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第91話 悪の秋矢

次の朝、空はどんよりと曇っていた。

紀伊が目を覚ますと秋矢の姿はもうそばにはなかった。

自分を澄んだ目で見てくれる愛しい年下の恋人。

一緒に眠りについたはずの布団にももう彼の温もりはない。

そうなると秋矢の存在が夢のように思えた。

「秋矢様・・・。」

布団の中から視線を動かし、窓から見える範囲の空を見上げる。

白をくすぶらせたような灰色の雲が気分を滅入らせてゆく。

白でもなく黒でもない気持ちの悪いその空の色。

紀伊は悲しそうにその窓から視線を反らした。


「父上、ただ今戻りました。」

透影にまた十六の姿に戻った秋矢が跪くと、真っ黒の衣装を着た恐ろしく端正な顔をした男は面白そうに笑った。

男の前では砂鬼の血をすする魔物達。

秋矢は少し眉間に皺を寄せた。

「他の者は?」

秋矢が声をかけると秋霖は笑って指を指した。

その先には縄で吊されている者たちが居た。

秋矢は幹部たちを見ると、黒雷が軽く首を振った。

「秋矢、何処に行っておった?」

秋霖が面白そうに訊いた。

秋矢は恭しく頭を下げるとまっすぐと父を見つめた。

「はっ。残る鬼族を探し出してきました。」

「ほう。」

秋霖は面白そうに笑った。

「奴らは私が何者かも気付かなかったので、うまく丸め込んでおきました。いずれここに現れるでしょう。」

「ほう、良い余興になるな。お前も気にかけていたあの鬼族への要らぬ情をすてたというのだから今度はどれほど残酷な手で手にかかけるか、それを考えただけで楽しみだ。」

「ええ。お任せを。もう布石は打っております。」

秋矢が感情と抑揚のない声で呟くと間が少し空いた。

その間、隣から血をすする音が聞こえていた。

「処で父上、この者邪魔なのですが。」

秋矢は砂鬼にまるでゴミを見るかのような目を向けた。

秋霖にとってはその目が息子の価値を決める要素のひとつだった。

「ああ、それも鬼族だ。もう死ぬだろう。」

その言葉を聞くと秋矢は意地の悪そうな笑顔を浮かべた。

「邪魔なので、森に捨てて良いですか?外でも魔物が腹を空かしていますよ。」

秋矢の言葉を聞いて、紫奈の叫び声が聞こえた。

「やめなさい!秋矢!さっちゃんに、砂鬼に触れるな!秋矢!」

「ああ、魔物にやれ。」

秋霖の言葉を聞くと、秋矢は礼をして砂鬼を引きずった。

引きずられ流れた血が跡になって残ってゆく。

それがまた紫奈の心に傷をつけた。

「秋矢!あなたは許しませんよ!」

紫奈の声は悲痛なものであった。

「秋矢は私の後継者にふさわしい。」

秋霖が笑いながら言うと、秋霖の側近の葵が笑う。

「ええ、真ですね。秋涼様とは違い大変努力家であられますし。」

「私と彼女の子はこうであらねば。」

秋霖はその言葉を吐き、満足げに笑った。


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