者?」

「秋霖の息子だ。」

「じゃなくてさあ・・・味方?」

「コウモリ・・・、かも知れないな。」

「へ?動物なの?」

砂鬼の言葉に秋矢は笑う。

「両方にいい顔をしてるってことだよ。」

「ねえ、ね、どっちが本当?」

砂鬼は警戒を解いて興味津々に秋矢に尋ねた。

「本当は秋霖を倒そうとしてる。」

「じゃあ、私たちの仲間だね、あなた誰?」

砂鬼の言葉に秋矢は少し間をおいてから答えた。

「紀伊の夫だよ。」

「紀伊ちゃんの?え?何、何?どういうこと?いつの間に紀伊ちゃん!で、紀伊ちゃん無事なの?」

「ああ、皆の事を心配している。君はここでしばらく休んでて。動かないでね。命の保証は出来ないから。」

「分かった。」

砂鬼はそう言うとニコッと笑う。

そして紀伊の夫という少年をただ嬉しそうに見ていた。

「あの子を幸せにしてやってね。あの子達の両親の分も。」

「ああ。」

砂鬼の言葉に秋矢は幸せそうに笑った。

その笑顔を見ると砂鬼は気を失った。


捕まっている者たちは地下の一部屋に集められた。

窓も何もない、何かの封印の施された重たい鉄の扉が一枚あるだけの部屋だった。

「さっちゃん・・・、畜生!秋矢の奴!」

紫奈が泣きながら壁を叩く。

「諦めろ、あいつの寿命だったんだ。」

巳鬼が何の感情もなく呟いた。

「五月蝿い黙ってろ、鬼ババア!」

荒れ狂う紫奈の言葉に巳鬼は何の反応も見せなかった。

「秋矢、完全に敵になっちまったんだな。」

隣で紅雷が寂しげに呟き、柳糸が頷いた。

「紀伊、悲しむだろうな。弟みたいに思ってたから・・・。」

「もうあいつは敵です。何があったってあいつを殺しますよ。」

紫奈は涙を流しながら強く叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ